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Page  作者: 時ノ宮怜
2頁-丘の漣-
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白い少女の幽霊

「これは…そう。ここ最近、この辺りでよく聞くようになったお話ー


というのは、話をする上でよくある様式美。

特にホラー…怪談をするなら今から始まると聞き手に分かりやすくするためのもの。

別に必要もなければ、情報が増えたり補完される訳でもない、本当にどうでも良い導入。


上手い語り手と言うのは、その最初のたった一言で聞き手を物語の世界へ引き摺り込むと言う。

それは空気の作り方だったり、往々にして聞き手に親近感を持たせやすい設定だったりするからなのだろう。


もちろん、私にそんな技術はない。


でも、強いてそんな様式美をなぞって話すなら…これはこう始めるべきだ。


これは、私の知り合いの…古物屋をやっているお爺さんに聞いた話だ。


この街。

この港町では、自然と言えば思い浮かべるのは基本的に海。という事になるのだろうが、それだけではない。

いや、基本的に海というのは間違いではないが、探さずとも身近にある自然は他にもあるのだ。

ここはそう都会というものではない。

ここでいう都会というのは決して、畑のあるなしだとか、日に電車が何本だとか、そういう話ではない。

開発具合だ。

つまりは、どれだけ人間の手が入っているかと言うところに着目したい。


なるほど確かに交通は不便で、車が必須で、周りが畑しかなかったとしても、それは人の手が入っている。

ちゃんと管理されている。

それは確かに田舎と形容できるし、都会ではないのだろうが、この街はどうだろう?


建物は駅近くに密集して多く並び、海は漁港として申し分なく働いていてちゃんと整備されている。

それは確かにイメージされる田舎と比べてしまえば都会に分類されるのかもしれない。

しかし、海という開拓しようにも、その沿岸しか大して進まず、埋め立てなんて方法も取れないでいる場所に街の予算を使わなければいけない港町では、それ以外の発展に対してすこぶる遅れをとっているだろう?


何が言いたいのかって?

だから、この街では海とは逆。

山の中までは整備が行き届いていない、本当の意味で自然が残っていると言いたのだ。


なぜ、この話をしたかって?

前提となる部分は語らねば始まらないだろう?


