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Page  作者: 時ノ宮怜
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1頁-Ⅴ

「―それでね?あそこのおじいちゃんに聞いた話なんだけど」

「ほうほう?」


 暑い。

 暑すぎるほどに、よく気温が高すぎて体が怠い事を溶けそうなんて表現するが、そんな比喩ではなくて文字通り溶け出てしまいそうだ。

 少なくとも現在進行形で焼かれて茹でられているのは間違いない。

 まるで私は食材のようだ。

 焼くと蒸すを経験したからあとは煮ると揚げるかな?

 太陽には直接焼かれているけれど、アスファルトは間接的だし私自身が動いているから炒めるとも言えなくないかな?


「昔はこのあたりで見つかる宝石には触っちゃダメっていう話があったらしいんだ」

「宝石?」

「そうそう、なんでも不思議な力があってあんまりよくない事が起きてたみたいなんだよね」


 元気がすぎる。

 こんな暑いのに、歩くだけでも体力を削られるというのに、なんであの二人は平然と話しながら歩けるんだろう?

 私はまるで地球の上に置かれた食材。

 まな板の鯉ならぬ地球上の私。

 そんなあらゆる責め苦に対する諦めと覚悟を持つような状態なのに、あの二人は何も縛られることはないとでも言いたげな様子で進む。

 責め苦というと食材というか贖罪か。


「へぇ、どんな宝石があったんだい?」

「私もそれについては詳しくは教えてくれなかったから知らないんだけど、世界中の人が言う事を聞いてくれるようになる宝石とか、楽しい事だけが起きる宝石とか、嫌なことを忘れられる宝石とか、聞いてみると悪い事なんてなにもなさそうな物ばかりなんだよね?」

「ふぅん?まぁ、昔話は往々にして人に道を外れないような注意をするお話も多いからそういう類かな?」

「そうなんだ?」

「禍福は糾える縄の如しってね」

「?」


 クセイアとゆきはそれは楽しそうに話しながら歩いている。

 ゆきのこの町で収集したちょっとした話や、近所の大人からの昔話なんかを話しながら町の案内をしている。

 たまにクセイアが本当に海外の人間か怪しく思うほどの知識を披露して、ゆきが本当に日本の人間か怪しく思うほどにそれを理解していない。

 いや、この場合クセイアの方が異常だろうな。

 ”禍福は糾える縄の如し”って普通に生きてきて使う言葉じゃないでしょ。


「でね?この商店街のこの道をまっすぐこの方向に行くとさ、結構な坂道に出るんだけど...その途中に山へ入る小さい階段があって、その先に小さい神社があるんだよね」

「神社!いいよねぇ、ああいう場所は昔話に事欠かない。それに風情もあるし、日本特有の文化がから結構有名なところはよく行ったよ」


 神社。というよりは宗教の関係する場所。

 神社に限らず寺なんかもそうだけど、昔話や怪談では切っても離せない要素の一つだろう。

 その神社の来歴や祀っている物を調べるだけでも結構な物語になることは難くない。


「そっか!なら気に入ると思うよ!あそこはね、ちゃんとお話しにしたら面白そうな設定があるんだよね」

「......設定って」

「ちよもいくつかは知っているんじゃない?」

「多分?」


 設定と言われると途端に嘘っぽくはなるが、あの神社はそれなりに曰くがあるって有名だ。

 子供の内はその話をされて、近寄らない様に言われてたほどに。

 単純に古く、階段があるとはいえ山道であるから子供に対する注意を込めた話が大半だとは思っているけれど。


「是非!聞かせてくれ!」

「もちろん!」


 むしろ、そういう言い伝えみたいな、啓蒙するような話こそを楽しそうに聞くクセイアにはちょうどいいのかもしれない。


「まずは、王道なところだと......あそこはかなり古い神社でいつ倒壊してもおかしくないそうなんだけど、建て直しや取り壊しは絶対にないそうなんだよ」

「それは……土着の信仰的に問題があったり?」

「さぁ?ここにそこまで信仰心の残るような話とか、文化は無いからそれは違うと思うよ?これはまた別の話なんだけど、普段は無人で誰も管理なんてしていない風なのに、取り壊しの話が出た時だけあの神社に管理人が現れて取り壊しを拒否するらしいんだよね...しかも、普段はどんなに記録を遡っても見つからないのに役所の記録もしっかりしているとか」

