表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ミミ

作者: にょん

「ねぇ、ミミ。死んだ人はお星様になるんだって」

 寒い寒い夜。アンは雪を踏みしめながら、山道を行きます。ミミはその小さな体に抱かれ、アンに寄り添っていました。

 ミミは黒いうさぎ。まだアンがお母さんのお腹の中にいるときに、お父さんが買ってきてくれたぬいぐるみです。でも、アンのお父さんは、アンが産まれる前に事故で帰らぬ人になってしまいました。

 そしてつい最近、アンのお母さんは、「新しいお父さんよ」と、男の人を連れてきたのです。

 アンはそれがたまらなく嫌になり、ついさっき、ふもとの家を抜け出してきたのでした。

「この山の一番上まで登ったらきっとお星様に手が届くから……そしたら、お父さんに会えるよね」

 アンはミミをぎゅっと抱きしめました。

 ちらちらと雪が降りはじめても、アンは前へと進みます。本当はとても心細かったのですが、今更帰り道も分かりません。ただ進むしかなかったのです。

 雪はどんどん降り積もり、アンの足取りもどんどん重くなっていきます。そしてついに、彼女は雪の上に倒れ込みました。もう手足の感覚もありません。まぶたも重くて、アンは我慢できずに目を瞑りました。このまま眠れば、お父さんに会える気がしました。

 アンが眠りにつくと、美しい女神様が現れました。

「かわいそうなアン。お父様のところに連れて行ってあげましょう」

 女神様がアンに手を伸ばそうとすると「だめ!」という、声が響きました。

 それは、アンに抱かれたミミの声でした。

「小さなうさぎよ。この子はこれから死ぬのです」

「お願いです。女神様、アンを連れていかないで」

「人を助けるのは人でなければなりません。それがこの世界のきまりです。運命を変えてはいけないのです」

 再び手を伸ばす女神様にミミは食い下がります。

「じゃあ、僕を本物のうさぎにしてください。助けを呼んできます」

 女神様は手を止めると、ミミをまっすぐに見つめました。

「貴方を本物のうさぎにするのは簡単です。ですが、一度なってしまえば、もう元の人形には戻れないのですよ」

「……かまいません。お願いします女神様!」

 女神がミミに手をかざすと、ミミの体は光に包まれました。

 ミミはアンの腕から抜け出すと、雪原を走り出しました。黒い黒い影が白い世界を駆け抜けていきました。




 翌日。アンはベッドの上で目を覚ましました。

 そばではお母さんと、新しいお父さんが心配そうな顔でアンのことを見つめていました。

「あれ……私、昨日は山に……」

 戸惑うアンをお母さんは泣きながら抱きしめました。

「よかった、よかったアン。山で倒れていた貴方をお父さんが見つけてくれたのよ」 

 アンを助けてくれたのは、新しいお父さんでした。

「昨日の夜、家をノックする音がしてね。開けると黒いうさぎがいたんだ。うさぎが「こっちに来て」と言うように、ふりかえるんだよ。それを追いかけたら、アンが倒れていたんだよ」

 アンは「お父さん」にお礼を言いました。

 そしてすぐにミミがいないことに気づきました。

 アンは元気になってから、お父さんとお母さんと一緒にミミを探しにいきました。でも、ミミは見つかりませんでした。

 落ち込むアンの手をお父さんとお母さんは握ります。アンもそれを少し照れ臭そうに握り返しました。

 幸せそうなその姿を遠くで黒いうさぎが見つめていました。三人が見えなくなると、うさぎは跳ねながら山の奥へと消えて行きました。


end

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アンが新しいお父さんとなかよくなれてよかったです。 黒ウサギさんとのお別れは寂しいですね。 森の奥には元ぬいぐるみの動物たちがいたりして……
[一言] アン、無事で良かったです。 うさぎのミミと一緒に暮らすエンドだったら良いなぁと思ってしまいます。
2023/01/10 15:20 退会済み
管理
[良い点] 中盤、ミミが草原をかけていく様子が白に黒が映えてとても勇ましく素敵でした。 ミミ、かっこいいです。 アンちゃん、ミミ、どうぞお幸せに。 切なくも希望がある物語でした。 ありがとうございまし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