第21話 少年の時間稼ぎ
ユウは多頭の魔物と相対して改めてその脅威を肌で感じていた。恐らくあの村であったドレッドやフー・フェン兄弟、初めて出会った魔物よりも強く、恐ろしい存在なのだと。
(僕が本当にあの人が来るまで時間稼ぎを出来るのかが一番な問題なんだけど・・・)
王都に来てからの三日間、ユウだってただただ時間を無駄にして過ごしていたわけではない。ある魔法について調べ、自身で使えるようにしたりカケルに戦い方を教わったりなど少しでも強くなる為に努力はしてきた。
(だけど、僕の実力はそれこそアリサやマナさんにだって遠く及ばない。三日そこらで近づけるほどの才能が僕にないことだって痛いほど理解している)
しかし、それでも今この瞬間だけは引く事は出来なかった。ユウにとって最愛の人であるアリサや少しだけだが時間を共にし、自分に手助けをしてくれたマナ、見捨てられたがそれでも大切な幼馴染達が今自分の後ろにいる自分が今引いてしまったらそれこそ皆んな死んでしまう。
「動けるのは僕だけ。それに時間稼ぎをできるのだって今は僕しかいない」
そう考えていると多頭の魔物の手下である狼型の魔物がユウに向かって迫って来ていた。かつては殺されかけた相手であり、自分の運命を変えたと言っても変わりない因縁の相手。今なお勝てるビジョンなど全く見えない。それでも・・・
「それでも!あの時とは違う!出来ることはある!」
そう叫びユウは手を前に突き出した。そしてユウがこの三日間を使って覚えることのできた唯一の魔法の詠唱を唱え始めた。
「汝!、逃れる道を閉ざし、自由を封じ、うわっ!」
ただ魔物もそうバカではない。ユウが唱える隙を与えるような下手な真似をするつもりは毛頭なかった。詠唱を唱え始めたユウに向かい鋭い爪でその命を奪おうとした。だがそれはユウだって同じことだった。
「くっ!自由を封じよ!、この鎖は決して解けず!、怨敵を縛り続けッ!」
ユウは自身など一撃で仕留めることができる攻撃を詠唱を続けながら辛うじてだが何度も回避していた。
「な、なん・・・で、あいつアレが、避け切れるんだよ!?」
「わ、分かるわけないでしょ・・・それにあの魔法は・・・」
「くっ!ユウ・・・」
「へぇ、ユウってあんなこと出来たんだー」
崖の上から見ていた四人にとっても信じられない光景だった。一撃一撃は確かに大振りで一見避けることも出来るように見えるが、その早さは熟練の冒険者だって避ける事は難しく、多少の傷を負うのを覚悟して受けに回るしかない攻撃をユウは傷を負いながらも避けていたのだ。
「ハァ…ハァ…くっ!怨敵を縛り続ける鎖となろう!」
そうしてユウが唱える魔法は姿を魔物の足元に魔法陣を出現させながら現れた。
「"束縛する鎖"!!」
それはユウが王都に来てから初めて受けた魔法。アリサが使った初級魔法であり、強度は下手なモンスターでは拘束を解くことが出来ないほどで、さらに使い手がどれだけ弱くても強度に関しては一切変わらない非常に使い勝手がよく、尚且つ魔力消費が少なく済む魔法である"束縛する鎖"であった。
そして魔法陣から現れた一本の鎖は魔物に絡みつき魔物の動きを完全に封じ込めた。
「グッウウウ!グガァァァァァ、グ、ゥゥゥ」
「ハァ…ハァ…む、無駄だよ。お前がどれだけ強くてもしばらくはそこから動けないですよ」
傷だらけになりながらもユウは魔物を一匹捕えることができた。何故ユウが避けることができたのか、普通であれば簡単に死んでいたでいた。だがユウは一度経験していた。そして魔物の情報と照らし合わせてユウは一つの仮説を考えていた。魔物はただ殺すことしか考えてない生物でありそれ以外に余計な思考はない。ならば、確実に相手を殺す方法を取るはずだと。そしてその方法はマナとの食事中に魔物との戦った時のことを聞いて確信した。
「爪・・・お前達は基本的に爪での攻撃しか行わない。爪で相手を仕留めてから喰らう。それが基本的なスタイルなんだ。それに動きだって決して複雑じゃない。あの人に似て攻撃は一直線にしか来ない」
