7 ターニングポイント②
一番聞かれたくないことを訊ねられてしまった。
正直に話したほうがいいのかもしれないが。
ここは一旦適当に誤魔化したほうがいいな。
『ねぇー。話し聞いてる? やっぱり、やましいことがあるの?』
「何もねぇーよ。特にさやかが気にすることじゃないって」
『何があったのか知りたい。全部教えて』
「いや……今回のは昼匙さんのプライベートに関わる話で」
ここまで言えば、見逃してくれるだろう。
『嘘だよね、それ? どうして見え見えなウソ吐いちゃうの?』
「え?」
どうしてバレたんだ?
どうして分かっちまったんだ?
理由は定かではないが、さやかは全てを見抜いているみたいだ。
『ほら、教えてよ。何があったの? 昼匙さんと』
咎めるような口調だ。
さっさと白状しろと物語っている。
正直に話すべきか……それともしらばっくれるか。
悩んだ末にこのままもう言おうと決意した瞬間。
『…………うふふふ、ウソだよ。寄道、ごめんごめん』
さやかが謝ってきたのだが、全く理解できなかった。
『ちょっとからかっただけ。でも、戸惑う寄道は可愛いよ』
「可愛いとか言うな。気色悪い」
『照れ屋さんなんだね。ほんとは嬉しいくせに』
「うるせー。てか、お前LIMEの連絡を入れすぎだっつの」
『心配だったんだもん、寄道が誰かに盗られるかもと思って』
「はぁ? 俺がとられる?」
『うん。寄道はモテるから。それに抜け駆けは禁止だよ?』
抜け駆けは禁止。
俺たち二人にとって、暗黙の了解だ。
一部男子が行う童貞同盟みたいに薄っぺらいものだ。
「分かってるよ。てか、俺よりもさやかのほうがモテるだろ?」
さやかは男女問わずモテている。と言っても、俺以外の奴等とは全く心を靡かせることもなく、淡々としているのだが。人見知りなのだろうと思っていたが、このままの状況が続くのは将来的にマズイかもしれないが。
『好きなひとにだけ振り向いてくれればいいんだよ、僕は』
俺とさやかは、普段から恋愛に関する話は殆どしない。
時折やるにしても、さやかからの質問に対して答えるのみだ。
初めてのデートはどこに行きたいとか、手を繋ぐ前にキスするのはアリかナシかなどなど。
詰まるところ、男子高校生ならば誰もが抱えているであろう、恋の悩みだ。
「へぇー。結構真面目なんだな」
『真面目だよ、大真面目だよ。ずっと前からこの気持ちは変わらない』
「ふぅーん。さやかにそう思われてる奴は幸せものだろうな」
電話が切れたのかと思えるほどに、沈黙が続いた。
おかしい。
変なボタンを押しちまったか。ネット回線が悪いのか。
などと考えていると、か細い声が聞こえてきた。
『…………ほんと?』
「当たり前だ。ずっと前から思ってくれてるわけだろ、嬉しいに決まってる」
ましてや、さやかみたいな中性的なイケメンにだぜ。容姿は美少女っぽいし、力も殆どなくて、おっちょこちょいな部分が多々あるけど……。
俺の幼馴染みは可愛い系男子に十分当てはまる。てか、可愛いを通り越して、可愛すぎて辛い系男の娘なのだが。まぁー細かいことはどうでもいいか。
『あのさ……寄道。僕、今からとっても変なことを言ってもいい?』
「あぁーいいけど」
改まって何を言い出す気か。
俺は到底理解できなかった。
ていうか、大半の人間が思い付きもしないだろう。
『実はね……僕が好きなのは寄道なんだ』