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さやかの爆弾発言を契機に教室の雰囲気は悪くなった。
特に、さやかに対する風当たりというか、アイツは一体何者なんだという空気がな。日本人特有の陰湿さだ。言葉で表現するのは難しいが、触らぬ神に祟りなしという感じだな。
元々、さやかはクラス内で浮いた存在だった。
だが、誰にも敵意を向けることがなかったから、無害な存在だと思われていたことだろう。しかし、前回の発言で一変だ。
休み時間だというのに、さやかは一人だけ机に突っ伏している。時折、スマホを触っては「はぁ〜」と溜め息を吐いている。その姿を見ていると、喋りかけに行きたい気持ちもある。
だが、俺は教室内でトップに君臨するモテ男なのだ。
「ねぇ〜寄道くんはどう思う?」
突然、昼匙さんに話を振られて、俺は焦ってしまう。
遠目でさやかを眺めながらも、俺はクラスの仲間と喋っていたのだ。男友達も女友達も居る。賑やかな奴等である。
「……えっと何の話してたっけ?」
「あぁ〜もう全然寄道くん、話を聞いてないぃ〜」
「悪い悪い。ちょっと最近考え事が多くてな」
「今度皆んなで一緒に遊びに行けたらいいねって話だよ」
可愛い女友達に囲まれて、楽しい高校生活を送る。
悲惨な中学時代を過ごしていた俺にとって、喉から手が伸びるほどに欲していたものだ。
しかし、中学時代とは打って変わり、俺の隣には親友の男の娘——朝日さやかの姿がない。アイツはいつも俺の隣に寄り添ってくれたのに。
それなのに、今の俺は——。
聞き慣れたLIMEの着信音が鳴り響いた。
「誰か着信が鳴ってるよ?」
女友達の一人が言い、俺は空かさず答える。
「悪い。俺だ」
ポケットからスマホを取り出す。
そんな俺を見ながら、周りがニタニタ顔になる。
「もしかして彼女??」
「んなわけねぇーだろ。俺はフリーだよ」
そう伝えると、昼匙さんを含む女子ーズの皆様は顔を見合わせて「寄道くんは狙い目だよ」「優良物件が残ってるね」「寄道くんってまだフリーなんだ。良かったね」などという会話が聞こえてきた。
コイツらって……実は案外チョロかったりするのか??
と、思いつつも、俺は待たせている電話の主と話すために、教室を後にするのであった。
「で、何だよ、さやか。わざわざ電話を掛けてきて」
人気がない階段の踊り場で、俺は電話を取った。
相手は、教室で突っ伏していたはずの親友さやかだ。
『むふふふふふふふ。僕を仲間外れにしてるからだよ』
「なら、お前もあの輪に入ってくればいいだろ?」
『僕が恥ずかしがり屋だってこと知ってるくせに』
「あのなぁ〜。普通に喋りかければいいだけだろ?」
『僕はね、寄道がいればそれだけでいいんだよ』
冷酷な口調で言い、さやかは続けて。
『あんな奴等と仲良くする気なんてないの、僕は』
「お前の目的は何だよ?」
『決まってるじゃん。僕と寄道が両思いになることだよ』
「だからな、俺は男を好きになるなんてありえないんだよ」
『そうかもしれないね。でも、僕は絶対に諦めないからね』
『——というわけで今後も寄道を誘惑するからよろしくね♡』
色々言いたい気持ちもあるが、電話は切れてしまった。
教室に戻ると、頬を緩めたさやかが小さく手を振ってきた。
アイツの得意気な表情を見る限り、まだまだ変なことを企んでそうだ。
欺くして、悩みの種が増えた俺は溜め息を吐くのであった。