第100話 №4氷の騎士
「消え失せろッ!!」
セラフィナが右腕を振るう。
それだけの動作で、大気が悲鳴を上げ、暴風のごとき重力波が三人を襲う。
「くぅッ……!!」
しずくは即座に前に出る。 盾を構え、魔力を展開。
ドゴォォォォォォォォォン!!!!!
見えない巨大な壁が激突したような衝撃。
しずくの足元の床がクレーター状に陥没する。 だが、彼女は一歩も退かない。
「よくやった!」
その背後から、リサが飛び出す。
しずくが作った一瞬の隙。
リサの大剣が紅蓮の炎を纏い、セラフィナの脳天へと振り下ろされる。
「――爆砕・紅蓮撃ッ!!」
「遅い」
セラフィナは目線だけで反応する。
リサの剣が、セラフィナの頭上数センチで見えない壁に阻まれ、停止する。
「ぐぬゥッ……!?」
「凍てつけ!」
間髪入れず、サイドからクラウディアが滑り込む。
氷の刺突。 絶対零度の切っ先が、セラフィナの脇腹を狙う。
「浅はかね」
セラフィナ指先から黒い稲妻を放つ。
クラウディアは舌打ちし、氷の障壁を展開してバックステップで回避する。
「チッ……!」
三対一。 数では勝っている。 連携も完璧だ。 それなのに、決定打が入らない。
セラフィナの半径数メートルは、物理法則が歪められた神の領域。
近づくだけで骨が軋む重圧。 放たれる魔法は、指先一つでビルを消し飛ばす威力。
「ハァ、ハァ……ッ。 化け物め……!」
リサが汗を拭う。
魔力が吸い出され、弱体化しているはずなのに、この強さ。
一瞬でも気を抜けば、即座に肉塊に変えられる緊張感が肌を刺す。
「どうしたの?もう息切れ?」
セラフィナが宙に浮きながら、冷酷に見下ろす。
「虫けらが何匹集まろうと、神には届かない。
その事実を噛み締めながら死になさい」
セラフィナが両手を広げる。
背後の空間が裂け、
無数の黒い球体――小型のブラックホールのようなエネルギー弾が出現する。
「――星屑雨」
ヒュンヒュンヒュンッ!!
豪雨のような弾幕。 触れた箇所を空間ごと削り取る死の雨。
「しずくッ!!」
「来るぞ!!」
クラウディアの鋭い指示が飛ぶ。
「合わせろ! 防壁を展開しろ!!」
リサが一歩踏み込み、大剣を横薙ぎに払う。
「オラァァァッ!!」
燃え盛る紅蓮の魔力が噴き上がり、セラフィナの闇を焼き払う巨大な炎の壁となる。
「させんッ!」
クラウディアもまた、長剣を床に突き立てる。
大気中の水分が一瞬で凍結し、ダイヤモンドダストを纏った幾重もの氷の結界が展開される。
左右に展開された、炎と氷の防壁。
そして、その真ん中。
「……ッ!!」
しずくは正面を見据え、盾を構えた。
迫りくる神の威圧に対し、一歩も退かずに真っ向から対峙する構え。
盾を握る右手に、熱い力が脈打っている。
しずくは盾を強く握り直し、歯を食いしばる。
自身の魔力である白銀の光。
そこに、深く澄んだ碧い粒子が溶け込んでいく。
白光が揺らめき、蒼と白が混じり合い、美しくも力強い奔流となる。
それは、最強の守護の光。
「――蒼ノ盾!!!」
ズドォォォォォォォォォン!!!!!
セラフィナの放った極大の重力波が直撃する。
だが、三色の輝きが重なったその防壁は、ビクともしない。
神の一撃を真正面から受け止め、光の粒子となって霧散させていく。
「くっ……このままじゃジリ貧だぞ!」
リサが叫ぶ。 今は耐えられても、いずれ魔力切れを起こす。
だが。 焦っているのは、魔法少女たちだけではなかった。
(……チッ。しつこい!)
セラフィナの額に、脂汗が滲む。 攻撃の手は緩めていない。
だが、内側から感じる枯渇感が、刻一刻と強くなっている。
生命の間の核が、猛烈な勢いでセラフィナの魔力を逆流させているのだ。
このまま戦闘が長引けば、先にガス欠を起こすのは自分の方だ。
(まずい……。このままでは、「神の座」から引きずり下ろされる……!)
セラフィナの瞳に、焦燥の色が混じる。
三人を相手にしながら、同時に魔力の流出を抑えるのは不可能だ。
ならば。 元を断つしかない。
「……鬱陶しいわね」
セラフィナが攻撃の手を止め、すっと高度を上げた。
「なに……?」
しずくたちが警戒する。 大技が来るか。
セラフィナは、自身の指を噛み切った。
ポタリ、と赤い血が床に落ちる。 そこへ、ドス黒い闇の魔力を限界まで注ぎ込む。
「出でよ――我が分身、破壊の権化」
ズズズズズッ……!!
