表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の魔法少女 ―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―  作者: 流瑠々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/108

第104話 空へ還る声

ユナイトアーク障壁、正面防衛ライン。



「ぐううぅぅ……ッ!!」


結界を一手に任されていた翠弓結社ヴェルデントアローの魔法少女たちが、

苦悶の声を漏らす。


過剰な魔力行使により、彼女たちの目や鼻からは血が流れ、

意識は飛びかけている。



「耐えろ! みんな頑張れ!!」


「ここで我々が引いたら、後ろが全滅するぞ!」


「我々しかいないんだ! 翠弓の意地を見せろォォォッ!!」



互いに声を張り上げ、震える足で踏ん張る。


だが、精神論ではどうにもならない限界が無慈悲に訪れる。


プツン、プツンと、魔力切れを起こした者が、

糸が切れた操り人形のように次々と倒れていく。


「くそっ……もう、だめか……ッ」



防ぐ手立ては、もうない。



「すまない……。 指揮官である私が、不甲斐ないばかりに……」




ギルベルトは愛用の拳銃を握りしめ、苦渋の表情で唇を噛んだ。



守り抜くはずが、最後は部下たちを道連れにする形になってしまった。



その時、鋼律連盟アイアンコード副官エリオットが静かに歩み寄り、

ギルベルトの隣に立った。




「そんなことはありません、ギルベルト様」


「エリオット……?」



「貴女の指揮でなければ、我々はとうの昔に全滅していました。

……最後まで、お供いたします」



エリオットだけではない。

周囲の兵士たちが、ギルベルトを見て頷いていた。


全員が分かっている。


これから突撃すれば、間違いなく死ぬ運命だと。


それでも、彼女らの瞳に恐怖による敗走の色はなかった。



「……そうか」



ギルベルトは涙をこらえ、前を向いた。





「アヤメ……今まで、ありがとうね」



ミカが震える手で武器を構え、隣のアヤメに微笑みかけた。



「こちらこそ……。 ミカと会えて、楽しかったです……」


アヤメは弾を込め、ギュッと目を閉じた。


迫りくる黒い波。 飲み込まれるのは時間の問題だった。



「アヤメ!ミカ!私の後ろに隠れていろ!!」



リリアが二人の前に飛び出し、クナイを構える。



「リリアさん!?」


「無駄です! もう防げません!」



「諦めるな! 最後まで!」


リリアは吼えた。その脳裏に浮かぶのは、大切な仲間たちの顔。


リリアが歯が砕けんばかりに食いしばる。 しかし、現実は非情だ。


「そ、総司令……ッ! 翠弓結社ヴェルデントアローが、もう限界です!!」


結界の最前線を支えていた魔法少女の一人が、目から血の涙を流しながら絶叫する。 魔力回路が焼き切れ、全身から煙を上げながら、それでも彼女たちは手を離さない。


「くそおおおおッ!! 保ってくれぇぇぇッ!!」


だが、祈りは届かなかった。


パリーンッ……!!


無情にも、最後の結界が砕け散った。 ガラス細工のように儚く散った光の破片の向こうから、絶望が雪崩込んでくる。


防御壁が消滅し、堰を切ったように無数のマガツが押し寄せてくる。 黒い津波。 飲み込まれれば、骨一つ残らない。


もはや、躊躇している暇はない。


「怯むなァッ!!」


ギルベルトが、誰よりも早く最前線へと飛び出した。


彼女は愛用の拳銃を構え、部下たちに背中を見せて吼えた。


「私の背を見て戦え!前を向け!

散っていった仲間たちの為に!!我らの誇りを刻み込めェッ!!」



その背中は、震える兵士たちを鼓舞する最後の希望。



「突撃ィィィィィッ!!!」



ギルベルトが先陣を切って飛び出した。 死兵と化した人類の、最後の特攻。



「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!」



全員が続く。 涙を捨て、恐怖を怒りに変えて。



黒い波が目の前まで迫る。


鋭利な爪が、牙が、兵士たちの喉元に届こうとした、その刹那。



シュゥゥゥゥ……。



「……え?」



誰かの声が漏れた。


目の前にいたマガツが、陽炎のように揺らぎ、光となって消滅したのだ。


一体だけではない。


戦場を埋め尽くしていた数万の敵が、


次々と光の粒子となって空へ還っていく。



戦場に、痛いほどの静寂が落ちる。


風の音だけが響く。


誰一人として動かない。いや、動けないのだ。


これは夢ではないか。動けばまた、あの地獄が再開するのではないか。



そんな恐怖と疑念が、少女たちの足を縫い止めていた。



「ギ、ギルベルト様……」



副官のエリオットが、よろめきながら近づいてきた。


その顔は泥と涙でぐちゃぐちゃで、縋るようにギルベルトの袖を掴んだ。



「私たちは……生きているんでしょうか……?

