10 ターニングポイント③
「もしかして……昨日見てた?」
「見てたよ。ていうか、僕が寄道を一人にするわけないでしょ?」
怖いよ、さやか。
何を怒ってるんだよ。別にいいじゃないか。
男子と女子が仲良くすることはいいことじゃないか。
「うん。そうだね、昨日のことはまだ付き合ってなかったから許してあげる」
「そうそう、アレは俺たち付き合ってなかったもんな。だからノーカンだよな、あはは」
笑って誤魔化そうとしたが、待て待て。
今、聞き捨てならない言葉が出た気が??
「今何つった? もう一度教えてくれる?」
「昨日はまだ付き合ってなかったから、許してあげるって言ったんだよ? むふふふ」
「冗談キツいぜ。俺は一度も付き合うなんて」
今更何を言っても、逃げられないんだよ。
そんな虚無な瞳を浮かべ、さやかは言う。
「僕の愛を受け入れてくれたじゃん。幸せものだって。嬉しいって」
確かに言ったよ。言ったけどよ。
それとこれは違うんじゃないか。
詐欺師みたいな手法を使うんじゃねぇー。汚いぞ、マジで。
「第一アレはちょっとしたジョークだよな? 流石に笑えないって」
俺の親友がホモだと思いたくない。
それも好きなひとが俺とか大勘弁だぜ。
確かに、さやかを見て可愛いとか思ったことはあるけれど。
「まだ信じてくれないんだ。僕はこんなに好きなのに」
心成しか、さやかは悲しんでいるように見えた。
いや、俺の勘違いだと思いたいのだが。
兎に角、さやかは少しだけ目線を逸らしつつも、何かの決心が付いたのか、俺へと一歩近付いてきた。慌てて俺も後ろに下がるのだが、さやかも近づいてくる。ってなわけで、俺は壁際にまで押し寄せられた。
「お、ちょっと……さやか何か悪いことを考えてるよな?」
「僕の愛を証明するだけだよ?」
身動きを取れなくなった俺に対して、さやかは躊躇することもなく、顔を近付けてきた。そのまま、俺はファーストキスを奪われるのであった。男の娘にだ
「………………」
可愛らしいキスじゃないぜ。
ぶちゅうううううううううと言った感じの、濃厚なキスだった。
生まれて初めてのキスは清楚で愛らしい彼女としたかったのに。
可愛いってのは当たっているかもしれないけど、さやかは男だぞ?
なのに……どうして俺は呼吸が荒くなってるんだ?
開けてはいけないストライクゾーンの扉を開けちまったのか?
「悪いのは全部寄道だよ? 僕の愛を信じてくれないから。だから強引な真似使うしかなかったんだよ」
でもさ、と呟いてから。
「これで僕の愛は十分伝わったよね?」
朝っぱらからキスされたこと。
初めてを奪われたことが無性に腹が立ち、俺はさやかを突き飛ばした。
女子よりも女子っぽいルックスをお持ちのさやかは、意図も簡単に転びそうになる。
「戸惑ってるんだよね? ごめんね、寄道。僕もちょっとやりすぎたよ」
あぁーその通りだ。
よぉーく分かってるじゃないか。流石は長年側に居ただけはあるな。
「……照れてるんだよね? 初めてキスされて」
全然分かってねぇーーーーーーーーーーーーーー!!!!
俺の気持ちを全然理解できてねぇーーーーーーーー!!!!
「あのな……俺はまだお前と付き合うとは言ってないぞ?」
「大丈夫だよ。僕、男の子も女の子もどっちもイケるタイプだから!」
お前は大丈夫かもしれないけど、俺はどうするんだよ。
ていうか、付き合う前提で話を進めるんじゃねぇー!!
「第一だな、俺は女の子が好きなんだよ。男と付き合うとかマジでないから」
「なるほど。ツンデレさんなんだね、寄道は!」
さやか……テメェの頭はアホになっちまっているのか?
変な光線でも浴びちまったのか? もしくは宇宙人に連れ去られて、脳を改造されちまったのか? とりあえず電波なことばかり言うんじゃねぇー。
「ふむふむ……堕ちるのは時間の問題だね」
「時間の問題じゃないから! てか、俺を変な道に連れて行くな!」
「少しぐらい寄道してもいいんじゃないの?」
俺の名前と掛け合わせるんじゃねぇー。
てか、ちょっと上手いこと言ったみたいな感じで、鼻高々にすることでもねぇーからな。
「悪いけど……一人にさせてくれねぇーか?」
「考える時間も必要だよね。真剣に考えてくれてるわけだね!」
「あーそうだよ」
どうやったらさやかが俺から身を引いてくれるかをな。
テストの時だって、全然フル活用しない脳を使ってな。
「僕たちの将来をここまで考えてくれているだなんて……!!」
ツッコミを入れるのはもうやめた。
てか、話すのは疲れるのだ。
「あの……僕、もう先に行くね。学校で楽しみにしててね」
さやかは走っていく。
やっと一人になったかと思いきや、さやかは振り向いてきて。
「ちなみに僕もファーストキスだったから責任取ってね、寄道!」
おい……どうして俺を好きなのは、ホモなんだよッ!!!!!!!!
容姿が美少女なら、もう美少女でいいじゃないかよ。
神様、どうして俺にだけこんな厳しい現実を突きつけてくるんだよ。