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第七幕 追跡

 「彩花!!」


 ナニガシは叫ぶ。

 捕まった彩花を助けに急ぎ向かうべく、刀を携え、前へ進み出ようとした。

 

 ……が。

 しかし、通すまいと目の前に、大勢のニラネギたちがズラリと立ち塞がる。

 彼らは壁の様に並び立ち、その行く手を阻んできたのである。

 

「くっ!」


 ナニガシは何とか身体を前へと進めようとするが、だが敵たちの太刀がまるで槍衾やりぶすまの如く一斉に突き出され、一歩も踏み入る隙が無かった。

 これでは彩花の元へと、進む事が出来ない。


 一方の間牛も彼女が担ぎ上げられている様に気付き、急ぎ救出に行かんと、行く手を塞ぐニラネギ共へと力任せに、拳を叩きつけていく。

 が、しかし彼もまたナニガシと同様、際限無く思う程の敵のその数に阻まれ、一向に前進出来ずにいたのだった。


 彩花の元へ辿り着けず手をこまねくうち、目の前に阻むニラネギたちの頭越しに、彼女が賊らの頭上に高々と担がれている姿が覗いている。

 「ワッショイワッショイ」と、それはさながら神輿の様な有様である。

 彩花を担ぎ上げる賊たちは、どうやらそのまま、大型船へと後退している様だった。


 ……これはまずい。

 これ程多数の敵に阻まれている上に、あの軍船にまで連れていかれてしまえば、救出は困難となるだろう。

 すでに痛手を与えているとはいえ、あの様に巨大な敵船へ、間牛と2人のみで乗り込んでいくのは、流石に無謀である。 

 何としても、彼女をこの場で奪還せねばならない。


「ナニガシさん!」


 彩花がニラネギの上で身悶えしながら、叫ぶ。


「彩花ぁ!!」


 ナニガシは必死に彼女へと手を伸ばすが、だがニラネギ共に行く手を阻まれ、届かない。


『ブウゥゥオオオオォォォォーー……!』


 ……

 その時突然、大型船から、大きな法螺のが立った。

 

 ……島へと海へと、そして空へと響き渡る、野太い音。


 すると。


「よし!お前ら、退がれーッ!!」


 それを合図に、それまで激しくしのぎを削っていた目の前のニラネギたちは一斉にみな、後退していくではないか。

 

 ……

 この法螺。

 おそらくこれは、退却の号令なのだ。


「くそっ!待ちやがれ!!」


 それを察したナニガシは彼らを追おうとするが、しかしニラネギらはまるで波が引くかの如き素早さで、退いていく。

 彼らはあっという間に波打ち際を駆け抜け、そして瞬く間に、乗ってきた自分たちの小型船へと辿り着いてゆく。


 その後退の際、最後尾に居た数人のニラネギが殿しんがりとして残り、追って来るナニガシと間牛の前に、立ち塞がった。

 そして残りの者たちはそれぞれの船にめいめい飛び乗るや、急ぎ櫂を漕ぎだし、やがて、島を離れていってしまった。


『ギギギギィィ……!』


 大型船も、ムカデの如く多くの足が生えるかの様な、船体側面から水面へと突き出している多数の櫂を、一斉に漕ぎだしている。

 そして同時にゆっくりと、船首を海の向こうへと向けつつあった。

 鉄が張られたその黒い壁の如き巨体を、まるで鳴き声を上げるかに軋ませながらやがてその向きを変えると、とうとう、海面を走り出してゆく。


 その船体上部、甲板からはなおも黒い煙をもうもうと噴きつつあり、焼け焦げた臭いを後に残しながら、次第に島から遠ざかっていってしまったのだった。


 それは足止めの為に残っていたニラネギたちを、ナニガシと間牛が倒し終えた頃であった。


 ……

 ナニガシが見ると、すでに賊の船団4隻は海上に白い帆を張り、そして遠く、沖まで進みつつあった。

 

 ……おそらく彩花はあのまま、あの大型軍船に乗せられた筈である。


 彼らの船影を見失わない内に、急いで追わなければならない。

 その姿を見失えば、足取りが掴めなくなり、彼女がこの広い海の何処いずこに連れて行かれたか不明となってしまうのだ。

 

