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隻眼の騎士  作者: たき
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(2)

 一回生や二回生がダンスの練習に励んでいる中、放課後の生徒会会議室で、卓上に広げていた書類をそろえながら、タウは深く息をついた。

「なんだか具合が悪そうだけど」

 大丈夫なの、と声をかけてきたイオタに、タウは苦笑を返した。

「さすがにこう会議が続くとな」

 他の専攻代表たちは次々に帰る支度をしている。今日は学院祭の催しについての話し合いがおこなわれたが、スクルプトーリス学院との交流戦も控えているため、このところ昼休みや放課後のたびに小会議や代表会議が入り、ゆっくりする時間がなかった。学院祭は教養学科生や神法学科生を中心に準備を進めるおかげで、武闘学科生の役割は当日の代表戦や催しの補助くらいなのだが、正直なところ体は悲鳴をあげていた。

「せめてこの休日だけでもあいていればよかったんだが」

 あいにく、次の休みはスクルプトーリス学院の学院祭があり、タウは『ゲミノールムの黄玉』として出席しなければならない。それでなくともあの学院には顔をあわせるだけで疲れる相手がいるのにと、タウはもう一度ため息を吐き出した。

 行事の時期をずらせることができればよいが、学院祭は交流戦前に相手校を視察できる機会をかねているため、どうしても開催時期が重なってしまう。どこも条件は同じとはいえ、厳しい日程だった。

「剣専攻生の野外研修はいつなの?」

「休み明けだ。組み分けは明日だが……しまった、シータに話しておくのを忘れていたな」

 バトスに言われていたことを思い出し、タウは髪をかいた。

 今度の野外研修は剣専攻生全員がヒュポモネー山地に行く。構成は四人一組で誰と組もうが自由だが、一回生から三回生まで最低一人は入れなければならない。タウは最初に誘いをかけてきたバトスと組み、二回生はバトスの冒険集団に所属しているアルスを、そして一回生はシータを引き込むことにした。アルスには先にバトスが声をかけるので、シータに話をつけておくように頼まれていたのだが、あまりにも忙しすぎてすっかり頭から抜けてしまっていた。

 毎年おこなわれるこの研修はかなり過酷で、体力、技術、知識が上級生よりも劣る一回生は、へたをすれば班の足を引っ張ることになりかねない。そのためどうしても能力の高い一回生の取り合いになるから、事前に約束をとりつけておけというのがバトスの言い分だった。確かにシータは勉強のほうはそれほどでもないが、剣や乗馬は一回生で一番だし、体術も一、二を争う腕前だ。何より体力が抜群にあるので、狙っている二、三回生は多いだろう。

 今回の研修でバトスは何が何でも一位をとるつもりらしい。もうじきある特待生試験に成績が関わってくるからだ。すでに虹の捜索隊に登録されているバトスは試験もかなり有利なはずだが、できるだけ確実なものにしたいのだろう。

 特待生は各専攻十人。その十人分の座を四つの学院で奪い合う。単純に計算すれば各学院につき上位二、三人だが、いつもいつもきれいに分かれるわけではない。年によっては自分たちの学院から一人も特待生が選ばれないこともあるのだ。スクルプトーリスからはレイブンが確実に入るだろう。あとは九つの枠の中に滑り込めるかどうかだ。

 虹の捜索隊に所属しているかどうかがどれほど影響するのかはわからない。ただ今まで特待生として進学した者のほとんどが虹の捜索隊であることを考えると、試験にからむ比率は高そうだ。

「イオタも特待生を目指しているのか?」

「当然よ」

 イオタは腕組みをした。イオタの家系は代々学者や教官を多く輩出している。イオタの父と兄もトカーナエ高等学院でそれぞれ歴史と算術を教えているし、イオタ自身、将来教官職に就くことを希望していると聞いた。

