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お昼を少し過ぎて、太陽に熱された空気はピークを迎えた。
依然として、太陽さんも元気に地球を暖めている。
この日の最高気温を記録する時間帯に外に出るなんてこの季節には無茶無謀だと思う。
そんな中でふと隣を見てみれば、全身からワクワクが隠しきれていない様子のクセイアの姿。
ギリギリ日焼け対策と納得できなくもないかもしれない、見ているだけで暑そうな服装。
服という日差しに対する鎧は極限まで削って、日焼け止めクリームという科学のバリアを使って肌を焼く光だけをガードしている私にとっては、その服装はもはや拷問のように見えてしまう。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか...クセイアは共に寂れた私たちの街の商店街と呼ぶのもおこがましいお店が数個並ぶ通りに来たとたん、元気に店に突撃していった。
「ねぇねぇ、これって饅頭だよね?ハクロ饅頭って書いてあるけど、普通の饅頭となにか違うのかな?ハクロってこの土地の名前だったよね?何か特産品とか混ぜ込んでるのかな?」
「いや、それはただの饅頭だよ。何も特産品とかない町だけど、夏の間は少ないけど海水浴に来る人もいるからそういう人向けのお土産が置いてあるんだよね」
「へぇ、でもなんで饅頭?もっと夏らしいものがいいんじゃない?」
「夏らしいものって何だろう?大体の夏の物って溶けちゃうようなものじゃない?」
「...確かに!」
夏以外に客もいなければ、その夏すら数えるほどしか客が来ない、なんで営業を続けられるのか不思議な土産物屋を見つけて、謎の饅頭の土産に突っ込んでいたり。
「あ、これは......レストラン?」
「まぁ、海外風に表現するなら?海鮮系の定食屋だけどね」
「海鮮!いいじゃん、いいじゃん!やっぱり海の近くはこういうのが多くなるんだねぇ...まだまだ、お昼時だと思うけどあんまりお客さんいないね?」
「ああ、うん...定食屋とは言ったけど、多分地元の人しか来ないし、来るのは夜にお酒を飲みに来る居酒屋に近いお店だし」
「そうなんだ?」
「海鮮は美味しいけど、こんな海の近くの田舎町じゃね...大体の地元民はご近所付き合いとかで魚貰ったりするし...漁師の人とかは食べ放題だろうし、わざわざここで食べるのは自炊が面倒な時ぐらいだよ」
「へぇ~、そういうもんなんだねぇ」
人が全くいなくて、店内の小さなテレビで何かのスポーツ番組を見ているお店の人を見て、経営状態に不安なものを感じていたり。
「これは...何屋さん?」
「雑貨屋だよ。正直、地元の人間としてはこういう見せの方がよっぽどありがたいかな?」
「そうなの?」
「ほら、この町って全然開発が進んでいないからちょっとした雑貨って言うのを買う場所がないんだよね」
「でも、駅の近くにはそこそこ大きなデパートがあったよ?」
「その駅がそこそこ遠いからなぁ...買うものが決まっていたり、車とかの移動手段があればいいけど...そう言うの無い人たちはこういう小さくてもなんでもそろっている見せがありがたいの」
「大変なんだ」
「そう、大変なの。っていうかクセイアだってここまで歩いてきて倒れてたんじゃ?」
「確かに!」
田舎特有の用事がなければ、わざわざ買い物行くのも大変な事情による気持ちを教えれば関心していたり。
なんだか、普通に町の案内をしながら一緒に歩いていた。
こうして解説をしながら歩いていると、この町がどうして田舎なのかって言うのが分かって来てしまう。
どうしたって新しいものを求めてしまう若者としては少しでも発展した場所に行きたがるのは仕方ないにしても、この町に若者が少ない理由が現れている気がする。
「もう少しかな?その、「何でも知っている友達」がいるお店は?」
「いや、何でもは知らないんじゃないかな?ただの昔話が好きっていう変わった友達だよ」
そう、こんな外に出る事が自殺行為にすら思える日中に見る熱中症のクセイアと外に出たのは、別に観光案内をするためじゃない。
クセイアが所望していた、この町に伝わる面白い話を一番知っていそうな友人の元へ向かうためだ。
彼女は普段からそういう話を好んで収集しているため、考えうる限りじゃクセイアの目的にもっとも役に立つ人材だと思う。
ただ、落ち着きのない子だからあらかじめどこにいるかを聞いていないと会えないのだ。
家を出る前にちゃんと、会える場所にいるかどうかの確認をしたら快く了承をしてくれた。
どうやら、今日は家の手伝いをしていて外には出ていないらしい。
「もうすぐだよ、っていうかもう見えてるね」
「お、そうなのかい?」
「うん、あそこに見えてる緑の屋根...屋根?テント?なんて言うんだっけ...まぁ、あそこの店」
「おお!アレだね!!」
