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とある日の放課後、さやかと一緒に帰っていたときの話である。気色悪いと言いつつも、お前もどうしてそんな相手と一緒に帰ってるんだって話になるよな、そりゃあさ。
女子ーズの皆様が一緒に帰ろうと誘ってきた瞬間だ。
俺の元に悪の申し子が現れたのである。
奴は満面の笑みを浮かべて、こう言うのである。
『寄道、一緒に帰ろっか?』
『ん? 昼匙さんと一緒に帰る??』
『残念だけど、そんなことはさせないよ?』
そう言いながら、さやかが俺の腕を抱きしめてきたのだ。
で、身動きが取れなくなった俺は女子ーズの皆様とキャキャウフフな放課後ライフを過ごそうと思っていたのに、さやかのせいで全て潰されるのであった。
「畜生〜!! お前のせいで、俺の学園生活は……」
「むふふふふふ。悩ましいほどに楽しいんだよね?」
「誰が思うか!! 逆だ、逆。最悪だよ、この生活は!!」
「もうぉ〜。照れちゃって……むふふふ、可愛いね、寄道」
「あぁ〜、クソ。お前とは全然話が噛み合わない!!」
と、思っていた矢先、偶然通りかかった商店街で、アイスクリーム屋を発見した。隣を見ると、さやかもゴクリと喉を鳴らしている。食べ盛りの俺たちはアイスを購入して、公園のベンチで座って食べることにしたのだが——。
「一口、寄道のアイスも食べたい」
「気持ちは分かるけど、女子みたいなこと」
「いいでしょ? 僕の抹茶味も寄道にあげるから」
「生憎だが、俺は抹茶は苦手なんだよ」
「それなら、僕だけ食べてもいい?」
さやかは甘いものが大好物である。
特にホイップクリーム系統が大好きらしく、休日にはスイーツツアーと称して、一人で食べる歩きを敢行するほどだ。
あ? 勿論、俺も無理矢理引っ張られて行ったことがある。
店内は女性陣だけやカップルで覆い尽くされた空間で、俺とさやかは場違い感があって仕方なかった記憶があるものだ。
「あ〜ん。んんぅ〜〜!? ストロベリー味美味しいねぇ」
「あ、ちょ、お前……いきなり食べるなよ!! 人の分を」
「沈黙はOKって意味なんだよ。僕知ってるよ?」
得意気な表情を浮かべやがって、こんちくしょ〜!!
勝手に食われたことは腹立つが、さやかが楽しそうにしているのだ。まぁ、これはこれでよしとしてやろう。
「怒ってる? 寄道」
「別に怒ってないよ」
「やっぱり怒ってるじゃん」
長年連れ添った妻のような口振りで。
「お詫びは僕のカラダで払うから、むふふふ」
「気持ち悪いことを言ってるんじゃねぇー。このバカッ!!」
体の底がゾッと凍るようなことを言われている。
だが、俺はさやかとの関係性が何処か心地よかった。
クラスの奴等と連んでいるときも、楽しいは楽しいのだ。
だが、しかし——。
「やっぱり、さやかと一緒だと俺は自然体になれる気がする」
あ、しまったと思っても、全てが遅い。
心境の吐露を聞いたさやかは、口元をニヤつかせていた。
人様の弱みを握って、金を巻き上げるド畜生みたいだ。
「それだけ僕の隣は安心するってことなんだね」
「お前と一緒だと、気を遣う必要がねぇーからな」
「なるほどね。僕が居ると、寄道は心が安らぐんだねぇ」
むふふふふふ、とまたしてもドラちゃん笑いをしてから。
「寄道、ほっぺたにクリームが付いてるよ?」
「うわぁ、マジかよ。ティッシュ持ってるか?」
学校から少し離れた公園。
と言えども、俺とさやか以外の生徒たちも居る。
うわぁ〜恥ずかしいな、ほっぺたにクリームなんて。
同じ制服の女子生徒がこっちを見て、コソコソ話をしていたのは、そのせいだったのか。あ〜ちくしょう〜!!
「もうぉ〜。本当に世話が掛かるね」
「母親みたいなことを言うな!!」
「こっちに来て、寄道。取ってあげるから」
「悪いな」
俺がそう呟くと、さやかが顔を近付けてきた。
クリームを取るだけなら手を伸ばせばいいだけじゃね?
そう思う気持ちが山々だったのだが、気を許していた。
改めて思う。それが完璧に失敗だったんだなと。
俺のほっぺたをひんやりとした感触が襲いかかる。
その後、すぐに拒否反応が出てしまい、ビクッと身体が嫌でも動いてしまった。それも全部——さやかのせいである。
「——って、お前何しやがんだッ!!」
「ん? 取ってあげただけだよ」
「今、完全に舐めたよね。俺の頬をさ」
「もっと舐められたいの?」
「ちげぇ〜よ」
クリームが付いたからって舐める奴がいるかよ。
これが女の子ならば、さぞかし嬉しかったかもしれない。
いや、女の子だとしても、舐められるのは嫌だな。
それも、相手は男の娘だぞ? 誰が嬉しいと思うんだ??
「でも、綺麗になったよ。ありがとうは?」
「……感謝の言葉なんてねぇーよ、お前には」
「ありがとうは?」
「……ありがとう」
「今後も舐めて拭き取ってあげるからね」
「絶対やめろ!! もう二度とやるな!!」
俺は本気で嫌がっているのだが、さやかは理解を示さない。
逆に、この男の娘は嫌がる俺の顔を見て、勘違いするのだ。
「それってさ、振りってことだよね? 分かってるよ、寄道」
コイツと話しても、もう埒が明かない。
そう思い、無視を決め込んでいたのだが、さやかは言う。
「少しずつ僕の誘惑で友情が愛情に変換してるんだよね?」
むふふふふふふ、と気持ち悪い笑い声を上げながら。
「今後も僕の誘惑は続くから期待してていいよ、寄道」
期待はしない。だが、対策を練る必要がある。
俺はそう思っていたが、さやかの暴走を止めることはできなかった。欺くして、さやかの束縛は激しくなっていくのだ。