 タウは自分のてのひらを凝視した。自分も特待生になるために今まで努力してきたが……。

「やはり『冒険者の集い』の審査に失敗したのは痛かったな」

 きっとファイやシータも特待生入りは目標になっているはずだ。来年虹の捜索隊の審査に再挑戦して合格しなければ、ファイたちの進路にも影響が出る可能性がある。

「確かに虹の捜索隊になっていれば、タウも私も特待生入りはまず間違いないでしょうけど、いまさら言ったってどうしようもないわよ」

「そうだな」

 自信があるのかイオタにはあまり迷いの色は見られない。顔をほころばせるタウに、イオタは「ま、頑張りすぎて倒れないようにね」と言った。

「……そんなに無理をしているつもりはないんだが」

 どこが、と問いたげな目つきのイオタに、タウは首をすくめた。以前よりは肩ひじはらずに行動している気でいるが、他人にはまだまだ必死になっているように見えるのか。

 できれば自分に余裕をもちたい。だが上を目指すかぎり、そんな日は一生こないのかもしれない。

 追いつきたい、追い越したい相手は、すでにこの世にはいないから――今もなお目に焼き付いている広い背中を思い出し、タウは唇を結んで腰を浮かした。



 翌日の一限目、剣専攻生は全員大会堂に集まった。どんな研修内容なのかよくわかっていない一回生は、やはりどことなく落ち着きなくざわついている。寄ってきたバトスに、結局シータと話ができなかったことをタウがあやまると、案の定バトスは怒った。すぐシータを探しにいこうとしたが、シータは背が低いので一回生の集団の中に埋もれている。それでもおそらくパンテールと一緒にいるだろう。パンテールは上背があるのですぐ目についた。しかし二人が行こうとしたところで、ウォルナット教官がやってきた。一回生から三回生までが慌てた様子で整列していき、舌打ちするバトスの横でタウがあいさつの号令をかけた。

 ウォルナット教官は前置きもなく、すぐに研修内容について説明を始めた。組み分けが自由だと聞いて、一回生たちがざわめく。そして合図があったとたん、バトスが駆けだした。タウはのんびりとバトスの後を追っていき、途中でアルスと合流した。

 アルスはバトスの冒険集団に所属している人間の中では一番癖がなさそうだが、二回生代表だけあって腕は確かだ。ニトルも一見おとなしそうだが、なんといってもロードン教官の孫だし、あのファイに自分から好んでついてまわっているくらいだから、ただ者ではないだろう。

 普段合同演習では積極的に上級生のもとへ行く一回生も、さすがに今日はとまどっているらしく、数人でかたまってきょろきょろしていた。成績に関わる研修に自分から売り込んでいく勇気はないらしい。二、三回生はそれがわかっているから、まず上級生同士で組んでから一回生に声をかけにいく。エイドスを三つの集団が取り合っているのを横目に、シータが自分たちと組むつもりでいてくれるといいがと思いながらタウが歩いていると、バトスが手を振った。

「タウ、シータをつかまえたぞっ」

 人混みをかきわけて近づくと、バトスがシータをがっちり捕獲していた。当のシータは困惑している様子だ。

 いくら一回生最強とはいえ、シータは一応女の子だ。それをはがいじめにするのはどうなんだとタウは苦笑した。

「まったく、お前が先に話をつけておかないからあせったぞ」

 周りで悔しそうな顔をしている複数の集団を見回しながら、バトスが誇らしげににやりと笑う。その近くではパンテールをめぐる争いも終結したようで、パンテールはシータにまた後でと手を振って去っていった。

「これで一位はいただきだな」

 バトスが立候補したので班代表はバトスに決まり、タウは副代表になった。参加申込書をもらってくると言って、機嫌よさそうにウォルナット教官のもとへ向かうバトスに、シータが首をかしげた。

「バトス、なんであんなにやる気満々なの?」

「特待生試験が近いからな」

「そっか。私も頑張らないと……でも、やっぱり勉強の成績もよくないとだめだよね。タウは特待生入り確実だって言われているから、余裕なんじゃない?」

 うらやましがるシータに、タウは一呼吸おいてから「どうだろうな」とぼそりと答えた。



 その日帰宅してから、タウは野外研修の準備をした。必要な服や小物をそろえ、袋に詰めていく。そこへ階段を上がってくる音が響き、扉がたたかれた。声をかけてきたのは妹だった。

