第6話 転生者vs元王宮騎士
ノルリック・ドレッド。彼は王都に昔から住んでいる名家に長男として生まれ将来を約束された謂わゆる勝ち組だ。
そんな彼が何故このようなところであの男の下についているのか、それは簡単だ彼は王宮直属騎士団を辞めさせられたのだ。今目の前にいる男と同様の転生者の台頭によって王宮直属騎士団の在り方も変わった。
彼はその被害者だった。そしてノルリック家からも失望された彼は勘当され、このレノバ村のシブゥリの元で働くことになった。
そんな彼の目の前には彼の転落人生の最大の原因である転生者がいる。
「ふふっ。ここで君を倒すことが出来たのならば私はもう一度、あの場所へ帰ることが出来るだろうか」
「あ?あの場所?何言ってんだ?」
「いやこちらの話だ。すまない闘ろうか」
カケルさんとドレッドと呼ばれた騎士の戦いはお互いに絶妙な距離間を保ちながら始まった。ドレッドは両手に剣を持っていることから二刀流の使いなのだろう。魔物の攻撃すら傷一つつかなかったカケルさんならば心配はないと思いたいが、なんせ相手はあの王宮直属騎士団で副団長をしていた男だ油断はできない。そう僕がカケルさんに忠告をしようとした瞬間にカケルさんが動いた。
あの時と同じように物凄い速さで相手に近づき拳を握り殴りかかった。しかしカケルさんの攻撃は相手を捕られなかった。カケルさんは空中に浮いてそのまま店の外まで転がり出て行った。
見ればドレッドは剣をいつの間にか手放していた。
「痛ってて、いきなり剣手放すとか驚いたぜ」
頭も抑えながら扉からカケルさんが戻ってきた。どうやら頭を打ったらしく涙目になっていた。
「私も驚いたよ。普通はいきなり体勢を崩されては何が起きたのかわからないまま飛ばされるはずなのだがね」
よく見たらドレッドが着ていた鎧の脇腹部分が砕かれていた。おそらく、カケルさんの攻撃の勢いを使ってドレッドはカケルさんを投げ飛ばしたのだろう。しかしカケルさんはただでは投げ飛ばされず、投げ飛ばされる瞬間に脇腹を殴ったのだろう。
「どうやら少し君をみくびっていたようだ。下手をすれば私が負けるだろうね」
「俺こそあんたを舐めてたよ。一撃で決着が着くと思ったんだがな」
そうお互いを称賛しながらドレッドが床に落ちた剣を拾うそぶりをした。その瞬間にカケルは動いたが目の前に剣が飛んできており、カケルは何とか首を横にして回避したがそれと同時にドレッドも近づいており、またしても体勢が崩れたカケルをドレッドはもう片方に持った剣で貫こうとした。
「あめぇよ!剣程度じゃ俺は殺られねぇーよ!」
そう叫びながらカケルは剣にめがけて拳を振り抜き剣を破壊しながらドレッドの鎧を殴りつけ吹き飛ばした。ドガンッ!と音をたてながらドレッドはカウンターに思いっきり突っ込んでいった。
「ちっお前本当に騎士かよ。剣って普通騎士の誇りなんじゃないのかよ?」
「それをあろうことか蹴り飛ばすなんてよ」
そうドレッドは拾うと見せかけカケルに剣を蹴り飛ばしていたのだ。そうしてドレッドは体制が崩れたカケルに近づき勝負をつけようとした。
「やれやれ言ってくれるじゃないか。君こそ本当に人間なのかい?剣を殴って血一つださないなんてね。それに殴られる直前に後ろに飛んで威力を殺したのにこれほどまでとはね」
そう言いながらドレッドは血を流しながら立っているのがやっとなのか壊れたカウンターに手をつきながら起き上がった。
「悪いな俺もやばいと思っちまって力の加減ができなくてよ」
「いや気にすることはないよ。手加減などそれこそ騎士の誇りに傷をつける行為だよ」
「それもそうだな。悪かった。次は最初から手加減しねぇよ」
そう言うとカケルは先ほどまでとは比べ物にならない殺気を放ち構えた。
「ふふっまったく参ったよ」
底がまるで見えない。ドレッドは今のこの短い戦いの中で感じた。彼はこれでも副団長として数多の戦いに参加した。かつて現れた魔物すら超える存在の討伐にもだ。あの時もたった一人の魔物に数万の討伐隊が手も足も出ずに蹂躙された。ドレッドは今目の前に立っている男に対してその存在と同じ感想を抱いた。
生物としての格が違うーーーと
「だがしかし、私自身の為にもここで倒れるわけにはいかんのだよ!」
気力を振り絞りもう一度剣を握ったドレッドはカケルに向かって走った。その直後だった・・・
バンッ!
と言う大きな音と共にドレッドは床に倒れた。見たらシブゥリがドレッドをピストルで撃っていた。
「まったくいつまでこの私を待たせるのだ?ドレッドよ。私はお前になんと命じた?奴を殺せと言ったのだぞ?それなのにお前はなんだ逆に殺されそうになってるではないか?」
「な?!てめぇ何しやがんだ?!」
シブゥリに向けてカケルは殴りかかろうとしたがシブゥリの腕にはニアさんが捕まっていた。
「動くなよ?さもなくばこの女の命はないぞ?」
「くっごめん皆んな・・・」
「シブゥリ!娘を返せ!!」
「はは!返してほしくばその足でこちらまで来たらどうだ?」
「おっとそうであった貴様は片足しかないんだったな!」
「失礼します。シブゥリ様お向かいの準備が整いました。」
「そうか。いいな貴様ら少しでも動いてみろこの女の命はないぞ?」
高笑いをしながらシブゥリは店の扉から出て迎えに来ていた馬車に乗っていった。僕たちはそれを見ていることしかできなかった。
「おい!お前大丈夫か?誰かこいつ手当してやってくれ!」
「なんでそいつを手当してやらないといけないんだよ!」「そうだ!そいつはシブゥリの手下だったんだぞ!」「そんなことよりニアちゃんを早く助けてやらないと!」「馬鹿野郎どうやってシブゥリの奴から助け出せるってんだ?あいつにはあの二人がついてるんだぞ?!勝てるわけないだろ!?」
「皆んな落ち着け!!!」
村のみんながニアが連れ去られたことに焦る中、一人冷静にしていたマスターが叫んだ。
「今ここで言い争っていても仕方ないだろ!少しは頭を冷やせ!」
「おい、にいちゃん」
「なんだ?」
「そいつの傷なんとかしてやる」
「な!?ま、マスター何言ってるんだ!?」「そいつは敵なんですよ!」「俺たちをずっと苦しめてたんですよ?!それなのにどうして?」
「その代わり娘を助け出してくれないか?」
「へぇーおもしれぇ」
「いいぜ俺もあのゴブリンフェイスにはムカついてたところだからよ。でもその代わりこいつは絶対助けろよ?」
「あぁ約束しよう。だからお前も必ず助けろよ?」
「任せろ。こう見えて人助けは得意なんだぜ?」
「そうと決まれば行くぞユウ!」
「あ、え?僕も?!」
先ほどまでずっと空気だったから僕のことはもういないものだとしてくれていると思っていたがそうゆうわけではなかったらしい。
怖くなって逃げようとした僕の首根っこを掴んでカケルさんはマスターから聞いたシブゥリの屋敷まで意気揚々と向かっていった。