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理の継承者  作者: 鈴本 流幸
第二章
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試練への条件

 先行して歩いているラウはしばらくすると歩みを止めた。セイヤたちも合わせて止まる。

 ラウは静かに語り始めた。


「まずはそうじゃのう、魔獣や魔人のことを話すとしよう。

 わしらは魔獣や魔人のことを総称して魔の者……『魔者(まもの)』と呼んでおる。

 この魔者と戦い続けているのじゃ。何十年、何百年もな。

 『わしらが』ではないぞ?坊主はここに来る前にも魔獣を倒していたそうじゃな?

 『人類』は知らずに魔者との戦いに巻き込まれているのじゃ」


 ラウはセイヤたちのほうへ向きを変える。


「『わしら』の話に戻そう。何百年の戦いの中、初代から代々受け継いでいるものがある。なぁ、坊主。『(ことわり)』というもんを知っておるか?」

「……『空は青い』みたいなことですか?」


 セイヤは自信なさげに答えると「当たらずとも遠からずじゃな」とラウに採点された。


「坊主が言ったことを例えて言うと、

 『空は青い』や『夜になると空は暗くなる』は『常識』じゃ。

 『常識』とは云わば『ルール』。果たして『ルール』は『理』と言えるかの?

 そうではなく青くても暗くても『空は空』というのが『理』じゃ」


 なるほどと納得するセイヤ。ラウは話を続ける。


「わしらはこの『理』を受け継いでおる。

 当然じゃが、受け継ぐものは誰でもいいわけではない。

 受け継ぐに値するかを選定するのがアマネから聞いた『試練』というわけじゃ」


 ここまでは良いか?とラウはセイヤに聞いてきた。特に問題はないので頷く。

 セイヤの頷きを見て、話を続ける。


「試練を受ける場所はもう分かっているかもしれないが、あの塔じゃ。

 塔に入る条件は一つ。

 坊主がここに来た要因でもある、こやつらじゃな」


 ラウは近くにいた小さな光を指さす。

 セイヤが周囲を見回すと、かなりの数の小さな光たちがふよふよと浮いていた。


「この小さな光のことをわしらは『天子(てんし)』と呼んでおる」


 天子とつぶやきながらセイヤは天子に手を伸ばすと、天子たちに避けられてしまった。

 残念そうな顔をして伸ばした手を引っ込めるセイヤ。

 それを見ていたアマネはくすくすと笑っていた。


「『天子が見えること』が塔に入る条件じゃ。入るだけならここにいる全員が入れるのぅ。

 だが当然、試練というくらいだからそんな甘くはない。

 この試練を攻略するのにも条件があるのじゃが……」


 途中で言葉を切ると、ラウはガイのほうへ視線を向ける。


「聞いたところで今すぐどうこうできるものではないので、言っても構いません。ラウ殿」


 相変わらずムスッとした顔だったが、ラウが言いにくそうにしていたことに承諾をするガイ。


「すまないのぅ、ガイさん」と言った後、再度セイヤに視線を向ける。


「ガイさんが実際に試練に挑んで得た情報じゃからな。わしの勝手な判断で言うわけにはいかんのじゃよ。 ガイさんに感謝するんじゃぞ、坊主」

「そうでしたか!ありがとうございます、ガイさん!」


 セイヤはガイのほうを向いて、お辞儀をする。それに対して「いえ」と短く答えるガイ。

 おほんっ!と空咳をしてラウのほうへ全員の意識を向けさせると話を再開した。


「わしらは天子を見るだけでなく、天子の力を使うこともできるのじゃ。

 先祖代々、天子の力の使い方を研究し『(わざ)』とし、『技』を集めて『流派(りゅうは)』にしたんじゃ。

 流派の名は『神刀流(しんとうりゅう)』。

 塔に挑む最低条件は、この神刀流の『基本技を二つ習得する』ことじゃ」

「その二つの技を教えてくれるんですか?」

「ガイさんにも教えてないのに、坊主にだけ教えるわけがなかろう!