「お兄ちゃん、ご飯できたよ」

「ああ、今下りる」

 ふり返らないまま返事をしたタウの背中に、妹がべたっとのしかかってきた。

「少し髪がのびすぎじゃない?」

「最近、切る暇がないからな」

 髪を一房つかんだ妹に軽く引っ張られる。確かに前髪も襟足もちょっと鬱陶しくなってきた。野外研修から帰ってきたらまず散髪に行こうと考えていたタウに、「でも、いいなあ」と妹が言った。

「私もお兄ちゃんみたいに金髪がよかったな」

 もう何度ついたかわからないため息を今もまた吐く妹を、タウは肩ごしに見やった。自分は母に似て金髪だが、妹の髪は父に似て茶色い。瞳の色は逆に妹が母譲りの赤紫色で、自分は父と同じ赤色だ。タウは特にこだわりはなかったが、前に「別にどちらでもいいんじゃないか?」と答えて妹に怒られたことがあるので、口をつぐんだ。

 このところ、妹は身だしなみにやたら気を使うようになってきた。それこそ前髪の長さがほんの少し違うだけで騒いでいるくらいだ。自分のことに無頓着すぎるのも困るが、そのままでも十分に人目をひく外見をしているのだから、へたにあれこれ手を出さないほうがいいと思うが、どうやら化粧にも興味がわいてきたらしく、家の商品を熱心に調べたり、よろず屋に連れて行けとよくせがまれる。しかし母が「学院に入学してからね」と制限をかけているので、しょっちゅうふくれていた。

 イオタならおしゃれに詳しいだろうから、いい話し相手になるかもしれない。ミューもいれば、妹を上手に扱ってくれそうだ。

「今度、みんなに会ってみるか?」

「えー? どうして?」

「お前が今欲しがっているものについてよく知っている人間もいるし」

 妹はしばらく黙り込み、「やめとく」と言った。

「なんか恥ずかしいもん」

 そういうものなのか。家ではよくしゃべるのに、外ではけっこう人見知りするのだなと、タウは小さく笑った。

 いつか妹にも好きな人ができれば、自分の手を離れていくのだろう。誰かに安心して託せる日がくるまでは、自分が守っていかなければならない。もちろん妹だけではなく、母のことも。

 なかなか下りてこない二人に、一階から母がせかす。ようやくここ数年で屈託なく笑えるようになった母に返事をし、タウは妹を連れて部屋を出た。



 休日、タウは武闘学科生が式典で着る正装を身につけて登校した。待ち合わせ場所である学院長室に着くと、ちょうど学院長も部屋から出てきて、さらにイオタも姿を見せた。

 普段は赤い法衣姿なので、ゲミノールム学院の正装である黄色をまとっているのは新鮮だった。さらにその指には、みんなが誕生日に贈った黄玉の指輪が光っている。

 三人で馬車をとめてある玄関へ向かう途中、ふとイオタから漂ってきた香りにタウは目を細めた。この匂いは、自分が調合した香水だ。

 イオタがタウをちらりと見てそそくさと足を速める。「つけてみたんだけど、どう?」と聞いてくれれば答えるのに、照れくさいのか、相変わらず素直でない。

 イオタのもつ雰囲気を壊さない仕上がりになっていてよかった。よく似合っていると満足しながら、タウは二人の後に続いた。

 スクルプトーリス学院に到着し、先に馬車を降りたタウは、イオタに手を貸した後で学院内を見回した。学院にはゲミノールムと同じく、中央棟、法塔、闘技場、乗馬場、大会堂、図書館、そして四神の礼拝堂があり、それぞれの場所へ通じる道も整えられている。どことなくゲミノールムより威圧的な感じがするのは、学院を囲む高い壁のせいかもしれない。また平地に建てられているゲミノールムと異なり、スクルプトーリスは小高い丘の上にあるので、攻めるときは気をつけなければ敵から丸見えになる。

 勝敗は今までほぼ互角だった。二年前はゲミノールムが、去年はスクルプトーリスが勝っているので、勝利の旗を取り返したいゲミノールムと死守したいスクルプトーリスの今年の争いは、さらに激しくなることだろう。

