第11話 繋がる四つの心
――あれから数日。
初任務での激闘を終え、チームは休養に入った。
仲間たちはまだ療養や訓練に回されている中、呼び出されたのはしずく一人だった。
訓練場の片隅。
リサは背を壁に預け、その紅の瞳がしずくを射抜き、重い声が落ちる。
「……来たか。」
「リサさん……?」
しずくが小首を傾げた瞬間、リサは深く頭を下げた。
「……すまなかった。」
「えっ……!?」
リサが――自分に頭を下げている。
しずくは驚愕し、思わず目を丸くした。
「お前たちを……俺の不用意な判断で危険にさらしてしまった。本当に申し訳なかった。」
「そ、そんな……! リサさんのせいじゃありません!」
しずくは慌てて首を振る。
「私たちが未熟だっただけで……無事に戻って来られただけで十分です!」
リサはしばし黙り、やがて息を吐いた。
「……そうか。そう言ってくれるなら、救われる。」
一度目を伏せたあと、紅い瞳を上げてしずくを見据える。
「それと……よくやったな、しずく。」
「えっ……」
「仲間を守るために最後まで踏ん張った。その判断も、盾を張り続けた根性も……お前がいなければ、全員あそこで終わっていた。」
わずかな熱を宿した声。
「……胸を張れ。お前はもう、立派に魔法少女だ。」
しずくの胸がじんわりと熱くなる。
「……リサさん……。」
――だが。
次の瞬間、リサの表情は再び鋭さを取り戻した。
「――それでだ。」
場の空気が一変する。
しずくは息を呑み、背筋を正した。
リサは腕を組み、低く告げた。
「お前らが遭遇したあのマガツ……“知能がある”と言ったな?」
「はい……。あのとき、ミカちゃんを――囮にして……私たちを洞窟の中に誘い込んだんです。偶然なんかじゃありません。」
「……チッ。やっぱりそうか。」
リサの眉が深く寄る。
「普通ならあり得ねぇ。だが最近のマガツは、動きが妙に組織的になってきている。単独で現れるはずのやつが群れを作ったり、あり得ねぇ場所に出現したり……」
「……そんな……。」
しずくの胸に冷たいものが走った。
「もちろん全部がそうじゃねぇ。だが、知能を持つ個体が出てきている可能性は否定できない。もしそれが事実なら……これまでの戦い方は通じなくなる。」
しずくは唇を噛み、拳を震わせた。
「……私、怖いです。でも……絶対に見過ごせない。」
リサは頷き、低く告げた。
「その気持ちを忘れるな。……上には俺から報告しておく。
だからお前は――次に同じことが起きたとき、
自分の目で確かめて、自分の判断で仲間を守れ。」
紅の瞳が、鋭さと同時に力強さを宿していた。
「それが“隊長”の責任だ。……分かったな?」
「……はい!」
震える声。それでも迷いはなかった。
訓練場を出て、しずくは胸の奥に熱を抱えたまま食堂へ向かっていた。
リサの言葉――それは重く、けれど少しだけ暖かく胸に残っていた。
通路の先から、魔法少女たちの小声が聞こえてくる。
「……また、白封筒よ。」
「ほんと、あんなのに仲間がいるわけないっての。」
言葉は刃のようにしずくの背中を撫でた。
胸の熱が冷え、肩がぎゅっと縮こまる。
「しずく様!」
背後から声がして振り向くと、アヤメが盆を抱えてにこりと笑っていた。
真面目な顔が、少しだけ柔らかい。
「食事をご一緒しましょう。」
その言葉に胸の痛みが少し和らぐ。
「しずくちゃーん!!」
遠くから元気な声。ミカが駆けてきて、その後ろをソラが追う。
「ミカちゃん! もう大丈夫なの?」
「もうすっかり! しずくちゃんのおかげだよ!」
ぴょんと跳ねるような笑顔。ソラも息を切らしながら駆け寄ってきた。
「しずくさん、お体はもう大丈夫ですか?」
「私は平気。ありがとう。」
そう答えると、ミカがすかさず手を引いた。
「しずくちゃん、一緒に食べよ!」
その瞬間、アヤメとミカの視線が、先ほど嘲笑した少女たちを鋭く睨みつける。
数秒の沈黙。気まずそうに舌打ちを残し、彼女たちは立ち去った。
「まったく……。」
アヤメが吐き捨てる。だがその顔つきは、もう冷たいだけではなかった。
やがて四人で並んで食卓を囲む。
ミカは楽しそうに笑い、ソラも小さく口元を緩める。
三人は不器用に、けれど確かにしずくへ向き合おうとしていた。
――数日後。
《アークライト》訓練場。
模擬マガツを相手にした連携訓練。
以前はバラバラだった足並みが、嘘のように噛み合っていた。
「アヤメさん、援護お願いします!」
「了解!」
アヤメの魔素弾が精確に関節を撃ち抜き、敵の動きが止まる。
「ソラちゃん、今!」
「……っ、はい!」
ソラの結界が広がり、触手の反撃を防ぐ。
「ナイス! じゃあ私がトドメだーっ!」
ミカの魔装爆弾が炸裂し、模擬マガツを吹き飛ばす。
最後にしずくが盾を掲げる。
白光が広がり、仲間を包むように堅牢な壁を築いた。
【評価:成功。連携率92%】
無機質な判定AIの声。
四人は同時に息を吐き、互いの顔を見合わせた。
「……やった、成功だ!」
ミカが満面の笑みを浮かべ、ソラも小さく頷く。
アヤメは姿勢を正しながらも、頬にかすかな笑みを浮かべていた。
しずくの胸に熱が広がる。
(……みんなと、やっと繋がれたんだ。)
それは、彼女にとってかけがえのない“初めての達成感”だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
流瑠々と申します。
マガツの知性を感じる行動、目的とはいったいなんなのか。
次回 進化する影 お楽しみに
もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、
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それではまた次回。
流瑠々でした。




