継承者としての戦い ー空戦ー
セイヤは左手の掌をしばらくじっと見た後、力強くにぎった。
(戦えてる。ちゃんと戦えてる!)
魔獣との戦いは数多く、魔人との戦いはあの一回(しかも勝ったとはいえない内容)のみである。
これらは継承者になる前に行っていたことであり、継承者になってからは一度も魔者とは戦っていない。
今に至るまで鍛錬のみの日々だったため、継承者としてちゃんと戦えるのか不安を募らせていたが、やってきたことが間違っていなかったとセイヤは実感できた。
「継承者として戦う」には天子たちの力が不可欠であるが、天子たちはセイヤが意識しなくても、セイヤの思い通りに動いてくれている。
そのおかげでセイヤは自然に神刀流の技を使うことができていた。
(天子に少しは認められたってことかな?)
と、しばらく思い耽っていたが今は戦場にいることを思い出し、再度気を引き締める。
残った魔者を掃討しようとしたが、まるで何か大きなものが上から覆ったみたいに、突然セイヤの周りが一瞬暗くなり、すぐに元の明るさに戻った。
セイヤは視線を上にあげると、そこには大小さまざまな鳥型の魔獣たちがいた。
何匹かの鳥型の魔獣の上には魔人が乗っており、その中の一人が周囲に呼びかける。
「あの人間は奇怪な技を使うようだが、所詮あいつは人間だ!空を飛んでる俺たちには手出しできねー!気に喰わないが……この怒りを他の人間どもにぶつけてやろう!」
空にいる魔者たちがそれぞれ雄叫びを上げながら、先ほどの勢いを取り戻したように飛んでいく。
魔人が言ったことは間違っていない。普通の人間であれば手出しはできない。
しかし周囲にいる者のなかで、何人が気付くことができただろう。
奇怪な技を使う人間がはたして普通の人間であるだろうか?
セイヤは<天翔>で移動する。目標は先ほど声を発した魔人——が乗っている鳥型の魔獣。
魔人には何が起こったのか理解ができなかった。
分かったのは乗っている魔獣の首が急に消えたこと。そして、いるはずのない人間が目の前にいるということ。
「な……なんで……おま」
「冥土の土産に持っていくといい。『空を飛ぶ人間がいた』ってね」
一閃。魔人は何故目の前に人間がいるのか死ぬ間際まで考えたが、結局理解できないままこの世を去った。
セイヤは周囲にいる魔者たちが飛行速度を落としているのを見て取れた。
「速度を落とすな!どうやってこの高さに来たかは知らないが、どうせあとは落ちるだけだ!構わず進めー!」
先頭の集団の中を飛んでいた魔人の一人が彼らに言うと緩めた速度をみるみる上げ、セイヤを避けるように飛んでいく。
だから後ろを飛んでいた魔人たちだけが気付くことができた。
セイヤは魔人の一人が言ったように落下していたが、突然姿を消したのだ。
これを見ていた魔人たちは各々が前方に向かって声を荒げる。
「おい!あの人間が消えたぞ!お前たち、気を付け……」
彼らが言い終わる前にそれは起こった。
集団の真ん中あたりを飛んでいた大型の鳥型魔獣の片翼が斬られ、続けさまに首が斬られた。
この魔獣の体にセイヤが降り立つ。が、周囲の魔者に気付かれる前に<天翔>で次の魔者に向かう。
「なんで一番端のやつがやられてるんだよ!?」
「まさか……あの人間が!?くそ、どこにいきやがった!?」
「お前ら!自分の周囲だけでいいから警戒しろ!いつ自分のとこに来るか分かん……っべ」
言い終わる前にセイヤの標的になってしまい、斬られてしまった。
「人間ごときが、調子にのりやがって!」
「次はどこだ!?」
「わかんねーよ、そんなの!」
飛んでいる魔者たちは状況が理解できず、混乱していた。
そんな魔者たちをセイヤは鳥型魔獣の大きさや鳥型魔獣に魔人が乗っているかどうかも気にせず、先頭に向かいながら一刀のもと切り伏せていく。
先頭集団に追いつくと適当な鳥型魔獣に向かって<天翔>で移動するセイヤ。
先ほどから繰り返しているように鳥型魔獣の首を両断。
この鳥型魔獣に乗っていた魔人はセイヤの存在に気付き、襲い掛かる。
セイヤは襲い掛かってきた魔人を他の魔者と同じように一刀のもと切り伏せ、同じように移動しようとしたが今回は違った。
セイヤは何者かに右脚をつかまれる。視線を向けると、先ほど斬った魔人だった。
「タダ……で、や……られる……もんか……よ」
「その声、君は速度を落とすなと言っていたやつか?」
「あぁ……そうだ。正解……した褒美……として……てめぇも道連れにしてやる!お前ら!!」
魔人の言葉を聞いて、セイヤは周囲を見てみると鳥型魔獣の爪牙や魔人の刃がすぐそこまで迫っていた。
「「「終わりだ!人間!!」」」
セイヤの右脚をつかんだ魔人と、この魔人が乗っていた鳥型魔獣の屍諸共、容赦なく突き刺す。
八方からの襲撃に加え、突き刺す前まで動かなかった人間。逃れることは皆無だ。
(やった!!)
と、突き刺した魔者たち全員が思った。そう思い始めると自然と攻撃の手が速くなる。
怒りや憎しみを込めて突き刺す。我を忘れたように突き刺す。
原形がわからなくなるまで突き刺す。原形がわからなくなっても突き刺す。
何度も何度も、何度も何度も。
だから——
「それ以上は屍相手でも、やりすぎだと思うよ?」
八方からの攻撃を受けて、原形がなくなっているはずの人間が自分たちよりも前方にいて、声をかけている。この状況を理解できなかった。
そんな魔者たちの気も知らずに、淡々と続けるセイヤ。
「先頭にいる君達はなかなか優秀のようだね。他の魔者に比べて連携も上手く、攻撃もするどい。前の僕ならやられていたと思う」
でも、と。
「今の僕はあの程度の速度なら掴んでいる腕を斬った後、あの場を逃れるのは可能だ」
セイヤは『青天の理』を持ち上げる。
「少し時間がかかったけど、一番前に出ることができた。空からの襲撃は一番厄介だからね。ここで全員退場してもらうよ——<空破>!」
セイヤが『青天の理』を振り下ろすと、地上と同じように広範囲の衝撃が空にいる魔者たちを巻き込んでいく。
このことに空にいる魔者たちは驚愕する。
この人間が謎の衝撃を放つことを地上でやったことは空から見ていたから分かる。
だが、同じことを空中でもできるとは微塵も思わなかった。
そして驚愕した後の行動が彼らの明暗を分けた。
「驚愕しながらも退避行動をした」のならば何人かは生き残れたかもしれないが、彼らは驚愕して動きを止めてしまった。
このことに誰一人気付くこともなく、空にいた魔者たちは全滅した。




