17 そんなの無理だよ!
「う……んん」
「起きたか、ユーリ」
「あれ、ルヴィア?」
目を開けると、そこには双丘が広がっていた。
あれれ……この山はなんだろう。
胸の形に見えるけど気のせいかな。
というか、頭が凄く柔らかいぞ。
モッチモチで、フワフワで。
おかしいな、僕の枕ってこんなに高級だったっけ?
まどろんだ意識が徐々に覚醒していき、ようやく理解する。
これは枕じゃない、ルヴィアの太ももだ。
僕は今、ソファーの上でルヴィアに膝枕されていた。
「ねぇルヴィア、何で僕は君に膝枕されてるの?」
「こ、これはだな!
こうした方がユーリが回復すると言われたからだな!」
「言われたって……誰に?」
「勿論私よ」
「ああアスモか……ええ!?」
アスモの声が聞こえて飛び起きる。
食卓の椅子に足を組んで座っているアスモが、にっこりと笑顔を浮かべて手を振っていた。
「な、何でいるのさ!? だ、だって……」
えっ!? えっ!? と。
慌てふためきながらアスモとルヴィアを交互に見やる。
ルヴィアが居るのになんで実体化しちゃってんのこいつ!?
何考えているんだと呆然としていると、アスモが口を開いた。
「心配しないで、ルヴィアにはもう全部話しているから」
「そ、そうなの……?」
「ああ、昨日の夜にな」
「昨日の夜!?」
今日じゃなくて、昨日の夜にはもう二人は会ってたの!?
ということは、ルヴィアはアスモの事を知っているのか?
「アスモが魔王であったことも。
ユーリに転生しようとしたことも。
思い直してユーリを応援することも。
その……なんだ、房中術とやらも聞いているぞ」
「全部やん」
恥ずかしそうに言葉を紡ぐルヴィア。
いつの間にかそんな事があったんだよ。
しかも僕が居ない間にさ。
「こういうのはね、当人が居ない方が冷静に話せるのよ。
それにいきなり私が出てきても警戒されるし、信じられないでしょう?
だからユーリとルヴィアが結ばれた後。
実際に房中術の効果を肌で感じてもらってから。
ユーリが寝ている間にルヴィアと二人っきりで話したの」
「私も荒唐無稽な話だと最初は信じられなかったがな。
目の前にいるのが魔王アスモであり、ユーリの中に居るなんて。
が、実際に体験してしまったのだから信じるしかあるまい。
それに、アスモは本当にユーリを想っているみたいだったからな」
「ええ……」
そういう事だったんだ。
なんか蚊帳の外にされて疎外感感じちゃうなぁ。
ムスッとした顔でアスモを睨むと。
ルヴィアが僕の頬を抓りながら怒ってくる。
「いひゃい、いひゃいよ」
「おいユーリ、私は怒っている」
何で? 僕何かしたっけな?
「お前な、ずっと前から私のことが好きだと言っておいて。
先にアスモとキスやなんだシたのはどーいう事なんだ?
「あっ」
「私はもう浮気されたのか?
それとも私が二番だったのか? ん?」
そりゃルヴィアも怒るよぉ。
やっと好きと言いあって結ばれたってのにさ。
その日の夜には違う女から「私の方が早い」と言われたんだから。
「も、勿論ルヴィアが大好きだよ。
それとアスモは、なんかこう半ば襲われたというか……」
「言い訳は許さん、男ならはっきり言え」
「ねぇルヴィア、こっち向いて」
「なんだアスモ、今大事な話をし――んん!?」
「はわわわわわわ」
アスモがルヴィアにキスしちゃった。
なんか見てはいけないものを見てしまった気がする。
急に何やってんだよこいつ。
頭おかしいんじゃないのか。
「な、何をする!?」
「まぁ落ち着いてルヴィア。
誰が一番だなんてどうだっていいじゃない。
ユーリがルヴィアを愛しているのは本当なんだから」
「あ、愛って……お前なぁ」
「ふふふ、仲良くしましょ」
凄いなアスモ。
ルヴィアを説き伏せちゃったよ。
いや、言いくるめたと言うべきかな。
話題を変えようと、僕は気になったことを尋ねる。
「そ、それよりさ、僕はどうなったの?
もう夜みたいだし、何故か家に居るし。
あんまり覚えてないんだけど」
「ああ、ユーリは気絶してしまったんだ。
それで父上に運ばれて、家に連れてきてくれたんだよ」
「気絶……?」
「魔力を使い過ぎたのね。
一気に疲労が来て倒れてしまったのよ」
そうだったんだ。
今まで魔法が使えなかったから知らなかったよ。
へぇ、あれが魔力切れの感覚なのか。
「そういえば試験は!?
