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理の継承者  作者: 鈴本 流幸
第三章
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継承後の日常 ー買出ー

 次の日。

 朝食が終わるとアオイが手をポンと合わせて言う。


「そうだわ、そろそろ食材が無くなってきたから買い出しに行かないと」

「それなら僕が一緒に——」


 行きますよとセイヤが言う前にガイが「いや」と横から割り込む。


「私も用事がありますので、私がご一緒させていただきます」


 今の今までガイのこのような態度を見たことがないため、みんな呆然としていた。


「あらあら、まあまあ。それじゃガイさんに一緒に行ってもらおうかしら。ごめんなさいね、セイヤさん」

「いえ、大丈夫ですよ。そういえば、どこに買い出しに行ってるんですか?もしかして都市まで行ってるんですか?」


 ここにきてから継承者になるまでずっと朝から晩まで修行に没頭していたため、セイヤは今更ながら疑問に思った。


「いいえ、都市じゃなくてセイヤさんが以前住んでいたところよ。あそこは一番近いし、品ぞろえも十分だから。あと不思議と、おまけをたくさんいただけるのよ?」


 なんでかしらねー?とほんわかと笑うアオイ。

 セイヤは以前住んでいたとこのお店を思い出す。

 (食材を売っているとこって確か……店員が男のとこが多かったな)

 おそらく、いやきっとそういうことだろうと心の中で納得するセイヤ。

 セイヤはふと新たな疑問がわいた。


「今回はガイさんが一緒に行くから心配はないけど、アオイさん一人のときはどうしてるんですか?」


 これに答えたのはアマネだった。


「実はお母さんだけじゃ転移符が発動しないの。だから行き帰りのときはラウ爺が一緒に行くの。お母さんが帰るときは大体の時間に迎えに行く感じね」


 なるほどと納得するセイヤ。

 (薄々と感じてはいたけど、アオイさんは神刀(しんとう)の技を使えないのか)

 まぁ戦いには縁が遠そうだしな。とほんわかと笑っているアオイを見ながら思うセイヤだった。



 アオイとガイが買い出しに行った後、セイヤは自分の部屋でくつろいでいた。


「そういえばここにきてから一度も武器を使った鍛錬はしていないな」


 修行の前に欠かさずに日々の鍛錬をやっていた。鍛錬の中に武器を使うものもあったのだが、使っていた刀が壊れてしまってからずっとやっていなかった。

 型を忘れないように棒などを使って実施していたが、やはり自分が使う武器でやったほうが実際の間合いや重心の取り方などの鍛錬になるだろう。


「よし!それじゃ久しぶりにやってみるかな」


 セイヤは『青天(せいてん)(ことわり)』を持って外に出る。

 外に出ると晴れ間が広がり、心地よい風が吹いていた。

 セイヤは慣れた足取りで修行していたところに歩いていく。

 特に場所は決めていなかったが、自然と足がそちらに向いたようだ。

 到着すると早速始めようと刀を抜くために(つば)に親指が触れた瞬間。


 ——『青天の理』が脈打つ。


 セイヤがなんだ?と思った瞬間、『青天の理』から情報が流れ込んできた。

 流れ込んできている情報は神刀流(しんとうりゅう)の技のようだった。

 <天翔(あまかけ)>や<天衝(てんしょう)>と知っているものもあるが、全く知らない技が大半だった。

 数分後、情報が流れてくるのが止まった。

 セイヤはたまらず膝から崩れ落ちる。体は横に倒れ、そのまま仰向けになった。

 急なことで体がついてこれず呼吸が乱れる。手から『青天の理』が落ちるが、気にしている余裕はない。

 時間をゆっくりとかけて呼吸を整えていく。強く閉じていた目をゆっくりと開くと、満天の青空が広がっていた。

 何も考えずにただ空を眺めていたら、ふと気付くと呼吸が(ととの)っていた。

 まだしばらく仰向けに倒れたまま空を眺めた後、ゆっくりと先ほど流れてきた情報に意識を向け始めた。

 強制的に送られてきた情報であるため、思い出そうとすると頭痛がするのかと思っていたが、不思議なことにまるで自分の記憶であるかのように難なく思い出すことができた。

 また思い出せただけではなく、どんな技なのか、どうやるのかも理解できた。

 (継承者ってすごいんだな……)

 ゆっくりと上体を起こして立ち上がり、『青天の理』を拾う。

 そして改めて刀を抜くために鍔に親指を触れさせる。今度は何も起こらなかった。

 ふぅと一安心の一呼吸をしてから、鯉口(こいぐち)をきり、刀を抜く。


「さっきの情報、理解はしたけど本当にできるのかな?」


 半信半疑のセイヤは試しに何かをやってみようとする。

 (えーっと、たしか……こんな感じだったかな?)

 出来なくてもいいかなという気持ちで技を繰り出してみると、得た情報どおりに技ができた。

 思いとは別に体が以前から知っているかのように自然と動いた結果だ。


「うん、できたね……。でも無意識じゃなくて、意識的にできないと意味がないな。よし!これも含めて鍛錬だ!」


 おーし、やるぞ!と気合を入れて、実際の戦いをイメージしながら『青天の理』を使って鍛錬をしていく。

 久しぶりだから軽くやろうと思っていたが、つい熱が入ってしまい、気付いたら太陽が一番高い位置にきていた。

 そろそろ戻ろうと刀を鞘におさめて、家路(いえじ)につく。

 途中、買い出しから帰ってきたアオイとガイを見つけた。

 セイヤは足をそっちに向けると、アオイが気付く。


「あら、セイヤさん。どうしてここに?」

「あのあたりで鍛錬をしてた帰りなんです」


 先ほどまで居た方向を指さしながら説明するセイヤ。


「それにしても……すごい量ですね」


 ガイが持っているものを見て、顔が引きつるセイヤ。

 高さはガイがギリギリ前が見えるくらいであり、横は大人二人分はあるだろう。

 それがすべて食材というのだから、どれだけ買ったのだろうか。


「やーね、セイヤさん。私が実際に買ったのは、私が持てるくらいよ?」


 訂正。どれだけおまけをもらったのだろうか。

 これに加えてガイは別の用事で買ったであろう荷物も持っている。

 顔はいつも通りムスッとしているが、腕が若干ふるえているのを見るとガイの負担はかなりのものであろう。


「ガイさん。僕、半分持ちますよ!」


 ガイはセイヤの言葉を聞いて、一瞬考えたが「お願いできますか」と言葉を返した。

 セイヤはガイから半分受け取り、三人一緒に再び家路についた。




 西の地に住んでいる者が言っていた。

 ——魔者との戦いがあった場所には必ず泉ができている。そして翌日、泉は消えている。

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