 が、どんな技なのかは見せてやらんでもない」

「何をすれば見せてもらえるのですか?」


 そうじゃのと考えだすラウは、しばらくするとガイの隣に移動する。

 ラウの顔が意地悪そうな顔になっていった。一体どんなことを言われるんだろうと身構えるセイヤ。


「『ラウさん、ガイさん。この無知でダメな私にどうか二人の素晴らしい二つの技をお見せください。お願いします』と 土下座をして頼むのなら見せてやろうかのー」


 かっかっか!とラウが笑っていると、「ラウ爺?」とアマネが声をかけた。


「ラウ爺がもしだよ?もし本当にセイヤくんにそんなことをさせるって言うのなら……」

「な、なんじゃ?」


「もう一生口きかないから」


 その年齢でその顔色はマズいんじゃないか?というほど、顔色が青白くなっていくラウ。

 大事に育てた可愛い孫娘に言われたら、そうなってもおかしくはないが。

「あ、アマネや?じょ、冗談じゃろ?」と聞いても、返ってくるのは沈黙だった。


「じょ、冗談じゃよ、冗談!そんなことをせずとも見せてやろうぞ!

 ……って、坊主!土下座しようとするでない!」


 アマネとラウのやり取りを聞いていなかったようで、中腰くらいになっていたセイヤは「え?」と言って、動きを止めた。

 そんなセイヤを見て、アマネは「いいから、いいから」と言って体を起こさせた。

 ラウは周囲を見渡し、遠くのほうに岩を見つける。


「基本技じゃが……あそこに岩が見えるじゃろ?誰が先に着くか、競走をしようじゃないか」


 え?と急なことで驚いているセイヤ。


「いや、誰が先に着くかはわかりませんけど、一番最後に着くのはあの、申し上げにくいんですが……」


 ラウはそんなセイヤの言葉を聞いて、ニヤリと笑う。


「ほほぅ、坊主はわしが一番最後だと言いたいんじゃな?」

「え、まあ……はい」


 誤魔化そうとしたが、結局素直に答えるセイヤ。


「かっかっか!はたしてどうなるかの?それじゃ、よーい、ドン!」


 勢いよく走り出したセイヤ。が、走っている途中で違和感を感じていた。

 岩まであとちょっとというところで横を見ると誰もいなかった。

 まさかと思い、後ろを見るとセイヤ以外一歩も動いていなかった。

 セイヤは足を止めようと目を離した瞬間、三人がさっきまで見ていたとこから消えていた。

 周囲を見てもいなかった。ふと嫌な予感がして、おそるおそる後ろを見ると、岩のとこに三人がいた。

 混乱しつつも岩へ向かうセイヤ。岩に着くとセイヤだけが息を切らせていた。

 呼吸を整えるよりも疑問のほうが勝っていた。


「はぁ……はぁ、ど……どうして……?」

「わしらが使ったのが先ほど言った神刀流の基本技の一つ、<天翔(あまかけ)>じゃ」


 <天翔>と心でつぶやきながら呼吸を整えていた。

 続いてラウは聞く人によっては「何言ってんだ、こいつ?」となるようなことを言い出した。


「なぁ、坊主。ちょっとこの岩を壊してくれんかの?」

「えぇ!?無理ですよ!道具があったとしても無理です!」


 離れた場所から岩が見えるということは、近づけばかなりの大きさがあるということだ。

 現に近くで見ると、この岩は三メートルくらいはありそうな大きな岩だった。

 これを壊せと言われても、普通に考えれば無理だ。なのでセイヤの反応は正しい。

 正しいのだが、ラウはため息をつきながら言った。


「はぁー……最近の若いもんはすぐに諦める。やれやれじゃな」


 セイヤが反応を返す前にラウが「ガイさん、頼めるかの」とガイに言った。

 ガイは有無を言わずに頷き、岩の前に立つ。

 ラウが「坊主、そこにいるとあぶねーからこっちにこい!」と呼ぶので、ラウの近くに移動する。

 場が静まると、ガイの右手に変化が表れ始めた。

 右の手のひらに天子が集まっていき、徐々に光が大きくなっていく。

 右手を包むくらいに大きくなると、ガイは腰を落とし、岩に向かって右手を突き出した。

 右の手のひらが岩に触れた瞬間、三メートルあった岩が轟音とともに粉々に砕け散った。

 ラウは満足したようにガイのもとへ行き、「ご苦労じゃった」と労い、その言葉を聞いたガイはラウに低頭した。


「坊主、これがもう一つの基本技、<天衝(てんしょう)>じゃ。

 今見せた二つの技が試練に挑む最低条件じゃな」


 言い終わると、粉々になった岩から適当な大きさのものを拾い始めた。

 セイヤは何も言えずにただ立ち尽くすだけだった。

 そんなセイヤを見て、アマネは何か声をかけようとしたが、

 手ごろなものを拾い終わったラウが先に言葉を発した。


「坊主!特別じゃ、試練の塔の中がどうなっているか今から見せてやろう」

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