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Page  作者: 時ノ宮怜
2頁-丘の漣-
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忘却の少女Ⅱ

 翌日。

 あの後、「せっかくのお泊りなんだから!お喋りしようよ!!」なんて言い始めたゆきを落ち着つかせるために、眠いと訴えかける頭に我慢をさせながら夜が更けるまで話し続けていた。


 その結果、陽がだいぶ昇ってから各々起きてくる羽目となった。


 昇った陽は容赦なく地球を灼く。

 空気はすでに熱せられて、少しでも涼を取ろうと開けた窓からは室温より幾ばくかマシ程度の空気しか入ってこない。

 そんなほとんど昼に差し掛かった時間にようやく朝食をとることとなった。


「「「いただきます」」」


 今朝は時間もないため、簡単に作ったそうめんだ。

 昨晩もそうめんだったが、この季節はいくらでもそうめんを食べてもいい事になっている。

 だから、そうめんだ。


「そうめんって軽くイケるけど、なんか飽きも早くない?」

「別にいいんじゃない?口当たりが軽いだけで、別にそうめんそのものは全然軽くないんだし、食べすぎないって考えれば」

「.........うーん、確かに!」


 実際、そうめんはしっかりと炭水化物だからカロリーは思ったより低くないのだ。

 食べ過ぎは注意だ。

 特に夏は美味しいものが多いのだから。いや、現代社会では年中無休で美味しいものがあるのはそうなんだが。


 ともかく、そうめんは罪深い食べ物だという事だ。


 そうして食事を終えれば、私たちの話題は当然未だに目を覚ます気配のない少女へと向かう。

 少女は相も変わらず、そこにいるのかいないのかが曖昧になりそうな希薄な気配のまま横になっている。

 何もしてなくても玉のような汗が溢れて出てくる。

 拭う先から汗が肌を湿らせていく。

 そんな猛暑といって差し支えない夏の日に、汗の一つもかかない少女に昨日の同じ人ならざる者への恐怖のような感情が湧いてくる。


「この子なんなんだろうね?」


 そんな少女に氷で少しずつ水を与えながら、ゆきがそういう。

 汗をかかないのは脱水が危険な状況まで進攻したからだと思い、そうやって水分を与えていた。

 幸い、少量であれば水を自分で飲んでくれるので、こうして与え続けている。


「何って何?」

「ほら、この子ってどういう存在なのかなぁって」

「存在って...」


 ゆきの言い方はまるで人間じゃないものに対するかのような言い方で、呆れるというか、脱力すると言うか、なんとも言えない気持ちになる。

 とは言え、言いたいこともよくわかる。

 それだけ、この少女からは普通とは違う感覚を覚えているのだ。


「やっぱり幽霊なのかな?」

「幽霊......」


 神社の巫女、零さんから聞いた話に登場した白い幽霊の話。

 確かにその話を聞いて実際に山へ向かって出会ったのだから、関係があるのではないかと疑う気持ちは分かる。

 だけど、それを否定したい。

 そんなよくわからないモノと関わりにが出来てしまう事に、危機を感じ取る本能が拒否反応を示していた。


「そうだね、幽霊かもしれない。ちがう何かかもしれない。人かもしれない。それは、今の私たちには分からないけれど、普通であるということはないんだろうね」


 黙っていたクセイアが横からそんなことを言う。

 つまりは何も分からないという事を言っているのだ。


 普通じゃない。


 それは私にとってはとても嫌なもので、しかもタイムリーなものだ。

 予感がある。

 この少女に関われば、必ず、その花を探すことになると。


「海の花か......」

「...海の花?」


 これからに不安を覚えて緩んだ口から、零れ落ちた呟きをゆきが拾い上げる。

 声に出ていた事に気が付いて少し気恥ずかしくて、おもわずゆきの顔を見る。

 しかし、そこには私が独り言をこぼしたことに対するリアクションというより、急に出てきた知らない単語に対する興味に瞳を輝かせたゆきの顔があった。


「.........あ!」

「ねぇねぇ、なにそれ?そういえば、ちよが調べていた花の話とか聞いてなかったよね!」

「そういえば、そうだったね。それどころではなかったというのもあるけれど。ぜひ聞かせてくれないか?」


 そういえば、言っていなかった気がする。

 意図的ではなく、クセイアが言う通りそれどころではなかったからだ。

 それと同時に、この状況に説得力というか、解像度というか、そういう物が追加されるのが嫌で無意識に避けていた話題なのだろう。


 しかし、こぼしてしまったものは仕方がない。

 むしろ、零さんの話も川村さんの話も、少しだけ違っているが大筋は同じ話だ。

 本当にこの街に受け継がれてきた話の可能性は高く、この状況に合うのもあって共有はしておいた方がいいだろう。


 それに私はあの話を聞いても「そうなんだ」って素直に受け取ることしかできないけど、街の昔話に詳しいゆきと、世界中を旅して経験が多そうなクセイアの二人ならさらに別のことに気が付くかもしれないし。


「まぁ、元々話すつもりではあったから、いいんだけど。そんな大した話じゃないかもしれないからね」

「嫌だなぁ、こういう話は一見大したことなくても、重大な秘密につながるのが常だよ」

「それに、どんなに小さい話でも、今回の話に関係しそうな話なんだろう?期待しすぎるのはよくないと分かっているが、最初から無駄だと思って聞くようでは何も始まらないからね。楽しませてもらうよ」


 念のため予防線を張ると、二人からいいから話せ(意訳)と言われてしまった。

 グダグダ言っても仕方ないのは分かっているので、とりあえず機能あったことを話した。


 最初、図鑑なんかで花を調べていた事。

 変なお爺さんに話しかけられた事。

 お爺さんから、幽霊の話と花について教えてもらった事。


 そして、幽霊も神様も、人からすれば同じでこの街では海の花を大切にしている事。


 それを話きった後は、ゆきとクセイアはなるほどとうなずいていた。


「つまりは、昔のこのあたりの信仰としては海信仰だったわけだね」

「まぁ、それは当然と言えば当然じゃない?海が近い街の昔話なんてほとんどがそれでしょ?」

「それはそうだが、ちゃんと認識しておくことは無駄じゃないよ」

「そっか、そうだよね。.........とりあえず、私たちがするべきなのはその海の花を探す事かな?」

「いや、どうだろう。まだこの少女が、そういった人ならざる存在と決まったわけじゃない。逆に人間だけど、そういう人ならざる者の影響でこうなっている可能性だってある」

「そっか、確かにこの子。雰囲気が妖しいだけで、脚もあるし、触れるもんね」


 何か盛り上がって話しているが、その熱量について行けない。

 やっぱり最初からこういう話が好きな人たちとしては、垂涎の物だったのだろうか。


 二人に置いてけぼりにされたから、仕方なく少女の看病でもして時間を潰そうかと思った時だった。


「二人とも、ストップ!」

「ん?」

「どうしたの?」

「目、覚ましそう」


 今まで何も変化のなかった少女の表情が歪み始めた。

 穏やかだった表情から、覚醒に向かうように、身をよじって。


 動き始めたというのに、気配は希薄なまま。


 やがて少女は目をゆっくりと開けた。

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