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理の継承者  作者: 鈴本 流幸
第三章
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暗躍

 セイヤとアマネが初めて出会ったときまで時間を遡る。

 ガイの転移符で強制転移させられた彼は苛立っていた。


「雑魚のくせに!!俺の左腕を、よくもぉおおおおおおお!!」


 彼は片腕がない。いや、なくなったというべきか。

 転移前に戦っていた相手、セイヤに左腕を斬られてしまったのだ。

 彼は片腕を斬られたこともそうだが、

 それ以上に、雑魚だと侮っていた相手に特大の一矢報われたこと自体に怒っていた。

 彼は斬られた腕からまだ少し出血しているのだが、

 怒りに任せ、周囲にある木や岩に向かって八つ当たりし続ける。


「いつにも増して荒々しいですわね」


 おっとりとしているが、どこか(つや)やかな声が木の上から聞こえた。

 彼は八つ当たりをいったん止め、声が聞こえた木を見る。


「てめぇか、ルーマァ。何しにきやがった?」


 ルーマァと呼ばれた髪が肩付近まで伸びている女性は髪をいじりながら、ため息を一つ。


「何しにって、集合場所に一向に現れない誰かさんを探しにきたんじゃない」


 ルーマァは木から降りた。かなりの高さがあったのだが、難なく着地。


「見つけたと思ったら、あらあら。少し見ないあいだに男前が上がったこと」


 あーっはっはと笑うルーマァ。あからさまな挑発と侮辱である。

 ルーマァの挑発と侮辱を聞いた彼の怒りは頂点に達する。


「上等だぁぁあああ!そのケンカ、買ってやらぁぁあああ!」


 右腕に黒いオーラを纏わせて、ルーマァに向かって駆け出す。

 ルーマァは気押されることなく、平然と懐から何かを取り出すしぐさをする。

 しかし何かを取り出す前に、目の前に鉄の塊が現れた。

 よく見ると、鉄の塊ではなく真っ黒な全身鎧(フルプレート)だった。

 その全身鎧は左腕を伸ばし、彼の一撃を受け止めた。

 衝撃が周囲に広がる。ルーマァの髪や服もバサバサとたなびく。

 衝撃が収まると、全身鎧が言葉を発する。


「これぐらいにしておけ、ゴウガ」


 暴走気味だった男、ゴウガも全身鎧を見ると、舌打ちを一つ。


「チッ!てめぇも来てたのか、リレン」

「あぁ、一応な」


 兜のせいなのか、くぐもって聞こえる全身鎧の男、リレンが答える。

 リレンは腕を下ろすと、ゴウガも合わせて腕を下ろす。少しだけ冷静さが戻ったようだ。

 それに気づいたリレンは言葉を続ける。


貴殿(きでん)の怒りの原因はその無くなった腕であろうが、詳細は問わん。

 問わないが、私たちがこれからやろうとしていることを覚えているか?」


 ゴウガはしばらく考えると、ふと何かを思い出すと口が裂けるくらいニヤリと笑う。


「思い出したか。そうだ、今は貴殿の怒りを爆発させるのはこれぐらいにして、来るときまで取っておけ。そのときは必ず来るであろう?」


 リレンの問いにゴウガは「あぁ」と短く答える。


「うむ。では、集合場所に行こうか」


 リレンとゴウガが歩き出すと、後ろから抗議の声が聞こえる。ルーマァだ。


「ちょっと!私に一言ないの?」


 リレンとゴウガが足を止め振り向くと、髪がボサボサで、服が乱れているルーマァの姿があった。


「てめぇに言うことなんざねーよ」

「あぁ、すまない。……して、なぜそのような格好を?」


 二人の異なった、けど心配の「し」の字も感じられない言葉を聞いたルーマァはため息をつきながら、髪や服を整える。


「はぁ、まったく本当女心がわからない二人だわ。……うん、どう?きれいになったでしょ?」


 整え終わり、髪をかき上げて、魅了するようなポーズをとるルーマァ。


「なにしてんだ、おまえ」

「うむ、先ほどよりマシな格好であるぞ」


 そう言うと二人は歩みを再開する。しばらく呆然としてポーズをとったまま二人を見つめるルーマァ。


「二人とも、マイナス百点ね」


 二人に酷評をつけ、ルーマァもあとを追う。

 この先に起こる戦いに向けて、それぞれが動き出した。

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