第五幕 わらしべの見る夢
干し魚を手に入れご満悦のナニガシと美月。
だがこの貧乏な旅、こういった食料すら買えなかった程である。
宿に泊まる銭など当然あろう筈がなかった。
2人は町をあとにし、街道から少し外れた木のたもとで荷を降ろすと、そこで野営の準備を始めたのだった。
もはや屋外で寝泊りするのも慣れたものである。
すでに陽は沈み、街道は暗闇に包まれている。
秋の夜空、薄っすらとヒツジ雲が三日月の月明かりに照らされ、そしてその群れは東風に乗り、西へと行進していく。
丁度同じく街道を西へ往く2人と、行き先は同じだろうか?
熾した焚き火で、交換して手に入れたホッケの干物を直に炙る。
その香ばしい匂いは2人の周りに満ち、今の空腹の彼女たちにとっては、それだけでも贅沢なご馳走であった。
待ちきれず、火から上げ、齧る。
久方ぶりの「まともな」食事に美月は感動し、思わず天を仰いだ。
それ程までに、美味であった。
秋の夜は少し肌寒さを感じる。
もうすぐ訪れるであろう冬の寒さを想いながら、その食べ物の暖かさにほっと安心した。
「おいしい……お魚って、こんなにおいしいものだったんだね……」
「そうだな。でも、この前食べた、焼いたバッタも同じ様な味だった気がしない?」
「もー、お姉ちゃんはお腹に入れば何でも良いの?」
呆れた様に美月が言う。
「わはは、確かにそうかもな!」
そうは言っていても、魚を平らげてナニガシも満足げである。
ふと、美月が言う。
「……今日1日、町中をあちこち歩き回ったけど、結局大根がお魚に変わっただけだったね」
「まあ、そう言うな。それ以上に良い出会いもあっただろう?」
「うん、そうだね。活気があって、良い町だったね」
「うむうむ。腹が減っていても、前向きに生きなければな。『武士は食わねど高楊枝』ってな」
「何それ?」
「えーと、つまり……『やせ我慢』だよ……」
「……お姉ちゃんがずっと職にありつけなかった理由が分かる気がする……」
「ぐえっ、痛いところを突かれた……」
「あはは、冗談だよお姉ちゃん。前向き過ぎて不器用なのがお姉ちゃんの良い所だと思うよ、うん」
「それ、褒めてんの……?」
「褒めてるよ。……さ、もう寝ようよ。歩き疲れちゃった」
「ああ。おやすみ、美月」
「おやすみ、お姉ちゃん……」
そうして暫く後、2人が寝静まる頃。
焚き火の灯りも次第に弱くなり、やがて消えていく。
夜空に瞬く星々がいっそう、はっきりと見える。
頭上のヒツジたちの群れが通り過ぎた後、三日月がその明々とした光で、2人を優しく照らしていた。
……
町の中の上等な宿で眠ろうが、
町の外の木の下で眠ろうが。
関係無く平等に、星と月の煌きはその頭上に、輝いていたのだった。
【第六話 了】