卒業試験はどうなったの!?」
「覚えていないのか?
安心しろ、ユーリは無事合格したぞ」
「そっか、夢じゃないんだ。良かったぁ」
最後の方はあまり覚えていないんだよね。
そっか、僕はあのカイルに勝ったのか。
「それにしても驚いたぞユーリ。
いつの間にあんな魔法を使えるようになったんだ」
「あんな魔法?」
「使っていたじゃないか。
分身する魔法と、光属性の魔法をな」
「ああ……そういえばそうだったね。
けどさ、僕も無我夢中でよく分からないんだ。
ふっとイメージが湧いてきて、それでできちゃった」
あれはなんだったんだろう。
僕は分身の魔法や聖光魔法なんて使ったこともないのに。
疑問を抱いていると、アスモが教えてくれる。
「分身の魔法は闇黒魔法ダークネス・シャドウよ」
「闇黒魔法!? それって……」
「ええ、闇黒魔法は本来魔族しか使えない魔法よ」
そうだよね。
闇黒魔法は魔族が得意とする凶悪な魔法だ。
人間には使えない。
逆に魔族は聖光魔法を使えないけど。
「どうしてユーリが闇黒魔法を使えるんだ?」
「それはまぁ私の影響ね。
闇の性質が宿っているユーリは闇黒魔法が使えるのよ」
「そういうことだったんだ」
アスモが僕の中に居ることで。
僕の身体には光と闇、両方の性質の魔力が宿っている。
だから魔族しか使えない闇黒魔法を使えるという訳か。
まぁ使えるからといって、突然できるようになるのは不思議だけどさ。
「さっ話はここまでにしましょ。
ユーリもルヴィアも魔法を使ったことで魔力が不安定。
回復する為にレッツ房中術よ!」
「はぁ!?」
こんな時に房中術って何考えてんだよ。
いや、実際アスモが言う通り身体は凄く重怠いんだけどさ。
「しよう、ユーリ」
「ふぁ!? ルヴィアまで何を言ってるのさ!」
「もう我慢できそうにないんだ……」
我慢できないって、どういうこと?
「そ、それがな……ユーリに膝枕をしていたらな?
段々身体が火照ってきて、危うく襲うところだったんだ」
「房中術は何もキスや性交だけではないわ。
男と女がくっつくだけでも魔力が循環されるの。
まぁ、効果は薄いけどね」
そうなんだ。
僕を回復させる為に膝枕をしていたのか。
それが房中術になって、ルヴィアが発情してしまったと。
「ユーリ!」
「んん!?」
突然ルヴィアにキスされる。
それもお子ちゃまなキスじゃない。
舌が絡み合うような、大人のキスだ。
その瞬間、身体がカーッと燃えるように熱くなる。
やばい、頭が馬鹿になってくる。
僕は必死に理性を保ってルヴィアに頼んだ。
「ちょ、ちょっと待って!
ここでするのはやめよう、せめて寝室でお願い!」
「わかった、早く行こう」
「そうね、早く行きましょう」
「んん?」
ルヴィアを連れて寝室に行こうとしたら。
何故かアスモまでついてくる。
「何でついてくるの?」
「決まってるじゃない
私もユーリとしたいからよ」
「はぁ!? いやいやいや、無理でしょ!」
必死に頭を横に振ると。
アスモがムンッと怒ってくる。
「何言ってるのよ!
私は昨日お預けを喰らったのよ!?
その上ユーリのかっこいい姿を見せられて。
私が我慢できる訳ないじゃない!」
「じゃあ僕はルヴィアとアスモ。
二人としなきゃいけないの?」
「大丈夫、ユーリならできるわ」
「そんなの無理だよ!」
冗談じゃない。
アスモ一人を相手するのだって大変なんだよ。
なのにルヴィアを加えて三人でするとか。
流石に身体がもたないよ!
「そんな~お願いよ~」
「ユーリ、私からも頼む。
私だけするのは不公平だと思う」
「ぐぬぬ……」
アスモに涙目で見られるし。
ルヴィアからも頼まれてしまった。
はぁ……これで断ったら男じゃないよ。
「分かったよ! やりますよ!」
「そうこなくっちゃ」
「よし、早くしよう」
という事で、僕達は三人仲良く寝室に行き。
二人は我慢できないと言わんばかりに服を脱ぎ捨てる。
そして僕の服は彼女達にはぎ取られた。
「ユーリ」
「アスモ……んん」
アスモに貪るようなキスをされた。
もうそこからは覚えていない。
ただ求め合うように。
僕はアスモとルヴィアと三人で激しく愛し合ったのだった。




