05 そんな話聞いてない!
「う、嘘だろ」
「ユーリの奴、今魔法を使わなかったか?」
「使った……んじゃないのか。知らんけど」
「しかもなんだよあの威力。
ただの下位魔法なのに、中位級の威力だったぞ」
「いったいどうなってんだ」
僕の魔法を見た勇者候補達がざわついている。
だけど一番驚いているのは僕自身だ。
でもそれ以上に、凄く嬉しかった。
「やった……」
やった、やった、やった!
とうとう魔法が使えたんだ!
嘘じゃない、現実だ!
魔法を使えなかった筈の僕が、使えたんだ!
これが魔法か。
これが魔法を使う感覚なのか!
ぐっと両手を握り締める。
初めて魔法が使えた感動に満ち溢れていると。
アスモが賛辞を送ってくる。
『やったわね、ユーリ』
(うん! ありがとう、アスモ!)
心からアスモにお礼を伝える。
アスモのお蔭で魔法を使うことができた。
彼女の言葉は嘘じゃなかったんだ。
ありがとう、アスモ。
君のお蔭で、僕は勇者としての希望が見えた。
『ああ! ユーリが褒めてくれたわ!
可愛い過ぎて今すぐ襲いたくなっちゃう!』
(ああ……うん)
頭の中で勝手に悶えないで欲しい。
感謝と感動も返して欲しい。
アスモにドン引きしていると。
教官が尋ねてくる。
「ユーリ、魔法が使えたじゃないか」
「は、はい」
「隠していた訳……ではないな。
何故急に使えるようになったんだ」
「それは……」
どう答えよう。
魔王とキスしたりチョメチョメしたから。
そんな恥ずかしくてアホなこと言える訳がない。
なんて答えようか言葉に詰まっていると。
教官は興味なさそうに口を開く。
「まぁいい、使えるに越したことはない」
「はい、そうですよね」
助かった。追及されると非常に困る。
教官は僕に背を向けると、パンッと手を叩き。
未だに騒めいている勇者候補達に告げる。
「魔法訓練はこれで終わりだ。
戦闘訓練に入る。皆準備してくれ」
えっ、もう終わり?
折角魔法を使えるようになったんだから、もっと試したかったな。
残念がっていると、アスモがこう言ってくる。
『これからもチャンスはあるわよ』
(そうだね)
魔法を使えるようになった。
それは僕にとって大きな収穫であり、大きな一歩。
これから試す機会はいくらだってある。
焦らず、まずは喜びを噛み締めよう。
「おいユーリ、俺と戦ろうぜ」
「ジェイク……」
「どんな手品を使ったのかは知らねぇが。
剣は誤魔化せねぇだろ」
苛立ちを隠さず申し込んでくるジェイク。
余程、僕が魔法を使ったことが気に喰わないのだろう。
「やっちまえジェイク!」
「落ちこぼれを調子に乗らせるな」
「まさか、逃げたりしねーよな?」
周りの勇者候補達が囃し立ててきて。
ニヤリと薄ら笑いを浮かべるジェイク。
『やっちゃいなさい、ユーリ』
(うん、わかってる)
受けて立てと言ってくるアスモ。
僕は最初からそのつもりだった。
今までの僕は、屈強なジェイクに歯が立たなかった。
だけど、今はなんだか負ける気がしない。
「いいよ、やろう」
「へっ、魔法が使えるようになったからって調子に乗るな。
お前は所詮落ちこぼれなんだからよ」
僕とジェイクによる模擬戦闘が始まった。
勇者候補達は訓練せず、教官も含めて僕等を観戦する気だ。
模擬剣を握り締めて、ジェイクと対峙する。
「いくぞ落ちこぼれ」
「こい」
ジェイクが僕に迫り、豪快に剣を振るってくる。
その斬撃を、僕は剣で受け止めた。
「なに!?」
「っ!?」
ジェイクが驚く。僕も驚いた。
非力な僕は、今の一太刀で吹っ飛ばされていた。
だけど、ジェイクの攻撃を真正面から受け止められる。
力だって押し負けていない。
「調子に乗るなよ!」
「くっ!」
怒るジェイクは、怒涛の斬撃を浴びせてくる。
ブレイバーズの筆頭だけあって、流石に強い。
でも、僕はその斬撃を全部受け止めていた。
(何だこれ……)
ジェイクと戦っている最中、僕は違和感を抱いていた。
身体が羽のように軽い。
ふわふわと、空を飛んでいるような感覚。
それに、視界も良好だ。
凄まじい速度の斬撃を、全て見切れている。
というより、ジェイクが遅く感じるんだ。
(いける!)
ジェイクの斬撃を紙一重で躱す。
僅かに体勢が崩れた好機を見逃さず、ジェイクの腹を刺突した。
「はっ!」
「ぐほぁ!」
僕の刺突を受けたジェイクは苦しそうに呻く。
腹を抑え、唾液を垂らし、呻いていた。
「おい、なにかの冗談だよな?」
「ジェイクが落ちこぼれに押されてるぞ」
「ユーリの奴、いつもと違くねーか……」
「そう言われてみれば、身体がキレてるよーな」
「まさか、ジェイクが負けちまうのか?」
「いやいや、そんな事あり得ねーって」
僕がジェイクを押している。
信じがたい光景を目の当たりにし、呆然とする勇者候補達。
そんな彼等とは真逆に、ジェイクはさらに顔が険しくなった。
「落ちこぼれの分際で調子に乗るんじゃねぇ!
