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第四幕 来訪者

 開け放たれた戸口から朝の薄明かりが差し込む。

 その光がまぶたの裏を通して眩しさを感じ、女は目を覚ました。


「うああー……」


 彼女は大あくびをひとつする。

 そして自分の隣を見やった。


 そこには昨晩出会った小さな少女。

 彼女はすだれの中に小さな身を丸くさせ、すやすやと寝息を立てていた。


 女は身を起こし、戸口から外の様子を覗く。

 未だ雨は止まず、家の前の地面に大きなぬかるみを作っていた。

 軒を叩く雨だれの音は昨晩から変化が無い。


「ちっ、まだ止まず、かあ」


 手拭いを取り出し、水溜りの上澄みを掬って濡らすと、顔を拭った。

 囲炉裏の火はすでに消えており、夜通し降り続ける雨のせいか、若干肌寒さを感じる。


 身支度を整え、そろそろ少女を起こそうとした時だった。


『パシャッ』


 その背後で、軒の前の水溜りを踏む足音が聞こえた。


(むっ……)


 ふいの人の気配。

 何者かがそこに居るのか……?


 道から外れたこの様な廃村に近づく旅人は多くない筈だ。


 女自身が言った通り、この土地は野盗が多い。

 賊のその類いが、雨を避ける為に訪れて来たのか……


 その可能性を警戒し、女は枕元に置いた刀に手をかけると、そのまま動かず静かに様子を窺う。


「グルルル……」


 外から犬の唸り声が響く。

 そしてその直後、男の声が聞こえてきた。


「どうしたぁ?中になんか居るのかぁ?」


 ガラの悪そうな口調。


 思った通り、おそらくこの来訪者は野盗であろうか。

 このあたりを縄張りにし、物色出来る物が無いか探し、徘徊しているのか。

 野犬を手懐け、番犬か猟犬代わりに連れているのかもしれない。


(ま、ま、まさか。まずい……こんな所で野盗、だと……?)


 女はさっと血の気が引いた。

 青い顔となり、どっと冷や汗を額に滲ませる。


 外に出られる戸口は一つ。

 その出口の前に賊が居るという事は……

 今まさに、彼女たちは逃げ場の無い袋小路に在るという事なのだ。


 しかもこの賊らしき人物は戸口の扉の向こう側に居る。

 つまり未だその姿が確認出来ない位置にあり、同時に彼以外に、外に何人居るのか不明であるのだ。

 聞こえてきた声は1つだが、もしも彼以外に大人数が居るとすれば……

 屋内に踏み込まれれば多勢に無勢、ひとたまりも無いだろう。


 女は刀を持ってはいるが、前述の通り、怖がりな彼女は今まで戦う事を避けてきた。

 いつも逃げる事を最優先し、殆どそれを用いる事をしない。

 ゆえに実戦に乏しく、その剣の腕は並以下であった。


 そんな彼女。

 戦いは苦手だが、だがしかし生来、足の速さには自信がある。

 1人でならば、即座に外へ飛び出し、そしていつも通り逃げ切れるだろう。


 しかし……


 今、己の傍らには幼い少女が居る。

 しかも未だ、気持ち良さげに寝ている。


 臆病ビビリである女。

 本来ならばすぐにでも、この場から裸足ででも逃げ出したかったが……


 しかし今はこの小さな少女を、自分の手で野盗から守らねばならない状況にあるのだ……

 

「……フーッ……」


 やらねばならない。


 息を静かに1つ、つく。

 勇気を振り絞るかの様に、息を整える。


 そして……


 ぐっと刀を握り締めると、さっと戸口に向き直った。


 壁を挟んでいるため、野盗らしき人物も家屋の中の状況を把握しておらず、屋内の女と少女の存在を認識していない様だ。

 しかし、ゆえに警戒し、すぐには屋内に入ってこない様子である。

 

