最後に嘘ひとつだけ
病気で他の人に恋人を押し付ける系、なんでそんなんするんやろと思ってかいたやつです〜(´∀`*)よろしくお願いします!
「他に好きなひとができたんだ!お前とは別れる!お前なんか好きじゃないからな!別れるからな!じゃあな!」
唐突に見たことない女をへばりつかせた彼氏——幸人に言われ、理央は困惑した。
理央と幸人は幼馴染である。ずっと一緒に育ち、中学校で付き合うようになった。現在大学生で、口約束だがそのうち結婚するつもりだった。それが急に。
そして、幼馴染はもう一人。
「幸人はひどいやつだな!お、おれにしとけよな!」
武朗である。
理央、幸人、武朗は同じマンション育ちの仲良し三人組だった。理央と幸人が恋人になってもそれは変わらなかった。
幸人からの唐突な別れ。武朗の唐突なアプローチ。
理央は嫌な予感がとまらず、武朗を速攻締め上げた。
****************
そして現在、ある病室。
「なんで言っちゃうかなあーーーーー!!!!」
「ご、ごめん…!!でも無理で…!!おれ抱えきんねえしこんな……ごめん〜〜!!!」
頭を抱える幸人と、号泣する武朗。憮然とする理央。
三人は大学病院の一室にいる。
「で、何?幸人。病気んなって、あたしが後に残されて辛くないよう、嫌われて別れて武朗にまかせようって?」
「う、うん…だって、理央が心配で…」
「はあ?なにそれ心配だから嘘ついて傷つけて他の男あてがおうって?あたし物じゃないんだけど!?男同士で勝手に話つけて譲渡されるいわれはないんだわくそきもい」
「だ、だって…!!」
「こういうのさ、ドラマとかじゃよくあるけどマジ無理じゃん。あとで気づいたらって思わないの?気づいた時どんだけ辛いかわかんないの?
さい、ご、最後、まで、一緒いられず、嫌って、うらんでるうちにいな、いなく、なっちゃったなんて、後から気がついたら最悪じゃん!
絶対自分大嫌いなっちゃうし、騙してたみんなも嫌いになるよ!なんで、なんで、そんな、なんで…!!」
「それ」を言葉ににするのが辛く、理央は鼻がつんとして、涙が溢れるのを止められなかった。
「だって!!」
幸人も涙をこぼしていた。
「だって!死んじゃうんだよ!俺!
こえーよ!やだよ!まだ何も、何もしてないのに!
いなくなるなんてやだよ!
だから!だから…、理央を武朗とくっつけて、くっついたら、俺だってなんかできたなって思えるじゃん…!
そんぐらい、思わせてくれよ!そんくらい許してくれたっていいだろ!?だって俺、俺——…!
俺だって、なんかできたなって、の、のこせたなって、俺の、俺の、生きた、意味、あったんだなって……!!俺……!!」
「ばかあーーーーーー!!!!!」
もはや二人とも号泣していた。ついでに武朗も泣いていた。
「意味なんてあるじゃん!!あんたいて、一緒いて、ずっと一緒いてきて、そんなの全部、全部、意味じゃん!