 ……そうなれば、もはや彼女を取り戻す事は、叶わなくなるだろう。


 その焦りと共に、ナニガシが叫ぶ。


「急いで連中を追おう!間牛さん、頼めるか!?」

「おおう!!言われるまでもねえぜ!急いで船に乗りな!!」


 間牛は日焼けした己のぶ厚い胸板を霊長類ゴリラの如くどすんどすんと叩くや、櫂をぐっと引っ掴む。

 ナニガシと美月、氷鶴が急いで船に乗ると、それを波打ち際からぐいぐいと海へと押し出し、そして自身も飛び乗り、櫂を漕ぎだした。


「……この悪い人たち、ここに残していって良いのかな……?」


 浜に突っ伏し、波に洗われているニラネギたちを、船上から美月は見やる。


 ……

 この戦いの末。


 結局、この場でナニガシたちに打ち倒された彼ら賊の数は、おおよそ30人余となった。

 所詮は下っ端のチンピラゆえに、強者の彩花や間牛によってその大勢が、悉く薙ぎ倒されたのであった。


 ……その数の彼らが波打ち際に倒れているその様は、まるで漂流した大量のニラネギが浜に打ち上げられたかの、異様な光景である。


「放っておきな。この島から陸までは多少距離があるが、泳いで渡れん程じゃない。今はとにかく、このろくでなしどもに攫われた彩花お嬢ちゃんを、助けに行かなきゃならねえからな」


 言いながら、間牛は力一杯、櫂を漕ぐ。


 ……

 ナニガシたちが乗る船は静かな波間を掻き分け、小島からぐんぐん離れ、遠ざかってゆく。

 海面を割りながら進むその舳先は、海の遥か先で白い帆を上げる海賊共の船団の真後ろへと、向いている。

 逃げゆく彼ら船団のその姿は、すでに、豆粒の如く小さなものとなっていた。


「……氷鶴さんの焙烙玉で、あのおっきい船は黒い煙を上げてる。……あれを追えば、悪い人たちの行き先が分かる筈だよ」


 賊の船団は、すでに水平線にまで進んでいる。

 その距離はみるみると離され、彼らの船影は今や米粒の様に、僅かにしか見えていない。

 帆を上げ、風に乗った帆船の船足には、やはり手漕ぎの船では到底追いつけそうに無かった。


 ……普通であればこのまま逃げきられ、この時点ですでに、連れ去られた彩花を取り戻す事は出来なくなっていたであろう。

 

 だがしかし、今。

 賊の大型船は美月の言う通り、氷鶴の焙烙玉による火災によって黒煙を空高く上げつつあり、そしてそれが、丁度都合の良い目印となっているのである。

 敵船はまさに狼煙台の如く煙を噴き上げ、自らの位置を示しているのだ。


 美月が指差す前方遥か先で、すでに僅かな点の様に見える船影が、遠目からでも目立つ長く「黒い尾」を延々高々と、空へと引いている。

 それを目指せば、彩花の元へと辿り着く事が出来るという訳である。


「うむ。確かに、よく見える。いい目印じゃないか。……いやあ、これは美月と氷鶴先生の大手柄ですなあ!」

「いやいやぁ……なんのなんの。どうもどうも。えへへ、えへへ」


 爆発した様な寝癖が未だついたままの髪をナニガシにわしゃわしゃと撫でられ、顔を赤くし照れ笑いの、氷鶴。


「ぃよーし!では、けったいな海賊どもとやらから、攫われた姫君を取り戻しに参ろうぞ!みなの衆!!」


 意気揚々に叫び、ナニガシは刀を高々と、前方へと掲げた。


「「「おーっ!!」」」


 呼応する美月、氷鶴、そして間牛。


 ……

 すでに海の西に、陽が傾き始めている。

 雲の無い、夕焼け前の、海の空。

 西日は未だ明るいが、だがその光は微かに、夕陽の色を帯びている。


 ……高く掲げられたナニガシの刀の、黒い鞘。

 薄いゆうの朱色が映え、キラリと、光輝くのだった。


 かくして、攫われた彩花を取り戻すべく、ナニガシ、美月、氷鶴先生、霊長類ゴリラの4人は固い団結のもと、海賊たちを追跡するのであった。


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