 そのまま息を潜めていると、やがて、また男の声が聞こえた。


「中になんか居るなら金目のモンでも持ってっかなぁ?ヒャッハー!!」


 ああ……

 コイツは間違い無く、ろくでなしの類いである。


 この来訪者が旅人である事を心の中で祈っていた女だが……

 ここでとうとう、戦う覚悟を決めた。


 野盗がすぐに踏み込んで来ないならば、敵の人数次第ではまだ勝算はあるかもしれない。

 賊が戸口から中へ顔を出したところを、横合いから不意打ちして、敵の数をまず減らす事が出来るだろう。


 女は算段をするや、入り口の真横で息を潜め、その機を窺う。


 ……緊張の心持ち。

 冷や汗が頬をつたい、柄を握る手の平にもじっとりと汗が滲む。

 潜める息が上がりそうになるのを抑えつつ、そんな中、じっと待つ……


 やがて、戸口の外から何かがニュッと、出てきた。


 ……それは犬の鼻先であった。


 それが見えたその刹那、


「おりゃーッ!!」


 気合いと共に、鞘を抜いていないままの刀で、横合いの死角からその犬の鼻の頭を叩く。


「ギャッ!」


 悲鳴を上げるや、野犬は踵を返し一目散に、いずこかへと逃げていく。


 それを見て、彼女はすぐに戸口の陰から身体を出し姿を見せ、野盗と相対あいたいした。


 さっと見回すと、周囲にはその野盗以外誰も居ない。

 外に立っていたのは、先程の声の主らしきその男1人。

 どうやら単独の様であった。


「なっ!なんだテメエは!?」


 突然の不意打ちに賊の男が驚き叫ぶ。

 彼はニンジンの様な奇抜な髪型をしている。


 ニンジン頭の相手がたじろぐその間髪入れず、女は素早く踊りかかった。


「なんだテメエ!?はこっちの台詞だ、このニンジン野郎!!」


 野犬を追い払った様に、刀身を鞘に納めたまま、つまり納刀したままの刀で男を殴打する。


『ゴッ!』


「ブッ!!」


 昨晩、自身が少女から食らった平手打ビンタちの様に、鞘で男の頬を引っ叩いた。


 彼女の刀の鞘は鉄拵えのものである。

 それに加え、刀の重量は1キログラム程ある。

 つまり、それは鉄の棒で殴られたと同じ威力を受ける事となるのだ。


 引っ叩かれた彼はふらつき、たじろいだ。


「テ、テメェ!やりやがったなあ!!」


 すぐに体勢を立て直すや、男は腰に差した棍棒を抜くと手に構え、横薙ぎに殴りつけてきた。


「くっ!」


『ガンッ!!』


 女は鞘でその殴打をなんとか受け止め、堪えた。

 その瞬間、開いた男の腹に、前蹴りを深く入れる。


「ぐおッ」

 

 相手が怯んだその隙を見て、女が屋内の少女に呼びかける。


「そ、そこの!まだすやすや寝てるすだれの少女!早く起きて逃げな!!」


 彼女は大声を張り上げ少女を起こす。


 その声にようやく、未だ呑気に寝ていた少女が目を覚ました。


 身体を起こした後、寝ぼけた様子で周りを見回す。

 そして、家の外で対峙している女とニンジン頭の賊を見つめた。


「ふああ……。……ん?……え、ええ!?こ、これは何の騒ぎですか!?」

 

 寝ぼけまなこで暫く考えた様子の後、やっと状況を理解したのか少女ははっと目覚め、仰天した。


「この騒ぎでも起きないなんて君は大物か!?いいから早く逃げて!!」


 その瞬間、賊は女に組み掛かって来た。

 真っ向から受け止めると、彼女はなんとか足を踏み締め堪えるが、女性では男の腕力に力負けしそうになる。


 だがそうして、とうとう賊に圧され、弾き飛ばされる。

 女は後ろのぬかるみに倒されてしまったのだった。


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