「なんとも、現代的な怪談になったね」


 その話は私も聞いたことがある。

 それもまあ、脚色や話のオチがぶれているけれど...だけど、要するにあの神社を取り壊そうとすると失敗するみたいな話はこの町ではだいぶメジャーだ。

 管理人が現れる...というよりは幽霊が出るとかで壊せないとか、無理に推し進めようとすると呪われるだとか、よくある話だ。


「あとは、あの神社で祀っているものを誰も知らないんだよね」

「知らない?自分たちが何を信仰しているのか知らないって事かい?」

「うん。現代人なら…まぁ不思議じゃないけど、そもそも記録にも残っていないらいいよ」

「それはまた、曰く付きだね。曰くがないという事が曰く付きという感じかな」


 それは知らない話だ。

 だが言われてみれば私はあの神社にそもそも行ったことがないし、興味もあまり持ったことが無いから、あの神社に何が祀られているのかを知らない。

 でも、ゆきは違う。

 興味もあるし、行動力も持っていて、何よりそれを調べる労力を厭わないメンタリティがあるのだから隅々まで調べているだろう。

 そんなゆきが知らない。というより、誰も知らないという話にたどり着いたのならなるほど...神社にまつわる話としては確かに十分すぎるほどに面白い設定だ。


「ま、私はそれを知っているんだけどね!」


 ドヤ顔だった。

 それはもうこれ以上ない優越感とそれを私たちに話せることで満たされた顕示欲を表情ににじませた、見事なドヤ顔だった。


「それは……実はどこかに記録があったけれど古すぎて誰も知らなかっただけという事かい?」

「いや、気になったから直接いって見てきた!」

「......」


 怖い物知らずかコイツ。

 なにやってくれちゃってんだ。ホラー小説なら、こいつが原因で不幸が始まるやつじゃん。

 というか、これだけ昔話とかおとぎ話が好きなら「暴く」という事がどれだけの禁忌か知っているだろうに。

 そういう話にあまり興味がない私でも、それがやっちゃいけない事だって分かる。

 クセイアすら、何も言えずに信じられないものを見たような顔をしている。


 え?呪われてたりしないよね?

 私の数少ない友達のせいでとばっちりなんて嫌なんだけどなぁ。


「と言っても、その時は止められちゃったんだよね」

「......ああ、よかった良識のある大人がいてくれたんだ」

「いや、全くだ。私も数多くの話を聞いてきたが、ここまでテンプレ通りの馬鹿がいるとは思わなかった」

「で、その止めた人があの神社の管理人だったんだよ」

「「!?」」


 そこに話が繋がることあるんだ!

 それは管理人さん、焦っただろうな...