もう……終わったと……そう思っていいのでしょうか……?」



その問いかけは、その場にいる全員の心の声だった。


皆が、ギルベルトを見ている。


指揮官の言葉で、この信じられない光景を現実にしてほしいのだ。


「……あぁ」



ギルベルトは、エリオットの震える手に自分の手を重ねた。


温かい。生きている人間の体温だ。



「……エリオット。 夢ではない。……我々は、ここにいる」



ギルベルトは一つ大きく息を吸い込み、涙をこらえて振り返った。


ここで自分が泣き崩れてはいけない。


生き残った娘たちに、夜明けを告げるのが、指揮官の最後の義務だ。



「総員、聞け!!」



その声が、静寂を破った。 かすれているが、戦場を支配する凛とした響き。


少女たちの肩がビクリと震え、全員が指揮官を凝視する。



ギルベルトは空を指差した。



「空を見ろ!敵影はない!……悪夢は去ったのだ!!」



どよめきが広がる。 隣の仲間の顔を見る。自分の手を見る。



「我々は……生き延びた! 人類の……我々の勝利だァァァッ!!!」



「「「…………ッ!!」」」



一瞬の空白。 指揮官の言葉が脳に染み渡り、

それが絶対的な現実だと理解した瞬間。


張り詰めていた糸が切れ、堰を切ったように感情が爆発した。



「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」



割れんばかりの大歓声。


少女たちが銃を放り出し、隣の仲間と抱き合う。


地面に突っ伏して泣く者、空に向かって吠える者。



生きてる。勝った。終わったんだ。



その歓喜の輪の中心で。



ギルベルトは、ゆっくりと銃をホルスターに納めた。


そして、そのまま動かなくなった。


背筋は伸びている。表情も崩していない。


だが、その碧い瞳から、一筋、また一筋と、静かな涙がこぼれ落ちていた。



「……すまない」



誰に聞かせるでもなく、彼女は唇を震わせた。



「私のせいで……多くの命を……無くしてしまった。

未来ある娘たちを……私の采配で死なせてしまった……」


脳裏に浮かぶのは、戻らなかった部下たちの顔。


いつも笑っていたあどけない少女達。


恐怖に震えながらも、

最後まで引き金を引くのをやめなかったエクリプスと魔法少女。


彼女たちの屍の上に、今の自分は立っている。


その罪悪感が、勝利の喜びよりも重く、


ギルベルトの心を締め付けた。


「ギルベルト様……」


生き残った鋼律連盟アイアンコードたちが、

涙ながらにギルベルトを囲む。


顔に傷を負った魔法少女が、泥だらけの手で胸を押さえた。



「謝らないでください……!

貴女のせいじゃない。私たちは、貴女だから付いてきたんです!」



「そうです! ギルベルト様が最前線に立ってくれたから!

誰よりも苦しんで、私たちを守ろうとしてくれたから!

だから私たちは……最後まで誇りを持って戦えたんです!」



「死んだあの子たちだって、貴女に謝られることなんて望んでません!

 『守りきったぞ』って……そう胸を張ってくれることを望んでるはずです!」



「みんな……」



ギルベルトが顔を上げる。


そこには、生きて帰れたことを喜ぶ顔ではなく、

指揮官への信頼と敬愛に満ちた、勇敢な戦乙女たちの顔があった。



部下たちが、示し合わせたように直立不動の姿勢をとる。


ザッ!



一糸乱れぬ音と共に、全員が一斉に敬礼した。



それは、共に地獄を歩んだ指揮官へ、

そして散っていった姉妹たちへの、最大級の敬意。



「……感謝する」



ギルベルトは袖で静かに涙を拭うと、軍靴の踵を鳴らした。



背筋を伸ばす。 軍人として、彼女らの想いに応えるために。




彼女は震える手で、ビシッと敬礼を返した。


その視線は、青く澄み渡り始めた空へと向けられている。



(今は叫ぼう――)



ギルベルトは心の中で、空へ語りかけた。



(この歓声が……空へ還った仲間たちに届くように。

我々は守り抜いたと。君たちの死は、決して無駄ではなかったと。

この魂の限り……勝利を叫ぶのだ)



「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」



生き残った者が死者へ捧げる、悲しくも力強い歓声。

万人の想いが込められた歓声は、

いつまでも、いつまでも戦場の空に響き渡った。



そんな中、歓声に混じって三つの影が走り出した。



「行くぞ、アヤメ、ミカ!」


「はいッ!」


「リリアさん、待ってください!」


アヤメ、ミカ、リリアの三人は、涙を拭い、城内へと駆け出した。



目指すは最上階。 世界を救った、たった一人の英雄――しずくの元へ。

ここまで読んでいただきありがとうございます


流瑠々と申します。


もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、


ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。


次回 涙の救護室 お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