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白の魔法少女 ―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―  作者: 流瑠々


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第101話 終わりの宣告



ユナイトアーク、正面防衛ライン。



そこはもはや、戦場と呼ぶにはあまりにも凄惨な、地獄だった。



「ひるむな! 押し返せ! ここを抜かれたら終わりだ!」



かつて「鉄壁」を誇った城壁の上は、黒い濁流に飲み込まれようとしていた。


弾幕による遠距離迎撃など、とうの昔に崩壊している。


「結界班、維持しろ! あと少しでいい、時間を稼げ!!」



翠弓結社ヴェルデントアローの隊員たちが、

血を吐くような思いで魔力を絞り出し、薄皮一枚の結界を維持している。


だが、それも限界だった。


城壁をよじ登ってきた無数のマガツと、

魔力を使い果たした兵士たちが入り乱れる、泥沼の白兵戦。



「グギャアアアアッ!!」


「うわぁぁぁぁぁッ!!」



悲鳴と怒号。肉が裂け、骨が砕ける音が絶え間なく響く。


一体倒せば二体が湧いてくる。 終わりのない消耗戦が、

人類最後の砦を削り取っていく。



その混沌の只中で、ギルベルトは声を枯らし、指揮を執り続けていた。



「右翼、下がれ! 中央、押し上げろ!!」



その時。



ドゴォォォン!! 爆音と共に、翠弓結社の結界の一角が砕け散った。



「しまっ……!?」



そこは防衛ラインの要。ここを突破されれば、本陣まで一気に雪崩れ込まれる。



「そこだけは抜かれるな!!総員、死守せよ!!」



ギルベルトが叫ぶ。 だが、兵士たちの反応が遅れる。


疲労と恐怖で体が動かないのだ。 マガツの群れが、裂け目に向かって殺到する。



(くっ、動きが鈍い……ッ! ならば私が無理やりにでも動かす!)



ギルベルトは 激痛が走る体に鞭を打ち、強制命令の権能を発動しようとする。



「――絶対秩序アブソルート・オーダー!!」



カッ……!



魔力を練り上げた、その瞬間だった。



「――ゴフッ!!」



「総司令!?」



命令よりも先に、ギルベルトの口から大量の鮮血が噴き出した。



視界が揺れ、膝から崩れ落ちる。



「くそっ……魔素が……空だというのか……ッ!」


「ギルベルト様!!」



近くにいた部下が駆け寄る。


無理もない。


『絶対秩序』は、他人の精神と肉体に干渉し、強制的に動かす諸刃の剣。



それを彼女は、開戦から何時間もの間、


何百人という兵士に行使し続けてきたのだ。



常人ならとっくに脳が焼き切れ、絶命しているほどの負荷。



ギルベルトは、気力だけで立っていたに過ぎない。



(防げない……! 今から指示を出しては遅い……!!)



ギルベルトが絶望に顔を歪めた、その時だった。



タッタッタッ!!



一人のエクリプスが、ギルベルトの横を風のように駆け抜けた。


「――ッ!?」



彼女の手には、対マガツ用の高魔力手榴弾。 すでにピンは抜かれている。



「まて!! 貴様、何をする気だ!!」



ギルベルトが叫ぶ。


彼女は一瞬だけ振り返り、泣きそうな、けれど晴れやかな笑顔を見せた。



「ギルベルト様!貴方の部下でいられて……ご一緒できて光栄でした!!」



「やめろ!!戻れ!!」



「ギルベルト様は負けない!!勝つのは……私達人類だ!!」



彼女は叫びと共に、


崩れた防壁の裂け目――マガツの奔流へと、迷わず身を投げ出した。



「うおおおおおおおおおおっ!!」



彼女はマガツに組み付くと、その身を盾にして押し留めた。



カッ!!



「――――ッ!!」



ドオォォォォォォォォォン!!!!!



爆炎。 彼女の体ごと、押し寄せていたマガツの先頭集団が吹き飛んだ。


肉片となり、瓦礫となり、彼女は穴を塞ぐための礎となった。



「馬鹿野郎がぁぁぁぁぁッ!!!」



ギルベルトが地面を叩いて絶叫する。


救えなかった。また一人、自分の部下が、自分を守って死んだ。



「総司令! 今です!!」



別の部下が、涙を拭いながら叫んだ。



「今すぐそこを固めろ!!彼女の命を無駄にするな!!」



「うおおおおおッ!!」



兵士たちが奮起し、爆煙の中へと突っ込む。


部下のサーベルが、


残ったマガツの首を刎ね飛ばし、防衛ラインを強引に再構築していく。


「ハァ、ハァ、ハァ……ッ」



ギルベルトは震える手で口元の血を拭った。



「総司令! 下がってください! ここの本部はもう支えきれません!」



ギルベルトの副官エリオットが血相を変えて懇願する。


ギルベルトの軍服は返り血で赤く染まり、立っているのが奇跡のような状態だ。


だが、瞳から光は消えていなかった。


「私が……下がるわけにはいかないっ!!」


ギルベルトは低い声で言い捨て、次なる敵を見据える。


「本陣の守りなど不要だ!!」


「しかし! 貴方にもしものことがあれば、全軍の指揮系統が……!」


「私だけ生きようとは思わない」


彼女は、血に濡れた銃先を空へと向けた。


「私の命令で、何人の若者が死んでいった?