そんな話をしていたら、目的の店が見えてくる。
軒先テントによって日陰になっている店頭に並べられた、いかにも古そうないくつかの本。
店の看板にはでかでかと「あつま書店」と書かれたその店は、この町のいわゆる古本屋だ。
ただ、たまに新刊も取りそろえたりもするため、全く使わないということはないし、小中の学校の教科書はここで買う地元民も多いだろう。
そもそも小中ぐらいの年齢の若者が少ないのだけど。
ともかく目的の店にたどり着いて店の中に入ると、古本特有のなんとも言えない不思議な臭いが鼻腔を擽る。
しかし、目的の人物が見当たらない。
もちろん、この町の店の例に漏れず店構えはとっても可愛らしいもので、店に入って店員の姿が見えないなんてことはない。
なんなら、家と合体している影響でスタッフが降りてくるようの奥のドアの向こうにリビングも見えている。
だというのに、店の中もその見える限りのリビングも目的の人物が見えない。
「お~い!ゆきぃ~?」
「...」
「......」
「...返事が無いみたいだよ?」
「たまにあるんだよね...連絡してんのにそこにすでに居なかったりすること」
「それ、もはや連絡の意味がないのでは?」
「いやいや、連絡しないと出会える確率が0%なのを、30%に出来るのは大きいよ?」
「連絡して30%なんだ...」
その無人の店にどうしようかと立ち尽くす私たち。
いやはや、クセイアの言うことが耳に痛い。
いや、私がこんな気持ちになる必要は微塵もないはず。悪いのはゆきなんだから。
「ふっふっふっ」
どうしようもなくて店内の古本を眺め始めた私たちの耳に店頭からの声が聞こえてきた。
「いないと思ったか?ちっちっ、甘い!甘いよ!」
その声はこの夏の激しい日差しと熱の中、今出てきたとは到底思えないほどの汗を流しながら謎のポーズを取りながら宣言した。
「この私が!親友の言葉を聞いて、それを置いて出ると思ったか!!驚かせるためにわざわざ店の角に隠れていたのだ!!」
「いや思うし、馬鹿じゃん」
「はうぅ!!」
本当に頭の悪そうな宣言に、思わず本音が出てしまう。
なにやら傷ついたみたいなリアクションを取っているが、そんなことしても私の心は全く痛まなかった。
「あはは、楽しい人だね?この人が?」
「...残念ながらこの人です。目的の人は」
「おや?そちらの白髪の美人さんがちよの言っていた、倒れていたとこを拾ったという?」
「拾った?まぁ、似たようなものか...初めましてクセイア・クラシーヴァだよ」
「はい!初めまして!阿津間ゆき、この町一番の語り手だよ!!」
「語り手ってそんな怪談じゃないんだから...ていうか、別に人に語ったことなんてないでしょ」
元気の有り余った自己紹介をするゆきと調子を崩さないクセイアの対面は見ていて面白くはあるが、疲れもする。
何せ、ツッコミどころが多すぎる。
「細かい事気にしなさんな!それで?どんな話がご所望なのかな?」
「話が早くて助かるよ。そうだな...とりあえずこの町特有の面白い話のフルコースで頼む」
「お、いいねぇ。こうやって話を聞かせてほしいって言ってくれるのはクセイアさんが初めてだから私も嬉しいよ!」
凄いスピードで意気投合していて、そのコミュニケーション能力に恐れおののく。
細かい事を気にしなさすぎるクセイアと大雑把なゆきの相性が良すぎる。
何から話すか悩んで、積み上がった古本をあさり始めたゆきを傍目にクセイアが顔を寄せて小さく声をかけてきた。
「ちよって言うんだね?」
「......ああ、名前?」
「そう、聞いてなかったなと思ってさ」
「ま、皆そう呼ぶんだよね。小学生の頃からこの髪飾りをしていたから、そこからとってね」
「ちよ」というのは私のあだ名だ。
小学生の頃から気に入って、よくつけている蝶の髪飾り。
一時期は本当に毎日ずっと着けていたから、蝶ちゃんとか呼ばれてた。
それが訛ってちよって呼ばれるようになったのだ。
「クセイアもそう呼んでくれていいよ?」
「そうさせてもらうよ」
そうこうしていると、急にゆきが奇声をあげる。
「ああああああああ!決まらない!!よし、クセイアさん!!」
「何だい?あ、さんはいらないよ」
「分かった!クセイア!何話すか決まらないから、町に出よう!」
「町に?」
「そう!せっかくこの町の面白い話を聞くなら、その話の所以になった場所とかを実際に見ながら話したい!」
「…いいねぇ!面白そうだ」
「…え?」
それはつまり、ようやく目的地について日陰でゆっくりできると思っていたのに、またこの灼熱の中を歩かなきゃいけないってこと?
「いや、私はここがいいんだけど…」
「そうと決まれば!ちょっと準備してくるね!」
「…諦めろ。君も来てくれるだろ?」
「...はぁ」
帰りたい気持ちが無限に溢れてくるけれど、私が連れてきた人を残して先に帰るのもなんだかなと思うので付き合う。
付き合うけど、嫌だなぁ。