一緒いたいよ!ずっと一緒いたいよ!ちょっとだって一緒にいたい!勝手にどっかいかせないでよあたしがあんたを好きなんだから!好きなんだから…!だから…!!だから……!!!」
言葉にならず、理央は幸人のベッドの横で顔を伏せしゃがみ込んでしまった。
幸人は逡巡し、しかし、理央の髪を撫でた。
「治療、してんだけど、あんまなんか、って…。
だから、ごめんな。ごめん。一緒、いらんなくて、ごめん」
理央は首を振る。
「今まだこんなだけど、多分どんどん元気なくなるしさあ、そんなの見られんのも嫌で…。ていうか、やっぱきつくて、親とかにもけっこう当たっちゃって、そういうのもへこむし、理央にもそんなしちゃうかもって、こわいし。
でもあの、理央が心配だからってのも、それはそれで嘘じゃなくてさ、そりゃ勝手なんだけど、武朗だって、こうでもしなきゃ俺に遠慮して、理央にいけないだろうしって……武朗もごめんな、お前も理央すきだったのに、俺先に告っちゃったから…なんか、わるいなってはずっと…」
「え?いやないよ?俺ゲイ だよ」
「「は!!!!???」」
「いや、言う機会なくて言い出せなかったけど…。え、幸人、俺が理央すきと思ってたの?えーなんか…心配させてごめん…」
「い、いや待って…。だってお前、じゃあなんでこんな計画のって…」
「だってそりゃ……そりゃこんな状態の友達の頼み………断れねえだろ!!」
武朗はしくしく泣いてしまった。
「え、えっとあの…じゃあ逆に幸人のことが好きだったとか……?」
「いやねえよ……。別に男なら誰でもいいわけじゃないから……。
ていうか別に常に恋愛してたいとかいうタイプでもないし俺……。
あと幼馴染だからって好きになる訳でもないじゃん人類多いし……。
二人だって、幼馴染だから好きなった訳じゃないだろ?きっかけはそうかもだけど、それが全部じゃないだろ多分」
「それは……」
「そう……」
なんとなく気まずいような沈黙が場を支配し、やがて武朗が鼻をすすって言った。
「まあだからさ、理央をまかせるぜって言われて、わかった頑張る!!てなったけど、まあこんななったし、なんかさ、なんか、二人、俺二人とも好きだからさあ、二人で、いてよな」
「武朗…」
「ごめんな…迷惑かけて…あとアウティング強要したみたくなってごめん…」
「いやいいよ…こっちこそ言ってなくてごめん…」
なんとなく落ち着いた三人。やがて、幸人が理央の手を取った。
「理央、俺きっと、辛い思いさせるし、俺自身、自分がどうなっちゃうかわからない。頑張るけど、嫌なこと言っちゃうかもしんないし、よくなる見込みだってない。
だけど、一緒いてくれ。
わがままだけど、俺のさいごまで、一緒いてくれ。いてほしい。……いい?」
「っ……!!っったりまえじゃん!!!」
理央が幸人に抱きついて泣き出し、幸人も泣き笑いし、武朗はへばあ〜〜!!と泣いていた。
それから、ところであの時のあの女誰よ、レンタル彼女だよ、すげー緊張した。なんか怖い人とか絡んでそうで怖いじゃんしらんけど。なにそれあほじゃん、てか二人とも演技下手すぎてこれ嘘だなって確信したし。えーー!!?
みたいな話をして、それは、今までずっとあった、いつもの三人の姿だった。
****************
それからしばらくして、幸人が亡くなった。
理央は休学してずっとそばにいたが、休学は一年ですんでしまった。
どんどん弱っていく姿は辛かったが、いつもずっとそばにいた。
徐々に細く、骨ばっていく指に、いずれ来る日を感じても、受け入れられなかった。
体温をなくした幸人に触れても、煙を見ても、受け入れることはできなかった。
虚脱して、でも立ち直れたのは、家族や友人、武朗の支えもあり、就活のおかげもあった。やる事があるのはいい。
そして生活は続き、やがて普通に笑えるようになり、それに気づいて、足元に穴が空いたような心地になった。そうした思いをする回数が段々減って、それに落ち込み、その落ち込む回数も減っていった。
武朗とは今も仲がいい。
就職して、住居が離れたのもあり、以前ほど頻繁にではないが、連絡は取り合っている。
命日には二人で墓参りにいっていた。
ただそれも、武朗が国外で働くようになり途絶えた。
理央はパートナーができた。女性だ。
聞いた武朗は驚いた。「いやなんかバイだったわ私」と、理央はあっさりしていた。
籍は入れられないが幸せだと、武朗の帰国時には、三人で墓参りに行く。
武朗はといえば独り身で、それはもともとの性質というのもあったけど、たまに、引きずってんのかな——…と思うことがある。
実はやっぱり、少し幸人が好きだったのに、あの時嘘をついたから。
あの時、幸人が嘘をついて別れようとした時、理央のおかげで、みな本音で全力で向き合えた。だから、歩いて行けたという思いもある。ただ、ひとつだけ——
とはいえ他よりちょっと、というくらいで、あの二人と同じようなレベルの思いととられても困るので、しょうがなかったとも思っている。
まあでも、正直が一番だなあ。
そんなことを思いながら、武朗も毎日それなりに楽しく暮らしているのだった。
幸人がいない穴は決して埋まらず、でも二人は生きていた。
三人はずっと、友達だった。
お読みいただきありがとうございました!(´∀`*)