「ようやく来たか」

 各校の代表を出迎えるのは、その学院の代表の務めである。先に訪れていたオーリオーニス学院の代表を置き去りにして足早に近づいてきたレイブン・ピスタシオに、タウは沈黙した。学院色である赤色に金や銀を取り混ぜた衣装は目がちらつくほど華美なのに、まったく違和感がない。どうしてこう癖のある服が似合うのか謎だ。

 遅れて『紅玉の姫』であるフィーリアもゆるやかな足取りで現れた。フィーリアは細身のうえに小柄なので、スクルプトーリス学院の正装は幾分重く、毒々しくさえ見える。

 フィーリアは扇で口元を隠し、とがめるような視線をタウへ寄こした。フィーリアの再三にわたる呼び出しを母に任せてかわし続けたタウに対し、あきらかに不満をいだいているのだ。

 それでも商品を購入してくれるのはありがたい。そのあたり、母がうまく対応しているのだろう。

 つと、フィーリアがはっとしたさまでイオタを見た。ほのかに香る匂いと、イオタの指で輝く黄玉の指輪に気づいたらしく、不愉快そうに紅紫色の瞳をすがめる。そこへスクルプトーリス学院長であるプレオン・ヴィルギニスがやってきた。

「ようこそ、我がスクルプトーリス学院へ」

 見下すような目つきで薄く笑いながら、ヴィルギニス学院長は三人に歓迎の言葉を告げた。

「お招きいただき、ありがとうございます。無事に学院祭の日を迎えられましたことを、お喜び申し上げます」

 ヘリオトロープ学院長が涼やかな面持ちで返す。ヴィルギニス学院長は鼻を鳴らすと、開会の儀がおこなわれる大会堂へ案内した。そして三人を中へ通したが、そのときイオタがフィーリアに小声で話しかけた。

「タウが調合してくれた香水よ。世界に一つしかないものなの」

 フィーリアの頬がこわばった。悔しげに唇をかむフィーリアの隣で、レイブンが「何?」と眉をひそめる。女に手製の香水を贈るとはどういうつもりだと食いついてくるレイブンを振り切り、タウは先に大会堂へ入るイオタを追った。

 イオタはかなり機嫌がよさそうな顔をしていた。やはりやられっぱなしでは終わらなかったなと、タウは苦笑を漏らした。

 開会の儀も滞りなく終了し、学院長たちは学院長室へ、そして各校の代表はスクルプトーリス学院の生徒の案内で学院祭の催しを見て回ることになった。代表戦に出場するため付き添えないレイブンがひどく残念そうにくどくどと語ってから、必ず代表戦を見に来るよう念を押して去っていく。タウはレイブンから解放され、ほっとして大会堂を出た。

「ラムダ!」

 最初の催し会場へ足を運んでいる途中、タウは見慣れた背中に呼びかけた。ふり向いたラムダのそばには、ミュー、シータ、ファイがいる。

「開会の儀は終わったのか?」

「ああ。今日はみんなと一緒に回ることはできないが。ローは来ていないのか?」

「用があるらしい。交流戦に関わるから、ファイは何とか引っ張り出して連れてきたんだが」

 ラムダが気の毒そうな視線をファイへ投げる。人混みが苦手なファイはすでに気分が悪いのか、青い顔をしている。反対にシータは人の多い場所が好きなのか、興味深そうにきょろきょろしていて落ち着きがなかった。

「建物の配置などは大事な情報だ。しっかり頭に入れておけ」

 タウの言葉にシータはうなずいたが、何か催しが始まるのか大きな楽音がしたとたん、そちらに顔を向けた。縄でつないでおかなければ飛び出していきそうなほど、薄緑色の双眸をきらきらさせているシータに、タウはラムダと目をあわせて肩をすくめた。