「その人に事情を話したら、快く御神体を見せてくれたし来歴を話してくれたよ」

「あれ?そういう物ってあんまり見せていい物じゃないんじゃ?」

「うん、私も見せてもらえると思ってなかったらラッキーだなって」


 そういえば、先ほどから私たちが歩いている道は件の神社に向かう道だ。

 ゆきも話しながら、その場所に実際に行く形で案内していたから、このままだとその神社に行くのだろう。

 不安だ。

 正直、管理人さんに関してもほとんど怪談のような存在なのだから、そもそも神社に近づきたいとは思わない。

 だけど、行ってみたいと思ってそうなのが二人。

 三人中二人。現代日本としてはそれはもう意見を言うだけ無駄だと言えるようなパワーバランスだ。


 すでにその神社に向かうためだけに存在している石階段の前にたどり着いてしまっている。

 もう、覚悟を決めるしかないのだろうか。


「この先にその神社があるんだよね、多分…管理人さんいると思うし行こうか」

「いると思うって?そもそも、そんな古い神社なら管理人もずっとそこに居たら危ないし不便だよな?それなのにそんなタイミングよく居たのかい?」

「うん、管理人さん。しばらくはここにいるって言ってもう数年はあそこにずっといるよ?人が来るのをなんとなく予感してあそこで待っているんだって」

「ほう、それはそれは…神職になるような人物がそう言うと、本当に予知しているのかと勘ぐってしまうな」

「カッコいいよね!」


 階段を進みながらも会話は一向に途切れない。

 一方の私は山道という事で木々が殺人的な日差しを遮ってくれたおかげで多少の体感温度は下がりつつも、夏真っ盛りのなかに始まった疑似山登りによってスタミナを殺されていた。

 一歩上がるたびに、体中から命に係わる何かが削られていくような錯覚。

 二度と、もう二度とここには来ないだろうな。


「あ、見えてきたよ」


 その言葉がまるで刑務作業の終了の合図のように聞こえた。

 今まで下に向いていた視線がようやく上を向く。

 見れば、階段の終わりが見えていてその先にそこそこに広い空間があるであろうことも伺えた。

 苦行の終わりを確信して、体に力が張るの感じる。


 そして、ようやく姿を現した神社。

 存在を知ってはいたが、初めて訪れた神社。

 なるほど、聞いていた通りにかなり古ぼけている。いつ倒壊してもおかしくないというのには納得をせざるを得ないほどにボロボロだ。

 そして、名前がどこにも書かれていない。

 鳥居にもどこにもそんなものが書かれていない。

 その代わりに額束には何か三角形を元にしたような文様が刻まれていた。


「ここがその神社……ねぇ、名前はなんていうんだい?」

「え?しらない。そういえば名前を気にしたことはなかったな」

「名前の分からない神社とか、いよいよホラーじゃない?」

「ワクワクするね!」


 どこにそんな要素があったのか、ホラーは物語だからいいのであってリアルはノーセンキューだ。


「あれ?ゆきちゃんじゃないか?今日はお友達も連れてきたんだね」


 その声は急に現れた。

 私たち、特に私とクセイアはこの神社を初めて訪れて、視点をあちらこちらにやっていた。

 それでも、パッと見たときに人がいないのは分かる。

 そしてどこからか出てきたらそれにも気が付ける。

 ここは確かに登ってきた階段に比べれば広いけれど、そんな人一人を見失うほど広いわけじゃない。

 三人……一人増えて四人もいれば、なんとなく気配を感じる程度には狭い。

 そんな中に急に、何もない空間から現れたかのように自然にそこにいたのは一人の女性。


 女性とはいうものの、その見た目は少女といって差し支えないだろう。

 私と同年代。下手したらそれよりも下に見える容姿。

 しかし、容姿としてはその若さ意外にも特筆すべきところが存在していた。

 完全な左右対称のように見える、造り物めいた顔立ち。

 日本人には見えない自然な金の髪。

 怪しさを宿した赤い瞳。

 そんな明らかに外国の血を感じさせる少女に唯一日本の要素があるとするならば、それは彼女が着用している巫女服だけだろう。


「あ、零さん!そうなんだ、今日は知り合いも連れてきたんだ!」

「そうかい、しかし……懐かしい顔を見たね」

「懐かしい?」


 その巫女さんとゆきが話して私たちを紹介する流れだと思っていたが、その巫女さんの視線が私の隣で止まった。

 そして、その視線の先にいるクセイアも巫女さんと同じ表情をしていた。

 旧知の友と再会したかのような表情を。


「久しいね、零。君がここにいるとは知らなかったな」

「それはこちらのセリフだよ。ククは世界中を放浪しているから、こんな日本の一地方にくるとは思わなかったよ」

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