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理の継承者  作者: 鈴本 流幸
第五章
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酒場にて ー猫と影ー

 とある都市の一番栄えている酒場。

 本日もこの酒場は商売繁盛中で、多くの人で賑わっていた。

 そんな中、特に人払いをしているわけではないのに、テーブルに座っている三人以外、人がいない一角があった。


「影からの報告についてだが」


 テーブルの上に埋め尽くされんばかりの料理をつまみながら話し出す逞しい腕をした男性。


「あぁ、『新たな継承者が現れた』だったね」


 これに答えるのは料理には手を出さず、終始ワインだけを(たしな)んでいる金髪の男性。


「見解は?」

「んー、君の見解はどうなんだい?」

「あのとき他の継承者は四方にいたと思う。一瞬であの場に移動することは彼らには可能かもしれない。だが、そもそも戦闘後の跡が彼らとは異なっていた。なので、新たな継承者が現れたことに間違いはないと思う」


 男性の見解に対して頷く金髪の男性。


「うん、私も概ね同意見だ。まぁ断定して動くのは危ないと思うから『可能性が高い』と思って動くといいと思う」

「そうだな、そこに関してはいつも通りってことだな」

「そのとおり。……なんだ、私の意見を聞かなくてもわかっているんじゃないか」


 苦笑する金髪の男性に対して、首を横にふる男性。


「意識あわせをするのは大事なことだ。が、今回については『こいつ』に理解してもらうための意味が大きい」


 男性は親指を使って、当人を指す。


「ほぇ?」


 その当人、猫のような女性は目の前の料理を食べることに夢中になっていた。


「……お前、話聞いていたか?」

「聞いてたっすよ。このステーキには、この店の特製ソースが一番合うって話っすよね?」

「全然違う!」


 激昂する男性に「まぁまぁ」と落ち着かせる金髪の男性。


「影と君が報告してくれた内容は正しいと我々も判断したよ」

「それを聞いて安心したっす」

「そこで君に頼み事があるんだけど」


 金髪の男性は大変さわやかな笑顔で女性を見る。


「うわぁ……嫌な予感しかしないんすけど……なんすか?」


 女性は渋々話を聞くことにした。


「君が行っていた一団のところにもう一度行ってくれるかな?」

「あそこにっすか?何でまた?」


 金髪の男性は自分の顎に手をあてて悩むふりをしたあと、答えを言う。


「勘かな」

「説得力ゼロの回答っすね!?」


 ここで男性が割り込んで話し出す。


「お前も……というか、俺達全員知っているだろう?『こいつの勘は大抵当たる』と」

「そうっすけどね」


 彼らの話を聞いている間、金髪の男性は懐から小さな袋を取り出し、女性の前に置く。


「……これは?」

「開けてみるといい」


 恐る恐る開けてみると袋いっぱいに詰まった金貨が入っていた。

 金貨の量は報告をした際にもらった量よりも大幅に多かったため、女性はしばらく固まっていた。


「もし行ってくれるなら『成功報酬とは別』にそれをあげよう」


 女性は目を見張る。


「君がどうしても……どーーーーーっしても、行きたくないというのなら私も心苦しいが……別の者に頼むことにしよう」

「あっしがやります!!」


 金髪の男性が胸を抑える演技をしながら「別の者」と言ったあたりで、女性から勢いよく声が上がった。


「そうか、助かるよ」


 女性に笑顔を向けた後、再びワインを飲み始めた。

 しばらく三人で料理やワインを楽しんだ後、女性から話を再開した。


「それで、あっしはいつ頃から行けばいいんすかね?」

「そうだね……なるべく早めに行ってほしいんだけど、念の為他の者にも確認してからにしようか」

「了解したっす。じゃあ、あっしは連絡が来るまで待ってればいいってことっすね」

「連絡が来たらすぐ行けるように、しっかりと準備して待機しているんだぞ」

「えっ?」

「えっ?って、もしかしてお前、何もせずにただ待っているつもりだったのか?」

「そんなわけないっすよ。……美味しいご飯を食べたり、欲しい服を買ったり過ごそうとしてたっす」

「……なぁ、しばらくこいつ俺が指導していいか?」


 額に青筋をたてながら言う男性に対して、言われた女性は青褪めながら首を横に勢いよく振っていた。


「……指導は自分がする?まったく、お前は本当に甘いというか……いや、怒っているわけではない」

「まぁまぁ。影は私達の中で一番優しいからね。今まで通り彼女のことは影に任せよう」

「さすが影さんっす!愛してるっす!……なんで凄い嫌そうな顔してるんすか!?」


 この場で決めることを決め、そろそろお開きの雰囲気になり出すと、女性が何やらソワソワし始めた。


「どうしたんだい?」


 金髪の男性が声をかけると、女性は話し出した。


「いやぁ、美味しい料理だったんすけど……あっし、お金が……」


「さっき渡した金貨があるだろ」と思いはするが、それを言葉にしない器量が男性二人にあった。


「気にすることはない。もちろん、君のぶんもこちらが出すよ」

「ほんとっすか!?ありがとうございます!」


 女性は元気にお礼を言った後、その場を後にした。




「……あぁ、そうだ。今回も頼めるかい?……そうか、君がいてくれるなら彼女も安心だろう。もちろん我々もね。……ん?お金は不要?ははっ、君の謙虚な姿勢は嫌いじゃないよ。……あぁ、状況によるが君の判断に任せよう」


 懐に再度手を入れながら、まるで独り言のように話す金髪の男性。

 会話が一通り終わると、グラスに残ったワインを一気に飲み干し、席を立つ。


「さてと、それじゃこれからも頼むよ」


 男性が低頭するのを見た後、金髪の男性はその場を後にしようとするが、それを阻止しようとする声が上がる。

 低頭したままの男性からだ。


「なにかな?」

「とぼけるな。……ここの支払いを俺にさせるつもりだろ?お前も出せ」

「バレたかー」


 二人で半分ずつの金額を支払って、一緒にその場を後にした。

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