先ほどの彼女のように……私の無力さのせいで、どれだけの命を死地へ送った?」



脳裏に焼き付く、部下の最期の笑顔。



「……その私が、部下を盾にしておめおめと生き残れるはずがなかろう」


ギルベルトの瞳に、鬼神の如き闘志が宿る。

もう、指揮官としての冷静さはいらない。

今はただ、散っていった者たちのために、一滴の血まで絞り尽くす。



「もはや、階級も立場も関係ない。 私は一人の兵士だ。

目の前の敵を殺し、 最後の一兵となるまでこの地を守り抜く!」



ギルベルトが大きく息を吸い込んだ。

それは、死にゆく者への鎮魂歌ではなく、 生きて抗う者たちへの咆哮。



「ここからだ!!あいつらが繋いでくれた命を懸けて、守り抜くぞっ!!」


「「「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」


兵士たちの雄叫びが重なる。 死兵と化した人類の怒りが、戦場を震わせた。


「行くぞオオオオオオオオオオオオッ!!!」








「オラオラオラオラオラァァァァッ!!!」



場所は変わり、ユナイトアーク最上階。


リサの怒号が、ギルベルトの咆哮とシンクロするように響き渡る。



ドガガガガガガガッ!!



大剣の乱舞。



リサは全身から炎を噴き上げ、

人間ロケットのようにセラフィナへ突撃を繰り返していた。



「こっちはまだ一歩も引いちゃいねぇんだよッ!!」



「野蛮な……ッ!」



セラフィナが闇の障壁で防御するが、リサの馬鹿力に押され、足が床を削る。


魔力を吸われている影響で、セラフィナの出力が明らかに落ちている。


絶対無敵だった神の領域に、ほころびが生じ始めていた。


「しずく!合わせろ!」 「はいッ!!」



リサが強引にこじ開けた隙間に、しずくが飛び込む。


盾に魔力を集中させる。


「ハァッ!!」


鋭い盾の突きが、セラフィナの障壁を貫こうとする。


「チッ、小蠅が!」


セラフィナが指を弾く。


重力弾がしずくを弾き飛ばそうとするが、

しずくは盾を斜めにして受け流し、踏みとどまる。


「ナメるなァッ!」


そこへ、リサが追撃の大剣を叩き込む。 息つく暇もない波状攻撃。



(くそっ……! この私が……こんなゴミどもに押されるだと!?)



セラフィナの表情が屈辱に歪む。


魔力の枯渇感が焦りを生み、焦りが判断を鈍らせる。


だが、腐っても彼女は神。


追い詰められた獣は、起死回生の一手を隠し持っていた。



「調子に乗るんじゃないわよォッ!!」



セラフィナが、防御を捨てた。


リサの大剣が肩に食い込むのを無視し、自らリサの懐へと飛び込んだのだ



リサが目を見開く。 肉を切らせて骨を断つ。


神を自称する彼女が、泥臭い特攻を選んだ。



「捕まえたわ」


セラフィナの手が、リサの腹部に触れる。


そこへ、残存する魔力の大部分を一気に注ぎ込んだ。


「――零距離・重力崩壊グラビティ・ゼロ



ドゴォォォォォォォォォォォォン!!!!!



「が、はァッ……!?」



リサの体内で、小規模なブラックホールが爆ぜたような衝撃。


内臓がねじ切れ、肋骨が粉砕される音が、しずくの耳にも届いた。



「リサさんッ!?」



「あ……が……」



リサの口から、大量の血が噴水のように溢れる。


彼女の頑強な肉体をもってしても、耐えきれない致死級のダメージ。



「消えなさい、リサ!!」




「リサさんッ!!」



しずくの絶叫が虚しく響く。 瓦礫の山に埋もれたリサは動かない。


微かに感じていた魔力の残滓も、風前の灯火のように揺らぎ、今にも消えそうだ。



「……次は、あなたよ」



セラフィナが、ゆらりと向き直る。


肩で息をしてはいるが、その瞳に宿る殺意は、

リサを排除したことでより一層冷酷さを増していた。



「あ、ぁ……」



しずくは盾を構えるが、足の震えが止まらない。


瑠璃との死闘で消耗しきった体。


そこへ来て、頼みの綱だったリサの脱落。


絶望が、冷たい泥のように足元から這い上がってくる。



「……負けない」



しずくは自分を奮い立たせるように、乾いた唇を動かした。


「私が……最後の一人になっても……ッ!」


「健気ねぇ」


セラフィナが鼻で笑う。 彼女が指を弾くと、しずくの周囲の空間が歪んだ。


ズンッ……!!


