9
嫌なことがあったら寝て忘れろと、ホリエモンが言っていた。今日一日は悔しくても、明日からは気分を入れ替えて頑張れって話だ。合理的だ。悩んでも何も変わらないからな。その通りに実行してみたのだが、現実は変わらなかった。どうなってんだ、マジで。
翌日の朝。
「ほら、一緒に行こ。寄道」
俺とさやかは一緒に学校へと登校している。
以前までは俺がさやかの家に迎えに行っていたものの、高校に入ってからはさやかのほうが来てくれるようになった。人間、歳を重ねると怠惰になるものだ。
「と、その前に……寄道。ちょっとこっちに来て」
「あ?」
さやかに言われるがままに、少しだけ近付いた。
すると、さやかは顔を寄せてきた。それに手も伸びてきた。
「………………」
俺は黙っていることしかできなかった。
突然伸びてきた手に対して、抵抗すればよかったかもしれないが。
「ほんと、寄道は僕が居ないと何もできないんだから」
言いながら、さやかは俺のネクタイを整えてくれた。
「もうぉー。僕がずっと面倒見てあげるから安心してね」
安心できるはずがないんだが?
逆に安心できる要因を教えてくれ。
特に俺の貞操とか。倫理観とか。危険すぎるんだが。
てか、女子よりも可愛い笑みを浮かべるんじゃねぇー。
好きになっちまうだろうが。俺はノンケだってのに。
「ねぇー。寄道、僕に謝らなきゃいけないことあるよね?」
さっきまでの可愛らしい何処へやら。
大好きなイケメンが消えたあとの、ギャルみたいな態度豹変。
「謝ること……? 何かしたっけ?」
さやかに対して悪いことはしていない。
多少、気色悪いとは思っているけど。まだそれはバレてないはずだ。
「僕ね、寄道が昼匙さんと喋ることは認めたけど……」
さやかは一度言葉を区切った。
怒りを露わにした表情を浮かべて。
「一緒に帰っていいとは一言も言ってないよ?」
一休さんでも驚くとんち話をしてきやがった。
ていうか、どうしてお前がそれを知ってるんだ。
先に帰ってたはずだろうが……それなのに。