表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/101

第五幕 わらしべの見る夢

 干し魚を手に入れご満悦のナニガシと美月。

 だがこの貧乏な旅、こういった食料すら買えなかった程である。

 宿に泊まる銭など当然あろう筈がなかった。


 2人は町をあとにし、街道から少し外れた木のたもとで荷を降ろすと、そこで野営の準備を始めたのだった。

 もはや屋外で寝泊りするのも慣れたものである。


 すでに陽は沈み、街道は暗闇に包まれている。

 秋の夜空、薄っすらとヒツジ雲が三日月の月明かりに照らされ、そしてその群れは東風に乗り、西へと行進していく。

 丁度同じく街道を西へ往く2人と、行き先は同じだろうか?


 おこした焚き火で、交換して手に入れたホッケの干物を直に炙る。

 その香ばしい匂いは2人の周りに満ち、今の空腹の彼女たちにとっては、それだけでも贅沢なご馳走であった。


 待ちきれず、火から上げ、かじる。


 久方ぶりの「まともな」食事に美月は感動し、思わず天を仰いだ。

 それ程までに、美味であった。


 秋の夜は少し肌寒さを感じる。

 もうすぐ訪れるであろう冬の寒さを想いながら、その食べ物の暖かさにほっと安心した。


「おいしい……お魚って、こんなにおいしいものだったんだね……」

「そうだな。でも、この前食べた、焼いたバッタも同じ様な味だった気がしない?」

「もー、お姉ちゃんはお腹に入れば何でも良いの?」


 呆れた様に美月が言う。


「わはは、確かにそうかもな!」


 そうは言っていても、魚を平らげてナニガシも満足げである。


 ふと、美月が言う。


「……今日1日、町中をあちこち歩き回ったけど、結局大根がお魚に変わっただけだったね」

「まあ、そう言うな。それ以上に良い出会いもあっただろう?」

「うん、そうだね。活気があって、良い町だったね」

「うむうむ。腹が減っていても、前向きに生きなければな。『武士は食わねど高楊枝』ってな」

「何それ?」

「えーと、つまり……『やせ我慢』だよ……」

「……お姉ちゃんがずっと職にありつけなかった理由が分かる気がする……」 

「ぐえっ、痛いところを突かれた……」

「あはは、冗談だよお姉ちゃん。前向き過ぎて不器用なのがお姉ちゃんの良い所だと思うよ、うん」

「それ、褒めてんの……?」

「褒めてるよ。……さ、もう寝ようよ。歩き疲れちゃった」

「ああ。おやすみ、美月」

「おやすみ、お姉ちゃん……」


 そうして暫く後、2人が寝静まる頃。

 焚き火の灯りも次第に弱くなり、やがて消えていく。


 夜空に瞬く星々がいっそう、はっきりと見える。


 頭上のヒツジたちの群れが通り過ぎた後、三日月がそのめいめい々とした光で、2人を優しく照らしていた。

 

 ……

 町の中の上等な宿で眠ろうが、

町の外の木の下で眠ろうが。


 関係無く平等に、星と月のきらめきはその頭上に、輝いていたのだった。


                         【第六話 了】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