「ぐ、ぅぅッ!?」



しずくの肩に、見えない鉄塊が乗せられたような重圧がかかる。


重力操作。 リサのような馬鹿力を持たないしずくにとって、

それは呪縛そのものだった。



「その重さは、あなたの無力さの重さよ」



セラフィナが滑るように接近する。


速い。


しずくは目で動きを捉えているが、体が鉛のように重くて反応できない。



「終わりにしてあげる」


ドゴッ!!


「が、はッ……!」


セラフィナの蹴りが、しずくの腹部に突き刺さる。


盾で防ぐことすらできなかった。


内臓が潰れる感覚。


しずくの体がボールのように吹き飛び、床を何度もバウンドして転がる。



「ケホッ、ガハッ……!」



口から大量の血が溢れる。



痛い。


熱い。



肋骨が何本か折れたかもしれない。 息を吸うだけで、肺が焼けるように痛む。



(立たなきゃ……。まだ、終わってない……)



しずくは震える手で床をつき、上半身を起こそうとする。


だが、力が入らない。 腕が、まるで他人のもののように感覚がない。



「あら、まだ動くの?」



コツ、コツ、とヒールの音が近づいてくる。 死神の足音。



「しぶとい虫は嫌いよ」



セラフィナが右手をかざす。



「――重力波グラビティ・ウェイブ



ドガァァァァァァン!!



「あぐぅッ!!」



上空から叩きつけられた衝撃波が、

起き上がりかけたしずくを再び床へと縫い留める。


床の大理石がひび割れ、しずくの体がめり込む。


「あ……が……」


声が出ない。 指一本動かせない。 完全なる支配。


「どう? これが神の力よ」


セラフィナがしずくの顔の横にしゃがみ込み、その髪を乱暴に掴んで引き上げた。


「見てごらんなさい、この無様な姿を」


強制的に顔を上げさせられる。 視界が霞む。


片目は腫れ上がり、もう片方も涙と血で滲んでいる。


「瑠璃も、リサも、カレンもセレスも……。

みんな死んだわ。あなたを守る盾は、もうどこにもない」



セラフィナの言葉が、物理的な痛み以上に深く、しずくの心を抉る。



「一人ぼっち。無力で、惨めで、救いようのない迷子」



セラフィナが嘲笑う。


「ねえ、教えてあげる。 あなたがなぜ勝てないか」


「あなたは弱者だからよ。誰かの犠牲の上にしか立てない、寄生虫だからよ」


「……ち、が……う……」


しずくが掠れた声で反論しようとする。


違う。


みんなが想いを繋いでくれたんだ。 私は一人じゃない。



セラフィナが指に力を込める。 首が絞まる。 酸素が遮断される。



「現に今、あなたは何もできずに地べたを這っている。

お姉ちゃんから託された力? 仲間たちの想い?

……そんなもので、私を覆せるとでも思った?」



セラフィナが立ち上がり、しずくの顔を踏みつけた。



グリグリと、ヒールが頬に食い込む。


「が、ぁ……」



「現実を見なさい。奇跡なんて起きない。ヒーローなんて来ない」


セラフィナが右手を高く掲げる。


天井の空間が裂け、これまでで最大級の闇の球体が生成される。


それは玉座の間すべてを飲み込み、消滅させるほどのエネルギー。



「さようなら、しずくちゃん。

来世では、もう少しマシな生き物になれるといいわね」



死の宣告。



しずくの視界が暗くなっていく。


重力で押し潰された体は、もう指先ひとつ動かない。 意識が遠のく。



(ごめんね……みんな……)



心の中で、謝罪が溢れる。



(お姉ちゃん……ごめんね。私、やっぱり弱虫だったよ……)



(カレンさん、セレスさん……約束、守れなかった……)



(リサさん……ごめんなさい……)




しずくの瞳から、光が消えていく。 抵抗する気力は、完全に尽きた。



「消えろォッ!!」



セラフィナが腕を振り下ろす。



闇の球体が、しずくを飲み込もうと落下を開始する。



もはや、打つ手なし。 絶対絶命。



暗闇が、彼女を優しく抱きしめようとしていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


流瑠々と申します。


もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、


ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。


次回 光聖槍ロンギヌス お願いします。


流瑠々でした。

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