それが分かれば話は早い。後はその爪を避けるだけの訓練をすればいいだけ。ユウはこの三日間の間に魔法の習得とは別に相手の特に魔物からの攻撃に対する避け方をカケルから教わっていた。
(まぁ殴りかかってくるのを避けるだけの特訓なんて言えないやり方でしたけどね。それにこんな早くに実戦出来るなんて思わなかったし・・・まだまだだし)
避けきれなかった傷は軽傷ばかりではなかった。アリサやカケルなら完璧に避け切れたかもしれない攻撃だが、ユウにとっては幾ら特訓しても簡単に出来るものじゃなかった。
「一匹捕まえるのにこれか。あ、後何十匹もいる、のに・・・」
目の前の多頭の魔物はユウに対し、先程までとは違い最大限の脅威だと評価しているように見えた。いや現段階ではそこまでではないが、いずれ自分達を脅かす存在だと認識している様子だった。
恐怖心を与えながら泣き叫びながら、自分達に蹂躙されるのを見たかった多頭の魔物はその考えを捨て、正確にユウを殺す為に動き出した。ユウも同時に詠唱を唱え始めていた。
(僕の魔力ではあと四本の鎖しか出せない、それ全てをあいつに使って止まれたら良いけど、最悪の場合引きちぎられて終・・・)
「え・・・?」
ユウの考察は正解だった。修正すべき点は多少あったのかもしれないが百点に近いものだった。だがそれはあくまで多頭の魔物が従えない奴らがそうだと言うだけ話だった。更に言うのならユウは自分が覚えた魔法を過信していた。初めてまともに覚えることが出来た魔法と言うこともあるのだろうが、食事中にマナが話していた束縛する鎖を食い破られたと言う事を忘れてしまっていた。
(つ、つか、まった、ふり・・・そ、んな)
ユウは先程の魔物によって横から思いっきり叩きつけられ吹っ飛ばされてしまった。
「クソ、私のバカ!私が使ったとかだって食い破られたんだからあんな奴が従えてるのが破れないわけないじゃない!ユウ!起きて逃げなさい!」
「ゆ、ユウ!逃げて!」
マナとアリサの声が聞こえるが、ユウは立つことすらできなかった。そして多頭の魔物は魔物とは思えないほどの邪悪な笑みを浮かべて近づいて来ていた。全てがこの魔物による演技と言わざる得ないくらいにユウは踊らされていた。
「く、くそぉ」
ユウもアリサもマナもこの場にいる人間達は多頭の魔物のことを正確に認識していなかった。多頭の魔物はユウ達をこの場で食おうとは微塵も思っていなかった。自分達の奴隷とし、怯えながら泣き叫びながら少しずつユウ達を喰らい、恐怖するその顔を見たくてたまらなかった。その為ならば、多少向こうに活躍させることすらする。そこから絶望の顔になるのが堪らなく好きだった。しかし・・・
「ば、束縛する鎖」
自身の下から四本の鎖が現れ自分を縛った。今さっき自分の部下に吹き飛ばされた男は未だ立ち上がり恐怖など微塵も感じさせなかった。
「ま、まげな、い・・・かな、らず、ぎて、くれるから・・・」
多頭の魔物がユウを脅威と感じたのは本当のことだった。そしてそう感じた意味が多頭の魔物もよくやく理解した。
この生物は自分を脅威だとは感じているのだろう。しかし恐怖していないのだ。崖の上にいるもの達は皆少なからず自分を恐れていた。だがこの男は違った初めてから一切恐怖していないのだ。今までいなかった存在に多頭の魔物自身が恐れていたのだ。
それを理解した多頭の魔物はユウだけは殺す事にした。そして鎖を引きちぎりユウを自身で処分する為に近づいた。その時だった天井が崩れ一人の男が現れた。
「ぼ、僕のか、ちだ・・・」
そう言って倒れたユウを抱え、現れた男は崖に上がっていった。
「ああ、お前の勝ちだよ。大勝利だユウ・・・お前はすごい奴だよ、よくやった」
「へ、へへ」
「あ、あんた・・・誰?」
「あなた、あの時の・・・」
その男は後ろを振り向き一言
「ユウのこと任せた」
そう言って崖が半壊させながら多頭の魔物のところまで飛び、多頭の魔物を遠くへ殴り飛ばした。
そして・・・
「オラ行くぜ?ワンちゃん共、躾してやるよ」
そう言ってその男、カケルは魔物達が恐怖する程の殺意を持って蹂躙を開始した。