人通りの多いスクランブル交差点の真ん中で白い服の少女を見かけるのと、何もない森の中では雰囲気が全く違うのだから。


さて、話を戻そう。


そう、白い少女の幽霊の話だったね。


それはこの街の山方面。

普段は人の影なんて一つも見当たらないような、そんな場所だ。

最初の目撃者は、山の所有者のお爺さん。

ああ、この話を聞かせてくれたお爺さんとは別だよ?仮にYさんとしておこうか。


Yさんは自分の所有している山へは定期的に入っていたそうだ。

それは、別に特段意味のある行動ではなかったらしい。

ただ、単純に暇を持て余した老人の暇つぶし替わりの散歩の様なものだったらしい。

それでも、仮にも自分の持ち物であるのだからと、真面目な性分だったYさんは山の中に数か月に一度は入って山の様子を確認していたんだ。


その日も、特にやる事が無くて暇を持て余し、最近は悪くなってきた足腰の調子もよかったもので山の中に入った。

もちろん、自分の所有地とはいえ山だ。

Yさんも長く生きてきた経験則で知っている。夜の山っていうのは洒落にならない恐ろしさがあると。

だから、Yさんはちゃんとお昼に山へ入った。


山の中は当然だけれど、人一人いない剥き出しの自然。

特に整備もされていない、荒れ果てた獣道を慎重に進んでいく。

その日は快晴で、お天道様もその存在を強く主張していたらしい。

だけど、そんなものは山の中では意味をなさない。


山の中は整備されていない鬱蒼とした木々がその日の光を遮っていた。

真昼間なのに薄暗い山の中は、その太陽の熱すら遮って独特のひんやりとした空気も相まって、まさに「らしい」場所になっていた。

Yさんはあまり幽霊だとかを信じる性質ではなかったらしいが、それでもなお普段とは様子が違う場所に薄ら寒い物を感じていたみたいだ。


そうして、しばらく歩いてYさんもその雰囲気に中てられてあまり長居をしたくなくなって、この山から速く出ようと思ったその時、見てしまった。


何かを探す様にゆらりゆらりと、おおよそ人間とは思えないほどに滑らかな動きで山の中を泳ぐ白い少女を。


雰囲気も相まって逃げるように、山から帰ったYさんは今見たモノを現実だとは思えなくて誰にも言うことなくその日を追えた。


だけども、それからおかしくなっていく。

Yさんの知り合い。特に近所に住んでいる人たちが口々に噂をしている。


最近、この近くで少女を見た。

その少女は何かを探している。

何を探しているかは覚えていない。だけど、とっても大事で必ず見つけなきゃいけない。


そんな噂を。

Yさんは恐ろしくなった。

あの時見てしまったものは見てはいけないものではなかったのか、見てしまったことで呪われてしまったのではないのか...


そんなことが頭をよぎってどうしようもなくなって、知り合いのKさんに助けを求めた。

Kさんは昔から物知りで、そういったオカルトにも強い人物だった。

そのせいで変わり物という風に認識されていたが、それでも受け入れられていたのはそういう誰も分からない事を知っているからだった。


KさんはYさんに助言する。


「玄関にでも青い花をお供えしなさい」


その言葉にYさんは疑問を浮かべた。

だって青い花なんて、少し探せばいくらでもあるじゃないか。

こういう時は塩ではないのか?と


「彷徨う白い幽霊は何も持たない。何も知らない。だから、全ての始まりをお供えしなさい。始まりの母なる海を、それと同じ色をお供えしなさい」


力強くそう言い切ったKさんに、いまだ半信半疑になりながらもYさんはその助言通りにした。


そして、その夜。

日は落ち切ってから暫くが経ち、静かに眠りにつく街にはただ、潮と風の音だけが響いている時間帯。

Yさんは、不安を抱えつつも眠りについていた。


しかし、ふと目が覚める。


それに特に理由はなかったように思う。

ただ、本当に偶然目が覚めた。


暗闇に静寂と、人を不安にさせる要素は十分でYさんは噂の事を思い出してしまう。


そんな不安と恐怖からYさんは本当に玄関の青い花に意味はあるのかと玄関へ向かってしまう。


そこに何かいるかもしれないという恐怖と、何もないという安心を得たい心。

相反する二つの思いから、慎重にしかし確実に玄関へと足を運ぶ。

そして、いつもなら数秒でたどり着くはずの玄関へ数十秒かけてたどり着くとそこには...



何もいなかった。



そこには何もいなかった。

いるかもしれないと恐怖していた白い少女の幽霊は姿形もなく。

そこにあるのはただ暗い玄関だった。


Yさんはなんだ、やっぱり気のせいだったのかと思った。

それともKさんの言う通りにしたのがよかったのかも知れないと、玄関を開けてすぐそこにお供えした青い花を見る。


そこには何もなかった。


確かに供えたはずの数輪の青い花が姿を消していた。

まるで最初からそこには何もなかったかのように。


Yさんはせっかく拭えていた恐怖に再び襲われる。

本当に幽霊はでたんだ。

Kさんの言う通りにしたから無事だったんだ。と。


これ以上こんな幽霊が出た場所に居たくない一心で、家の中に戻ろうとしたとき視界の端にいるモノに気が付いてしまう。


そこには白い服を着た一人の少女がいた。

その少女は地面から浮いており、その服とこの世の物とは思えない表情とあいまって、まさしく幽霊だった。

Yさんの記憶はここまで。


気が付けば朝で、Yさんは自分の布団の中で目が覚めた。

ひょっとしたら全て夢だったんじゃないかとも思ったが、布団の中から出てきた青い花びらと姿を消した玄関の花が、それは夢じゃないと如実に伝えていた。


そういう、お話し」

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