ぶっ殺してやる! 身体強化魔法!」
「なっ!?」
おいおい、模擬戦闘ではブースト禁止だろう!
卑怯じゃないか!
力と速度が増したジェイクに狼狽していると。
頭の中でアスモが助言してくる。
『ユーリも使っちゃえばいいじゃない』
(そうか!)
でも、僕はブーストだって使えたことがない。
ぶっつけ本番で使えるのだろうか。
いや迷うな。アスモを信じろ。
さっきだって魔法が使えたじゃないか!
「強化魔法!」
「なにぃ!?」
身体を強化した僕は、ジェイクの剣を一撃で弾き飛ばす。
そして――。
「はぁああ!」
「がはぁああ!」
力一杯剣を振るい、ジェイクの横腹を叩く。
するとジェイクは勢い良く吹っ飛び。
壁に激突すると、そのまま気絶してしまった。
「はぁ……はぁ……」
「そこまで! ユーリの勝ちだ」
教官の口から宣告を聞く。
勝った。勝ったんだ。
信じられない、あのジェイクに。
歯が立たなかったジェイクに勝ってしまった。
「マジかよ……」
「ユーリが勝っちまったぜ」
「いったい何がどうなってんだ?」
「もう訳わかんねーよー!」
『へへん、ザマーみなさい!』
ジェイクに向かってアスモが悪態を吐く中。
僕は汗ばんでいる右手を見つめた。
「勝った……」
僕はジェイクに勝ったんだ。
◇◆◇
「疲れた~」
帰宅した僕は、一目散にベッドにダイブした。
そして今日のことを思い出す。
使えなかった魔法が使えた。
今まで僕をイジめてきたジェイクに勝った。
信じられないけど、全部現実に起きたことだ。
「皆驚いてたな……」
魔法を使った時もそうだし。
模擬戦闘でジェイクに勝った時もそうだ。
皆、信じられないと驚愕していた。
それはそうだろう。
落ちこぼれの僕が、あのジェイクに勝ってしまったんだから。
疑わしい目。畏怖の目。
勇者候補達は、様々な感情で僕を遠巻きに見ていた。
「ユーリ、かっこ良かったわよ」
「うわぁ!?」
突然耳元で褒められ、ビクッと身体が跳ねる。
そちらに顔を向ければ、アスモが横にいた。
なんだよもう、ビックリさせないでよ。
そうか、もう夜だから実体化したのか。
昨日と変わらず、薄く色気のある服を纏っている。
服ってそれしかないのかな。
昨日は驚いてばっかだから意識してなかったけど。
改めて見ると目のやり場に困る。
「どう、今日を終えた感想は?」
「そうだね、最高の一日だったよ」
魔法も使えるようになったし、ジェイクにも勝った。
こんな日が訪れるなんて夢にも思わなかった。
最高という言葉以外、表す表現が思いつかないや。
それもこれも、全部アスモのお蔭だ。
「アスモ、ありがとう。
君のお蔭で、僕は変わることができたよ」
「ふふふ、私はキッカケを作ったに過ぎないわ。
絶望の中に居ても、腐らず、諦めず。
頑張り続けてきたユーリの努力と想いの結果よ」
「そうなのかな」
「ええ、勿論よ」
そっか、そうなのか。
僕の努力は、決して無駄なんかじゃなかったんだ。
良かった。諦めないで本当に良かった。
「んちゅ~」
「おい、何してるんだ」
突然唇を近づけてくるアスモ。
何で急に盛ってるんだこの魔王。
人が折角感動しているのに。
「なにって、キスに決まってるじゃない」
「何でさ。もうしなくていいだろ」
「ユーリこそ何言ってるのよ。
魔力が乱れてるんだから房中術しないとダメよ」
はっ? なんだそれ。
「もう僕の魔力は正常になったんじゃないのか?」
「一時的にね。だけどユーリは今日魔法を使ったでしょ?
それでユーリの魔力はまた乱れているのよ」
「嘘でしょ?」
「本当よ。その証拠に、身体が重くない?」
「まぁ、確かに」
言われてみればそうかもしれない。
朝は嘘のように身体が軽かったけど、今はかなり重たい。
でもそれは、単なる疲労に過ぎないんじゃないのか?
「魔法を使えば当然魔力も乱れるわ。
だからまた房中術で治さないと」
「そんな話聞いてない!」
「あら、言ってなかったかしら?」
なんてこった。
てっきり一回ヤれば済む話だと思ってたのに。
うん? 待てよ?
じゃあ僕は、この先ずっと房中術をしなくちゃいけないのか?
そんな馬鹿な……。
「ほら、男ならグズグズしない!」
「んん!?」
アスモに唇を奪われる。
その瞬間、身体が燃えるように熱くなった。
それはつまり、僕の魔力が整っている証拠。
アスモはゆっくり顔を離すと、ぺろりと舌で唇を舐める。
「さぁユーリ、私と愛し合いましょ」
「ほ、ほどほどにお願いします」
「ふふ、ダメよ」
その日の夜も、アスモにめちゃくちゃにされたのだった。