 ラムダたちと別れたタウとイオタはその後いくつかの展示場や催しものを見学したが、レイブンから何か指示されていたのか、案内役の生徒会長はひたすらレイブンのことを話題にし、ほめちぎった。イオタはうんざりした顔でよそを向き、タウもできるだけ話の方向を変えようと努めたが、最後にはあきらめて半分以上聞き流すことでよけいな精神的疲労をかかえこまないようにした。

 まもなく代表戦の開催時間となり、多くの来客が大会堂のほうへ移動を始めた。レイブンとの接触はできるだけ避けたいタウもその剣技には関心があったので、大会堂へ誘導する生徒会長に反対はしなかった。

 レイブンは毎年腕をあげてきている。そして今年の交流戦も全力でくるだろう。お互い総大将の身であるため、勝敗がそのまま自軍の命にかかわる今年は絶対に負けられない。今までつけてきた力を存分に発揮しなければ勝てない相手だし、そうしなければ失礼だ。

 ほとんどの見物客がレイブンの試合を楽しみにしているさまを横目に大会堂に入ったタウは、用意されていた特別観客席に案内されたところで、シアン・フォルナ―キスを見つけた。生徒会長とイオタに断ってシアンのもとに行くと、その隣には壮年の教官らしき男性がいた。

「やあ、タウ。調子はどうだい?」

 笑顔で尋ねてきたシアンは、横に座っている中肉中背の男をかえりみた。

「タウ・カエリー。ゲミノールム学院剣専攻三回生です」

「知っている。毎年学院祭の代表戦に出ているな。今年も出るのだろう?」

 男は茶褐色の瞳をまっすぐにタウへと向けた。整えられた口ひげが幾分生真面目な印象を与え、すきのない雰囲気をつくりあげている。年は四十代半ばくらいか。ウォルナット教官よりも小柄なのに、存在感はまったく引けをとらない。かなりの武人ではないかとタウは思った。

「私はセルモス・クルード。武闘館の剣専攻担当教官だ」

 よく響く低い声で名乗り、クルード教官はタウと握手した。

「君たちの集団の噂は武闘館教官の耳にも入っている。特待生試験は受けるのだろう? 君ならまず間違いなく通るはずだ」

 特待生試験という言葉が聞こえたのか、イオタがそっと寄ってきた。

「もちろん試験は受けます。ただ、俺たちの集団は虹の捜索隊ではないので」

 タウが答えると、クルード教官は眉をひそめた。

「虹の捜索隊ではない? それは……問題だな」

 独り言のようにつぶやいたクルード教官に、タウとイオタは視線をあわせた。嫌な予感が胸をかすめ、鼓動が速くなった。

「特待生試験に虹の捜索隊が影響する比率はどれくらいなんでしょうか?」

「五割だと考えてくれればいい」

「そんなに……!?」

 タウは目をみはった。

「本来の個々の実力を重視できないのは我々としても頭の痛い話だが、神法院の決めたことにはむげに逆らえない。残念だが、虹の捜索隊に所属していなければ、特待生入りはかなり難しいと思ってほしい。家柄によっては同じ程度有利に働くこともあるが……」

 イオタは衝撃が強すぎたのか完全に硬直している。そこへ代表戦開催の鐘が高らかに鳴った。

「学院長に相談してみてはどうだ? 君たちのことはおそらく神法院も把握しているだろう。うまくかけあえば再審査の許可が下りるかもしれん」

 タウは黙り込んだ。着席するよう生徒会長にうながされ、クルード教官とシアンに頭を下げてからイオタを連れて席へ向かう。だがせっかくの代表戦にも集中できなかった。

 虹の捜索隊が特待生試験に大きく影響することは知っていたが、まさか五割もからんでくるとは予想していなかった。

 審査を甘く見ていた。このままでは自分もイオタも、ラムダもミューも、そしてシータたちも、特待生入りは望めない。ふと見ると、イオタはうつむいてひざ上で服をにぎりしめていた。いつも強気に輝いている深黄色の瞳がうっすら湿っているのは気のせいではないだろう。

 何とかしなければ――最後の試合でレイブンがあっさりと勝負を決めて大喝采を浴びる姿をぼんやりと眺めながら、タウはクルード教官に言われたことを頭の中で繰り返した。


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