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理の継承者  作者: 鈴本 流幸
第三章
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継承後の日常 ー婿ー

 時間を現在に戻す。

 アオイが作った夕飯を食べ終わり、リビングで一息ついているセイヤたち。


 あの後、元々家が建っていた場所にあった塔の残骸をセイヤとガイが天子の力を使ってどかしたあと、ラウが家を呼び戻した。

 しかし何故か場所が大きくズレてしまったので、もう一度ガイが転移させて、再度ガイが呼び戻したのだった。


「た、たまたまじゃ、たまたま。決して腕が落ちたわけではないぞ?」


 腕組みをし、そっぽを向くラウ。

 みんなが苦笑いをしているなか、ラウが何事もなかったように話しかける。


「して、セイア。『青天の理』を見せてくれんかの?」

「セイヤなんだけど……まぁいいか。うん、どうぞ」


 セイヤは腰に差していた『青天の理』をテーブルの上に置く。

 みんなが「おぉ!」や「きれい!」など感嘆な声をあげる。

 ラウがよく見ようと『青天の理』を手に持つと、それが起こった。

 ラウが手に持った数秒後、『青天の理』が突如消え、セイヤの目の前に現れたのだ。


「むむむ、継承者以外が触れると、主のもとに戻ってしまうのか」


 よくできておるのーと感心するラウ。

 刀身も見たいと、全員が声をそろえて言うので、鯉口(こいぐち)をきって抜く。

 抜き身となった刀と鞘となった『青天の理』を再度テーブルに置く。

 再び感嘆の声が響き渡る。みんなが堪能し終わると、セイヤは刀を鞘に戻した。


「これが今代の『青天の理』か。よくぞ試練を乗り越えたな、婿殿」

「え?あ、ありがとうございます」


 (婿殿?)

 ラウの言い間違いだろうと無視するセイヤ。


「第四試練以降の試練はどんなものだったんじゃ?」


 ラウは『青天の理』を継承したときのことに興味津々だった。

 それに対してセイヤは第四試練『無』について、言葉だけでなく、たまに手を使って説明した。


「けど次の試練がどうしても思い出せないんです。思い出せるのは、祠の前に転移させられたところまででして……」


 セイヤは次の試練が最終試練だったこと、そして『青天の理』を継承したときのことを思い出すことができないようだ。

 一種の記憶喪失か。それとも。


「ふむ。もしかして何かしらの理由で記憶が蓋されておるのかもしれんのー」


 ラウが今言ったように、意図的に記憶を封印されているかだ。


「うん。でもこれが『青天の理』であるのはわかるし、ここにあるってことは継承はできたんだと思う。結果論にすぎないけど」


 実際に試練を受けたセイヤが思い出せないのであれば、どうしようもないので、全員これ以上の追求はやめた。


「もし思い出したら、教えてね?」


 アマネが笑顔でそう訊ねると「うん、もちろん」と答えを返すセイヤ。


「うむ、婿殿が思い出すのを首を長くして待つとしようかの」


 かっかっか!と笑うラウ。

 (うん、やっぱり聞き間違いじゃないな……)

 セイヤは先ほどからラウが言っているある単語について聞いてみることにした。


「ねぇ、ラウ爺」

「ん?なんじゃ、婿殿」

「その『婿殿』って何?前は坊主とかだったのに」


 坊主や若干名前が違う呼び方をされたいわけではないのだが、なぜ急に新たな呼び方になったのか。

 それもすでに決定されているような呼称で。

 セイヤの質問に「なんだ、そんなことか」とため息交じりに答えるラウ。


「継承者と巫女が異性だった場合、結ばれることが多かったからじゃよ。もちろんどちらか一方が拒否すれば成立はしない」


 アマネは顔を真っ赤にして俯いているのをアオイしか気付いていない。さすが母親である。


「なるほど。それにしても、早いと思うんだけど?」

「わしはガイさんはもちろん、セイアも認めておるからの。正直二人のどちらかが継承者になってくれて良かったと、心から思っておる。だからわしから異論はない」


 ここでラウは眉根を寄せる。


「それとも、もしやアマネじゃ嫌じゃというのか!?」


 アマネは顔を青ざめて俯いている。これもアオイしか気付いていない。


「嫌ではないけど、そのときになってみないと分からないというのが本音ですね。今アマネが良いとしても、そのときには心が変わっているかもしれないから」


「ま、今も良いと思ってるわけ絶対ないけどね」と後ろ頭をかきながら苦笑いしつつ言うセイヤ。

 でもと続けるセイヤ。


「そのときをちゃんと迎えるために、アマネは僕が守ります」


 セイヤのこの言葉を聞いたアマネは頬を紅潮させながら「セイヤくん……」とつぶやき、セイヤの顔を見る。

 そんなアマネの視線に気付くと「あはは、恥ずかしいな」と照れ笑いする。


「うむ。今はそれでいいじゃろ。さて今日は色々あった一日じゃったからな、皆疲れておるじゃろ。今日は早めに体を休めるとしよう」


 ラウの提案に全員賛同し、各自の部屋で思い思いに過ごすことにした。

 とはいっても、やはり疲れていたのだろう。ベッドに横になるとすぐに眠りについた。



 ベッドに横になっても、とあることを妄想してしまい、妄想が爆発すると枕を抱き枕のように持ち、枕に顔を埋め、ベッドの上をゴロゴロと悶絶していた。

 しばらくすると落ち着きを取り戻し、再度寝ようとするのだが、妄想爆発ゴロンゴロン。

 こんなことを繰り返すものが一人いた夜だった。




 北の地で魔者と戦っていた者が言っていた。

 ——美しい草原が、戦いが終わると、火の海となっていた。

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