プロローグ
「あら、また壊れてしまったわね」
盤上にある壊れている駒を見ながら、楽しげに話す女性。
「……ああ」
壊れた駒の欠片を辛そうな顔で集める男性。
「この駒をなおしに行ってくるから、少し待ってて」
「そうね、その駒が無いとバランスが悪いものね。わかったわ、いったん休憩にしましょう」
ただしと女性が続ける。
「今までも同じだから言うこともないでしょうけど、完全になおるまでは待たないわよ。すぐに戻ってくること、いいわね?」
「……わかっているよ」
男性は女性に背を向けて、重い足取りで歩いていく。
「次の駒はどんな感じになるかしら……今から楽しみね?」
歩いていく男性に向かって、愉快そうに話しかける女性に対し、
「……そうだな」と返答した。——駒の欠片を強く握りしめながら。
優しい木漏れ日の中を沈鬱な気持ちで歩いて数十分。
男性の目の前には泉があった。
泉は底が見えるほど透き通った水でできていて、大きさは小池程度。
泉の中心部には自然に出来た台座があり、その上に金色の杯が置かれていた。
男性は金色の杯を手に取り、泉の水を杯一杯に汲み、駒の欠片をその中に入れた。
「あと何回これをすることになるのか。私が至らないばかりに……すまない。願わくば——」