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誘惑するからよろしくね。
さやかはそう言ったが、実態は違う。
誘惑という名の束縛が始まったのである。
四限目の終わりのチャイムが鳴り響いた後。
「寄道くん。今日一緒にお昼を食べようよ〜!!」
昼匙さんを含む女子ーズの皆様に誘われた。
俺はその会合に参加したいのだが、親友の男の娘は決して許してくれるはずがなかった。というか、約束もしていないにも関わらず、こんなことを言うのである。
「悪いんだけど、今日も寄道は僕とお昼を食べるんだよ?」
敵意を剥き出しにして、子を守る母猫のように威嚇。
折角誘ってくれた女子の皆様方も、ピキピキと今にも血管を破裂させそうなほどに怒るさやかを見て、諦めてしまうのだ。
「お前のせいで……俺は乙女の花園に行く機会を」
「ここにも乙女がいるじゃん。寄道だけを想う可愛い娘が」
遠慮という言葉を知らないのか、さやかは自分自身を可愛いと自認しているようだ。見た目だけと比べるのならば、並大抵の女子ではさやかに決して敵うはずがない。ほぼ敵なしだ。
「前にも説明したがな。俺はお前に恋愛感情なんて——」
さやかは、俺の口に弁当のおかずを入れてきた。
購買のパンに頼りっきりな俺にとって、弁当のおかずはありがたい。ただ、突然口に放り入れられるのはダメである。
「どうかな? 僕の特製卵焼きは」
「美味いよ。相変わらずな」
「むふふふふふ。僕と結婚したら毎日食べれるよ?」
「いや、結婚なんてするわけねぇーだろうが!!」
昔から料理や家事が大好きらしく、自宅でもお手伝いの一貫でやっているのだとか。
妹に任せっきりの俺とは大違いである。本当凄いと思う。
「安心して。すぐに恋愛感情へ変換させてあげるから」
そう言いながら、俺の唾液が付着した箸をさやかは「ちゅぱ」と音を立てて舐め始める。見たくもない瞬間だ。
先程の卵焼きを吐きそうになるものの、無事に喉元まで抑えることに成功するのであった。