継承者としての戦い ー決着ー
ドッソの一言で引き締めていた空気が一気に霧散する。
「ドッソ、あなた今なんて言ったのかしら?」
「ん?なんだ、聞こえなかったのか?帰るぞって言ったんだよ」
怒りからか全身が震えだすルーマァ。
「前から思っていたけど……バカなの、あなた!?相手は一人、それも手負い!それに比べてこっちは四人。どこに帰る理由があるのよ!?」
「四人?四人だと?」
ギロリとルーマァをにらむドッソ。
途端、周囲の空気が一段と、いや十段と重くなったように全員が感じた。睨まれたルーマァ本人は後ずさり、堪らず尻餅をつく。
「ルーマァ、お前が今立っていられるのはそこの人間が『殴打』したからだ。もし手に持っている武器を使われていたら、お前はもう終わっていたよ」
いいか?とドッソ。
「こっちは本来は『二人』だ。……まぁこの際、数はどうでもいい。ルーマァ、リレン。それにゴウガも。お前らはそこの人間に負けたんだよ。敗者は敗者らしく大人しくしていろ」
ドッソから現実を叩きつけられたリレンとルーマァは顔を背け、押し黙るしかなかった。
「そして俺はそいつと戦う気はない。リィ、お前は——」
「ドッソ様に戦う気がない以上、私もそれに従います」
リィルロッヒの言葉に「さすが、リィだな」とドッソはニヤリと笑う。
「というわけで、こっちに戦うやつは誰一人いない。……今回のこの戦い、お前たちの勝ちだ」
だが、とドッソ。
「戦いに負けはしたが、俺たちが生きているのもまた事実。次会う時のためにここは引き帰らせてもらう」
セイヤとドッソ両者の視線がぶつかって数十秒、セイヤは目を閉じ、『青天の理』を鞘に収める。
「賢明な判断だ。おし、さっき言ったとおりだ……帰るぞ!」
ドッソの一声で先に動いたのはルーマァ。
その場に立ち上がり、セイヤをキッとひと睨みした後、転移したかのように消えた。
(転移符?いや<天翔>に近いか?)
「リレン、お前はリィに連れて行ってもらえ。リィ、頼んだぞ」
「はい。リレン様、私におつかまりください」
「すまぬ、世話をかける」
リレンがリィルロッヒの肩あたりを掴んだ後、二人ともルーマァと同じようにその場から消える。
「そういやぁ、人間。お前、名前はなんて言うんだ?」
「……セイヤ」
「らっはっは!そう警戒するな。名前を聞いただけだろう?セイヤ、お前は俺たち『四魔星』のうち三人を倒した。お前の強さは俺たちの想像以上のものだった」
だが、とドッソ。
「それでも俺よりは弱い。弱すぎると言ってもいい。今のお前と何度戦っても負ける気がしない」
ドッソはセイヤに背を向けて、肩越しにセイヤを見る。
「だから強くなれ、セイヤ。お前には期待している」
そう言い残すと、ドッソもその場から消えた。




