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Page  作者: 時ノ宮怜
2頁-丘の漣-
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浮かぶ人Ⅵ

 容量を得ないゆきとの通話でなんとか今いる場所を聞き出すと、どうやら山の麓にいるらしい。

 あの神社のあった山の近くだ。

 電話越しだと、興奮したゆきのハイテンションも相まって、本当に聞き取りづらい。

 どうやら、拾った少女というのはクセイア曰く、外傷もなく寝ているだけだと言う。


『ど、どうすればいいのかな?』

『どうもこうも、このままにしておくことは出来ないだろう?』


 そして、いまだに混乱から抜け出せていないゆきと冷静なクセイアの声がスマホ越しに聞こえてくる。

 あんまり気は乗らないけど、ここで突き放すのも違うと思うし、しょうがないか。


「とりあえず、その女の子?はそのままにできないからウチまで連れてきて、ゆきもクセイアも道は分かるでしょ?」

『え、?あ、うん!』

『了解だよ、ちよもそのまま帰ってくるのかい?』

「うん、私の方はちょうど調べものに区切りがついたところだったから、このまま帰るよ」

『分かった!またあとでね!』


 最後まで慌ただしく通話を切られ、先ほどまで耳が壊れるんじゃないかと思うほどの音圧に襲われていたためか、逆に日が暮れ始めている街は酷く静かに思えた。


 さて、こんなコンビニでのんびりしている場合じゃない。

 さっさと帰らないと、ゆきとクセイアのほうが先に帰ってきちゃう。

 道のりは知っていても、流石に家の鍵は持っていないのだから、私の方が遅いとそれだけ家の前で待たせてしまう事になる。

 急がないと。




 さっさと帰れば、目論見通りあの二人よりは早く帰れたみたいだった。

 よくよく考えれば、あの二人は今意識不明の少女を連れているのだからそんなに早く帰る事は無理だったのかもしれない。

 それなら、もうちょっとのんびり帰ってもよかったかと思うが、それで遅れるぐらいならこのタイミングでよかったのだと考えるようにした。


「さて、状況はあんまり分かっていないけど、時間も時間だし、準備だけ始めちゃおうかな」


 そして、私は家に帰り、一息つく前にやるべきことをこなしていく。

 どうせすぐにあの子達も帰ってくるのだから、その準備も進めてしまおう。

 とは言え、何もないか.........

 こういう時はアレだな。


 そうやって時間が少しだけ過ぎたころ、玄関先が俄かに騒がしくなる。

 どうやら、無事に帰ってこれたようだった。


「ちよ~!」


 そんな声まで聞こえてくる。

 いや、確かに連れて帰ってこいとは言ったものの、一応は他人の家なのだからチャイムを鳴らすとか、せめてお邪魔しますぐらいは言って欲しいが。

 そんなことを今この場所で言ったって意味がない...こともないけど、時間の無駄ではあるのでさっさと迎えに行く。


 そこには、息も絶え絶えの様子のゆきと呆れ顔のクセイア...そして、ゆきの背に背負われている真っ白な少女がいた。


「疲れた~」

「ああ、お疲れ。おろさないでね」

「ええ!?」


 ゆきにおろさないように伝えてから、近づき少女の様子を見る。

 少女は白いワンピースに、白髪という本当に真っ白な見た目をしていた。

 そしてその肩はわずかに上下しており、耳を近づけて見れば呼吸音も少しだけ聞こえてくる。

 だらん、と力なく垂れ下がっている手を取って手首を触る。

 脈も、弱いというか圧が少ないというか、分かりずらいけどちゃんとしているようだった。

 素人の判断ではあるけど、今すぐどうにかなってしまうような感じではなさそうだった。


「ああ、そういうのは私のほうでもやったよ」

「先に言ってよ」

「すまない、あと例え、この子が人間的に危険な状態であったとしても病院なんかに連れて行くのはよしたほうがいいだろうね」

「?、どういうこと?」

「そのままの意味だよ。とにかく、この私の言葉をこの場では信じたほうがいい」


 クセイアの意味深な言葉に、私は違和感を強烈に感じつつも、有無を言わせない圧を感じてしまい言葉はなくただ首を縦に振った。


 とりあえず、問題ないようなのでそのまま家に上がってもらう。


「じゃあ、ゆきはその子を居間に寝かせてくれる?枕とかは出しておいたからさ」

「は~い」

「クセイアは手を洗ったら台所に来て手伝って」

「了解した」


 さて、さっさと支度を済ませちゃいますか。

 すでに沸き立つ熱湯に、メインはぶち込んであるので、あとはつゆと薬味かな。

 そんな凝ったものは容易出来ないけど、簡単なのでいいだろう。


「洗ってきたよ、手伝いって何をすればいいんだい?」

「とりあえず、コレ、冷やした水とタオル。あと麦茶、あの子こんな夏の日に倒れてたんでしょ?冷やしてあげて、二人も水分は取って」

「お、すまないねぇ。助かるよ」

「このままご飯にしちゃうからその準備もしてね」

「分かったよ、とは言えそっちに関してはやる事はなさそうだけどねぇ」


 これで、一先ずは私ができる事はやっただろう。

 本当なら、そのまま救急車を呼びたいところではあるけれど、クセイアの忠告が頭をよぎってしまし躊躇う。

 まぁ、顔色が悪いわけじゃなかったし、明日まで目を覚まさないようなら連れて行けばいいか。

 今は、涼しくして安静にさせてあげよう。


 それにお腹もすいた。

 私たちがお腹を空かせて体力が無くなって倒れたら、元も子もないからね。

 腹ごしらえは大事だ。


 そうして、簡単にそうめんを用意した私は取り皿なんかも盆にのせて、居間へ行く。

 そこでは、横たえられた少女を囲むようにゆきとクセイアが様子を伺いつつ、かいがいしく看病をしている姿があった。


「これでいいのかな?」

「ああ、絞りすぎても濡れすぎても効果が少なくなる、ちょうどいい力加減で優しくするのが基本だよ」

「うう、むずかしい」

「なに、かなりセンスがいいよ。私だとタオルを引きちぎらんばかりに絞ってしまうからね!」


 そんなことを言いながら看病をする姿を見ると、なんだか見た目は全然違うのに姉妹のようにも見える。

 性格も似ている様だし、そういう波長が近しいんだろう。


「ほら、話は食べながら聞くから...ご飯にしよう」

「わ!ありがとう、ちよ!」

「おお、これはこれは...まさに夏と言った感じだね。お昼に続きすまないね」

「こんな時間じゃ、今から家とかホテルに戻っても中途半端な時間でしょ。それにその子の事ほっとけないでしょう?」

「えへへ、そういう優しいところちよって感じだね!」

「どういう意味だよ」

「褒めてるの!」


 とりあえずは、落ち着いてご飯を食べながら情報交換をすることとなった。

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