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理の継承者  作者: 鈴本 流幸
第四章
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青天の戦い ー臨戦ー

 徐々にこちらに向かってくる魔者たちの輪郭が見え始めた。

 (ざっと見たところ、百はいないくらいですか……)

 転移符を設置していたときも魔者と戦うことはあったが、それでも数名ほど。

 数でいえば今のほうが格段に多い。


「しかし、やることは変わりませんね」


 魔者たちも進行方向に誰かがいるのに気づき始める。

 その中の先頭を進んでいた男性の魔人が並走している魔人に声をかける。


「おい、あそこに誰かいないか?」

「ん?あぁ、確かに誰かいるな」


 魔人たちがそんな話をしている中にガイは<天翔(あまかけ)>で近づく。


「な!?きさま、いつのま……ぎゃあぁあ!?」


 ガイは男性の魔人が言い終わる前に一刀で切り伏せ、近くにいた魔人も一緒に切り伏せる。

 そのまま前進しながら、近くにいる魔者たちを次々と倒していく。


「あの人間、さっきのやつの仲間か!?」

「なんだっていい!俺達に刃向かうってことは敵だろう!」

「あぁ、そうに違いない!相手はたった一人だ!囲んでやっちまえ!」


 ガイを倒す算段をする魔者たち。だが。


「お構いなく。こちらからいきますので」


 算段をつけているあいだに近くまで来ていたガイは双剣で二人の魔人を切り伏せた後、天子を集めた右脚で目の前の魔人を蹴りつけ、周囲の魔者を巻き込んで吹き飛ばす。

 再び近くの魔者を相手しようとしたガイだったが、中型の狼型魔獣がこちらに向かってくるのを見つけると懐から束縛符(そくばくふ)を取り出し、狼型魔獣に向けて投げ放つ。

 束縛符が狙い違わず狼型魔獣に貼り付いた途端、狼型魔獣の全身が固まる。

 狼型魔獣は自分に起こったことが理解できないまま、体勢を崩しながら勢いそのままに数メートル横すべりしていく。

 中型とはいえ、よく見かける狼型の数倍以上の大きさであるため、ちょっとした壁といっても過言ではない。

 そんな壁が急に目の前に出来たらどうなるか?

 狼型魔獣の後方を移動していた魔者が速度を緩めることが出来ず、壁(狼型魔獣)にぶつかる。

 一人また一人とたちまち転倒する者が増えていく。中には狼型魔獣よりも小さい魔獣もいた。

 ガイの狙い通りになると<天翔>で狼型魔獣に近付き、体格差を物ともせず双剣を十字に描き、狼型魔獣を倒すと、近くで転倒している魔者たちも同じように双剣を振るって倒していく。



 セイヤとガイの戦い方は「武器で相手を斬る」と「天子の力を使う(セイヤは借りるだが)」が共通している。

 しかしセイヤは「神刀流剣技(しんとうりゅうけんぎ)を使えるが、転移符(てんいふ)などの符を使うことができない」

 ガイはセイヤの真逆だ。剣技は使えず、符が使える。

 以前、継承者であるセイヤも符を使えるのか試してはいる。

 しかし符はうんともすんとも言わなかった。

「継承者も万能ではないってことじゃの。相性があるんじゃろ、きっと」がラウの見解だった。

 ガイもひっそりと剣技の練習をしていたが、何度やっても出来なかった。

 ただ両者は使えないことをずるずると引きずることはなく、今の自分ができることを伸ばしていった。

 セイヤは神刀流の技を。そしてガイは——。

 長年使用している双剣と様々な符を巧みに使い、魔物たちを一掃していく。



 ガイから離れた場所にいる男性の魔人が言う。


「くそ!このままじゃ全員やられちまう!」


 そんな男性の魔人を進むべき方向をじっと見ていた女性の魔人が後頭部を殴りながら言う。


「バカ言ってんじゃないよ!あっちを見な!……ちょうどいい獲物がいるじゃないか」


 男性の魔人も視線をそっちに向けると表情を変える。


「確かにな。あの人間を相手するよりずっとマシそうだ」


 周囲の魔人たちも徐々に視線を向け始めると「あの人間を人質にしてしまえ!」や「綺麗な顔して……生意気な!私がぐちゃぐちゃにしてやる!」などの声が上がり始めた。

 女性の魔人が周囲に声をかける。


「今ここにいる十数名で、あっちにいる人間を人質にしにいくよ」


 他の女性の魔人たちから否定の言葉が来るが、それを手で遮る。


「まぁ待ちなよ。人質にできないのがわかったら……好きにしていいからさ」


 その言葉で反対意見をする者がこの場にいなくなり、十数名の魔人たちは鬨の声をあげながら進行を再開していく。




 ——というのを遠くから聞いていたガイはつぶやく。


「あなたがた程度で、()()()を人質にできますかね」

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