第1話「LINE交換の瞬間」
夏休み初日、灼熱の太陽が街を照らす中、俺は近所のコンビニで雑誌を立ち読みしていた。学校もない平和な一日。普段なら、適当に漫画を読んで涼みながら時間を潰すだけの場所だった。
だが、その日は違った。
「あ、村田さん……?」
俺の視界に飛び込んできたのは、同じクラスの村田あやだった。
彼女は桐谷美玲に似た整った顔立ちと、クラスでも可愛いと有名な女子。明るくて、誰にでも分け隔てなく接する性格が魅力的だった。そんな彼女が、コンビニの冷凍庫の前で真剣にアイスを選んでいる。
「えっ、石黒くん? 何してるの?」
突然声をかけた俺に驚いたのか、村田さんがこちらを振り返る。
「いや、ちょっと雑誌読んでただけ。村田さんは?」
「私? アイス買いに来ただけだよー。こう暑いと食べたくなっちゃってさ!」
爽やかな笑顔と、自然体の振る舞い。まるで眩しい太陽そのもののように、彼女の存在は輝いて見えた。普段はクラスで話す程度の仲だったけど、この距離感で会話をするのは初めてかもしれない。
その時、俺の心の中に小さな声が響いた。
「今しかない!」
いつもなら言えないことも、なぜか勇気が湧いてきた。冷や汗をかきながら、俺は意を決して切り出す。
「そ、そうだ、もし良かったらLINEとか交換しない?」
言ってしまった瞬間、心臓が飛び出しそうだった。断られたらどうしよう。気まずくなったらどうしよう。そんな不安が一瞬で頭を駆け巡る。だが、次の瞬間、彼女はふわりと笑った。
「いいよ! 石黒くん、スマホ出して!」
俺は慌ててスマホを取り出し、彼女とQRコードを交換した。画面に「村田あや」と名前が表示された瞬間、何とも言えない達成感が全身を駆け巡る。
家に帰る途中、スマホを握りしめながら、俺は一人何度もガッツポーズをした。だが、その興奮は長くは続かなかった。
「で、何て送ればいいんだ?」
クラスで普段話す程度の関係だとはいえ、LINEの1対1のやり取りは全くの未知の世界だった。初めてのメッセージをどうするべきか、何度も画面を見つめては悩む。
そんな時、俺はふとスマホのブラウザを開き、お気に入りに入れていた掲示板にアクセスした。
匿名掲示板「おーぷんVIP」。暇つぶしに時々覗くその場所で、俺はスレッドを立てた。
スレタイ:「クラスメイトの女子とLINE交換したあああああああ!!!」
1: 名無しさん@おーぷん
「交換したものの何て送れば良いのか…orz」
数分もしないうちに、書き込みが次々と集まる。
5: 名無しさん@おーぷん
「スペック教えろ」
13: 名無しさん@おーぷん
「お前のスペックとその女子のスペックな」
言われるがまま、俺は自分と村田さんの情報を書き込む。
石黒の書き込み:
「俺:17歳、フツメン、多分普通のコミュ力。
女子:17歳、クラスで2番目くらいに可愛い。明るくて、桐谷美玲を少し肉付き良くした感じ。」
その書き込みに対し、スレ住民たちは次々と反応する。
25: 名無しさん@おーぷん
「それ、普通に美人じゃん!」
33: 名無しさん@おーぷん
「これは脈アリの予感」
掲示板のノリに押されながら、俺はどんどん相談を進めていく。
「で、何を送ればいい?」
「とりあえず『どうも』で様子見だろ」
「いやいや、告白しろ!」
スレ内はカオスな雰囲気だが、その中で一つの安価が決まった。
50: 名無しさん@おーぷん
「あ、どうも」
「これだけでいいのか…?」と戸惑いつつも、俺はスレの流れに乗ってメッセージを打ち込んだ。
「あ、どうも(*^^*)」
送信ボタンを押した瞬間、手が震えた。画面に表示される「既読」の二文字を待つ間、心臓が爆発しそうになる。
そして数秒後、画面に「既読」の文字が浮かび上がった。
「既読ついた…!」
これだけで、俺の中では一つの大勝利だった。けれど、問題はここからだ。彼女がどう反応するのか、返事は来るのか――。
再びスマホが震えた時、画面には彼女からの一言が表示されていた。
「こんにちは✨
さっきはありがとね(≧∀≦)」
「返事来たああああああ!」
スレに戻り、住民たちに報告する。
「お前、やったじゃん!」
「ここから攻めろ!」
掲示板の住人たちの声援を背に、俺は再び次のメッセージを考え始める。このやり取りの中で、夏の一歩が確実に動き始めた。
次回予告:
掲示板の力を借り、会話を少しずつ広げていく石黒。しかし、次のメッセージで掲示板は大荒れとなる――!?