床の血溜まりが沸騰し、黒い影が膨れ上がる。
セラフィナが指先を振るうと、足元の泥が音もなく隆起した。
現れたのは、細くしなやかな肢体と、硝子細工のような外殻を持つ異形。
――涯骸。
かつて苦戦した強敵が、ゆらりと音もなく立ちはだかる。
その動きは洗練されており、ただの泥人形ではない知性と殺気が漂っていた。
「チッ、またあの硬いのが湧きやがったか!」
リサが忌々しげに舌打ちし、大剣を構え直す。
その姿を見た瞬間、クラウディアの顔色が変わった。
「なんだ、あの魔力密度は……!?これが涯骸か。」
「行け」
セラフィナが冷淡に命じる。
「核を破壊しなさい。 邪魔するものは全て喰らい尽くして構わないわ」
「ガアアッ!!」
涯骸が凄まじい速度で下の階層へと姿を消した。
「しまっ……狙いは核か!?」
リサが叫ぶ。 もし核が破壊されれば、魔力の逆流が止まる。
そうなれば、セラフィナに全盛期の力が戻ってしまう。
それはすなわち、人類の敗北を意味する。
「行かせるかァッ!!」
リサが追いかけようとする。
ドォンッ!!
セラフィナが重力波を放ち、リサの足止めをする。
「逃がさないわよ。 あなたたちの相手は私でしょう?」
「くそっ、このアマ……!!」
リサが歯噛みする。
セラフィナを放置して生命の間に向かえば、背後から撃たれて全滅する。
かといって、ここで全員で戦っていれば、核が破壊される。
その時。
「――リサ! しずく!」
鋭い声が響いた。 クラウディアだ。
「ここはお前たちで食い止めろ! ネズミは……私が狩る!!」
「クラウディア!?」
「一人で大丈夫なのかよ!?」
「誰に口を聞いている」
クラウディアは氷の剣を一閃させ、床に開いた大穴の縁に立つ。
「私は№4氷の騎士!! あんなマガツごときに後れは取らん!」
クラウディアがしずくを見る。
「しずく。ここは任せたぞ。 お前の盾で……リサと未来を守り抜け!」
「はいッ!! 信じてます、クラウディアさん!」
「フン、いい返事だ」
クラウディアはニヤリと笑うと、躊躇なく穴の中へと飛び込んだ。
「待てッ!!」
セラフィナが追撃の闇を放つ。
「させねぇよッ!!」
リサが割り込み、炎で相殺する。
「テメェの相手はアタシらだ! よそ見してんじゃねぇ!!」
「チッ……!」
戦場が分断された。 最上階、神vs炎と盾。 そして地下、破壊の権化vs氷の女帝。
ユナイトアーク、
「ガアアアアアアッ!!」
涯骸が壁を走り、天井を這い、猛烈な速度で生命の間を目指す。
障害物があれば体当たりで粉砕し、一直線に「生命の間」へ。
「逃がさんと言ったはずだ」
ヒョオォォォォ……!!
突如、通路全体が凍てついた。
涯骸の足が氷に取られ、スリップする。
後方から、氷のレールを滑走してくる人影。 クラウディアだ。
「――氷結路」
彼女はスケートのように優雅かつ高速で移動し、我壊の背後に迫る。
「ハッ!!」
氷の剣が閃く。 我壊の背中が切り裂かれ、黒い体液が飛び散る。
「ギャアッ!?」
我壊が悲鳴を上げ、転がりながら体勢を立て直す。
標的を変更。 目の前の白い女を排除しなければ、先へは進めない。
「グルルル……!」
「急いでいるんだ。 悪いが、瞬きする間に終わらせてもらうぞ」
クラウディアが剣を構える。
激突。 涯骸の爪と、クラウディアの剣が火花を散らす。
深くへ続く螺旋階段。
その攻防は、落下しながら、駆け降りながら繰り広げられた。
そして。
「生命の間」の前。 巨大な扉の前で、最後の激突が起きた。
ドガァァァァァン!!
生命の間の前に立ちはだかった。
冷たい冷気を纏い、白銀の髪をなびかせる、絶対零度の守護者。
「ここから先は、『心臓』だ」
クラウディアが切っ先を突きつける。
その瞳は、ダイヤモンドのように硬く、冷たい。
「この扉……」
カツン、とヒールを鳴らす。
「命を懸けて、通さない!!」
もはや言葉はいらない。 退けば世界が終わる。勝てば未来が拓ける。
互いの生存本能と誇りを懸けた、総力戦が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
流瑠々と申します。
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次回 終わりの宣告 お願いします。
流瑠々でした。




