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理の継承者  作者: 鈴本 流幸
第二章
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試練の塔 ー決意ー

 試練の塔に向かうまでの道中、セイヤはただ黙々と一番後ろを歩いていた。

 その前を歩いているアマネは心配そうにチラチラと後ろを見ながら歩いている。

 先頭を歩いていたラウはセイヤの姿を見ると、にやりと笑っていたが、

 セイヤを見ているアマネを見ると「ふん!」と言って、ずかずかと乱暴に歩みを進めていた。

 ラウとアマネの間の位置を歩いていたガイは我関せずという感じで歩いてる。

 様々な足取りで目的地の試練の塔に着いた。


「さて、ガイさん、坊主。さっそく行くとするかのぅ。アマネは外で待っていなさい」


 ラウは各自に言うと入り口に向かって歩き出し、セイヤとガイはラウのあとに続いた。

 アマネは特に反論をせずに「どこか座れそうなとこないかなー」とキョロキョロしていた。

 試練の塔の入り口は塔の高さに合わせた大きさになっている——……わけではなく、 二、三メートルくらいのアーチ状に作られた木の扉だった。

「では、行くぞぃ」と言って、ラウは扉を開けた。

 入り口から入ると、そこは窓が全く無く、別のところに繋がる扉も一切ないただのかなり広い部屋だった。

 左右の壁に均等に取り付けられている多くのランプのおかげで明るさは問題ない。

 セイヤたちの足音だけが響くなかをひたすら進むと、新たな扉が見え始めた。

 その扉は塔の入り口と類似しており、二、三メートルくらいのアーチ状に作られている部分は同じなのだが、扉の素材が異なっていた。

 扉は幾何学模様が描かれた石でできており、左右の扉の真ん中あたりに赤い水晶のようなものがはめ込まれていた。


「よいか、坊主。ここからが本当の試練のはじまりじゃ」


 ま、今は下見じゃがのと付け加えて、ラウは赤い水晶を押し込む。

 すると扉が左右に開いていき、通れるようになった。


「ガイさん、すまないがここで待機しててくれるか?」

「わかりました」


 ラウはガイにお願いするとセイヤと二人だけで扉の向こうに進んだ。

 進んだ先には目を引くものが二つあった。

 一つは橋だ。この橋は手すりがなく、扉と同じ石で作られていた。

 橋の先をよく見ると、薄っすらとだが上に繋がる階段が見えた。

 セイヤたちが立っているところと上に繋がる階段までの間には底が全く見えないほど深く大きな穴がある。

 この穴を回避し、上に繋がる階段のところまで渡るために橋が用意されているのだろう。

 橋を渡ることが試練ということは推測ができるが、ただ渡るだけではないようだ。

 その理由は目を引いたもう一つ、天井から大きな鎖で繋がっている半円状のこれまた大きな鎌が振り子のように橋の上を揺れていた。

 鎌の数は相当多く、鎌と鎌の間隔はバラバラで、各鎌の揺れる速さもバラバラである。

 セイヤはこの試練の対策をいくつか練っているところに、ラウから声がかかった。


「おそらく色々と策を練っているとこじゃと思うが、無駄じゃぞ?」


 ラウはここに来る前に拾った石をセイヤに渡し「坊主、これを橋の奥にむかって投げてみよ」と言った。

 セイヤは言われた通りに石を投げる。

 石は距離に比例して、高さもどんどん上がっていく。

 高さが鎌と鎖の接続部分より上に達した瞬間、石が突然消えた。

 驚いたセイヤは石の行方を捜すため周囲を見回していると、足元でコツンと音が鳴った。

 足元を見ると、先ほど投げた石が転がっていた。


「見て分かったと思うが、『鎌の上を通っていく』は無理じゃ」


 鎌の上を通ろうとすると元の位置に戻されてしまうようだ。

 ラウはセイヤの足元の石を拾うと話を続けた。


「おそらく次にこう考えるじゃろうな。『上がダメなら鎌が目の前を通過するのを待ってから進んでいく』と」


 じゃがな?と言うと、ラウは石を橋の上に投げる。石はカツンカツンと音を立てながら橋を転がっていく。

 しばらくするとピタリと止まった。途端、時間にして一秒をちょっと過ぎたくらいで石が止まったところの橋の一部が一瞬で消えた。

 足場を無くなった石はそのまま穴に落ちていき、先ほどと同じように消えた。しばらく待つとラウの足元に石が戻ってきた。


「このように『待ってから進む』のも無理じゃ。ここまでやったら、方法は自ずと分かるじゃろ?」


 セイヤが思いついた策は確かに今行った二つの実演で全て消えた。となると、方法はおそらく一つしかない。


「<天翔(あまかけ)>という技を使って一気に駆け抜ける……ですね?」


 ただ走って駆け抜けるのでは、どこかの鎌で足を止められてしまう可能性が高い。

 またあの鎌が見た目のままの動きをするとは限らない。例えばいきなり揺れる速さが変わったり、突然目の前に鎌が現れたりするかもしれない。

 見たわけではないので可能性の話になってしまうが、どちらにせよ足を止める場面を意図的に作られてしまう。

 そのため「走るよりも速い移動方法で駆け抜ける必要がある」のだ。

 それは<天翔>をおいて他はない。

 ラウは正解とも不正解とも言わずに「そろそろ戻るぞ」とだけ言って帰路についた。

 石の扉のとこで待機していたガイと合流して、三人は試練の塔を後にした。

 塔から出ると、セイヤたちが出てくるのに気付いたアマネが近づいてくる。


「今見せたような試練がいくつあるかまではわしは知らん。知らんが、これらの試練をすべて乗り越えた者に『理』は受け継がれる。どうじゃ、坊主。今までわしの説明を聞いて?」


 ラウに問われたセイヤは語りだす。


「命からがらに相手した魔人に言われたんです。お前らはこの世界のことを何も知らないって」


 "俺が魔獣だと?はっ!どうやらこの世界を全く知らない雑魚どもだったようだな!"


「ラウさんの話を聞かなかったら本当に知らないままだったと思います。だから世界のことを少しでも知れて良かったです。

 理解が追いつかないものが多くて戸惑っていましたけど、この世界のことを知ったからには、僕のできる限りでやってみようと思います」


 一瞬で長い距離を移動することや三メートルを超える岩を簡単に壊すのを見て、

 普通ではありえないものを「これが普通だ」とすぐに理解するのは難しい。

 だが世界を知り、自分がその世界に足を踏み入れていることに気付いたときに、セイヤは少しずつ受け入れ始めた。


 ——自分はこの世界で「見える側」として戦っていくのだと。


 ラウはそんなセイヤの言葉を聞いて「ふん!えらそうなことを言いよって!坊主のくせに!」と認めたいけど意地でも認めないような態度で返した。


「最後に『理』とずっと言っておるが、わしらはこの『理』をこう呼んでおる」


 一拍を置いて、ラウは言う。


「『青天の理(せいてんのことわり)』と。そして『理』を受け継いだ者のことを『継承者(けいしょうしゃ)』と呼ぶ」

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