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Page  作者: 時ノ宮怜
2頁-丘の漣-
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浮かぶ人Ⅶ

「で?何があったのさ」


ずるずると麺をすすりながら、話を進める。

結局勢いや、ノリで家に上げて看病することになっているが、私としては何が何だか分からない。

拾ったとは言う物のそれがどうしてこうなったのかが分からないと、どうしようもない。


「よく聞いてくれました!」


だから、食べながら話を聞こうということにしたのだが、ゆきがそれを待ってましたと言わんばかりに声をあげる。

どうでも............よくないないな、口に物が入ったまま大きな声を出さないで欲しい。

例え、それが見えなかったとしてもなんとなく不快だ。


「大きな声出さないでよ、何時だと思ってるの」

「まだまだ、夜はこれからじゃい!」

「これからじゃない時間帯の夜はもう明け方じゃないかな?」

「そんな!じゃあ夜はエブリタイムでこれからってこと?」

「馬鹿言ってないで、ボリュームおとせって言ってんだよ」


残念ながら、この場では私とクセイアがタッグだ。

食事の席で、黙ってろとは言わないけど上品さは忘れてほしくないな。


「いいから、話してよ。何があったのか」

「は~い」


少しだけテンションを下げながら、ゆきが渋々語り始める。




解散した後だね、私たちは言っていた通り話にでてきた山の方へ向かった。

そこに行くまでも、クセイアとはいろいろお話をした。

クセイアが旅をする中で収集した、面白い話や怪談。土地に根差した昔話なんかや、そういった話の背景にある人の営み。

そういう話をしながら山に向かっていた。


代わりに私からもこの街の、この土地に根差した話をした。

さすがにその背景までは知らないから、クセイアに推測してもらったのを教えてもらいながらね。


そうしていれば、山なんてあっという間についてた。

ちよも知っている通り、このあたりを囲んでいる山はどれもそこそこの大きさ、広さをしている。

私たちは話しを聞いただけだったから、それがどの山なのかなんて分からなかった。

だから、クセイアの知識を借りてそれっぽい山を探したんだ。


あまり人の目が付かないような場所で、花の群生地が出来そうな開けた場所のありそうな山を。

正直、私には違いなんて分からなかったけど、クセイアにはそれがはっきりと分かっていたみたいで、一つの山の麓にたどり着いた。


そこは人の手入れがあまりされていないのか、鬱蒼としていてまさに何か山の神様でも出て来そうな雰囲気をした山だったよ。

日がかなり傾いてはいたけれど、まだまだ明るい時間だっていうのに、その山は暗くて別世界のようにそこに在った。


こういう話にはいの一番に食いついて、好奇心のままに行動していると自負する私ですら、山の中に入るのを躊躇するレベルだったよ。

実際、クセイアには止められてしまったから諦めたんだよね。


何だっけ?夜の山は法則が違うだっけ?

その意味は分からないけれど、その言葉の説得力はこれ以上に無く感じたね。

だから、諦めた。

その代わりに、ちょっとでもいいから手がかりになりそうなものはないかなって二人で山の麓沿いを歩いていたんだ。


山から冷えた空気が流れ落ちてきていて、夕涼みのようで心地よかった。

結局、私たちはそんな風に駄弁っているだけで時間が過ぎていくはずだったんだ。


あ、もちろん。ちよには悪いから、手がかり探しは真面目にやってたよ?

ちよがこういうことに積極的じゃないのなんて、知っているからね。それを付き合わせたのに、私たちがさぼるのは違うもんね。


でも、やっぱり本命の山の中の探索が出来ないってなって、それほど大きい成果は得られないなっていう気持ちもあったのは確かなんだ。

そういう半ば諦め、半ば惰性のような感じで歩いていたら、山から降りてくる空気が変わった。


まるで凍てつく海のように、波一つたたない凪いだ海のように、そんな張り詰めた糸のような空気が山から漂ってきた。

触れれば糸が撓むように、投げ入れれば波がたつように、だれも触れてはいけない、見る事すら許されていないかのような穢れのない鋭さをもった空気だった。


あまりに急に空気が変わったせいで、私もクセイアも反射的に身構えて黙っちゃったよ。

まぁそれで、私は空気に飲まれちゃって何も考えられなくなってたけど、やっぱり場数なのかな?クセイアが私を現実に戻してくれた。


「これは何かがいる」


ただ短くそう言ったクセイアに私が異論を挟めるわけもなく。

ただ、クセイアの指示に従うことにした。


クセイアは声を抑えながらも、私に簡潔に教えてくれた。


()()()()()は得てして見られることに敏感で、そして人に害をなすことはない」


だって、人に害をもたらすのはもっと分かりやすい悪意を纏っているから、こんな静かな気配にはならないんだって。

なんだか、急にバトル漫画見たいな感じになっちゃったけど、あの時、あの場所での雰囲気が異常すぎて疑問には思わなかった。


「だから、極力見ない様に、害はないだろうが...こういうのに関わったという事実がよくないモノを引き寄せるかもしれないから、気を付けて」


クセイアの言葉に首を振って返事をする。

私としてはそういうのに引き寄せられるという言葉に魅力を感じないでもなかったけど、せっかくの忠告だったのでおとなしく従おうとした。

だけど、あまりにもその判断が遅かった。


私とクセイアが警戒しているなか、それは目の前にいつの間にかいた。


宙に浮く、白い少女。


まるで、何か漂う様に、宙を浮いていると言うより、見えない水に浮いているかのように、揺らぎながら漂っていた。

白い少女は文字通りの姿だった。

白い髪、白い服、白い肌。


そんな少女は、白という色からの印象なのか、透き通るように希薄でそこに存在しているのが信じられないほどに気配を感じなかった。

しかし、その少女の周りに漂う空気が否応なしに少女に注意を向けさせてくる。

そんな矛盾を孕んだ存在だった。


言葉だけで表現するのが非常に困難なその状況で、またしてもフリーズしてしまった私を再起動させたのはクセイアではなかった。


その浮いた少女が急に倒れたのだ。


「え?え??」


それを見た時は恥ずかしながらパニックになったや。

そこからはクセイアが介抱しながらも、普通じゃない子を普通の病院に連れて行くのはマズイってなって、ちよに電話して、今に至る。




「そんな感じだったよ!」

「う~ん、なんも分からない!!」

「そんな!」

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