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藪知ラズ

作者: 鵜塚 夕


拝啓、どこにいるのかもわからないおばあちゃん。

私はいま、走れども走れども先の見えない、どこへも辿り着けない道を全力で走り続けています。





何かから逃げているのか、それとも何かを追いかけているのか、何処へ行きたいのかも思い出せぬまま走り続けて数時間。そんなにも走り続けているというのに、まるで八幡の藪知らずに立ち入ってしまったかのように出口が見えません。二度とこの道から出られないのでしょうか。神隠しにでも遭ってしまったとでもいうのでしょうか。






深夜2時。草木も眠る丑三つ時。

月を遮るかのように厚い雲に覆われた曇天の空の下、控えめに鳴くコオロギの声が薄窓越しに聞こえてくる。

雨でも降りそうな蒸し暑さの中目が覚めたのは、何もこれが初めてではない。

うっすらとかいた汗が鬱陶しい。



一つ小さなあくびをこぼし埃っぽいフローリングをぺッタ、ペッタと進んでいく。ガラガラ、と引き戸を開け台所へと向かう。ムワッと排水溝のにおいがした。戸棚から下がる紐をガチャンと引き、蛍光灯を灯す。キン、ジ、ジ、ジー...と音を響かせながらチカチカと光る電気が眩しくて目を細めた。

流しの上の水切りかごからグラスを一つとり、冷蔵庫から冷えた緑茶を取り出した。グラスに注ぐとすぐに結露で曇っていく。八分目まで注ぎ入れた緑茶を一気に飲み干した。冷たい。



顎が外れそうなほど大きなあくびが出た。寝不足だ。原因は分かりきっている。



今もリビングから聞こえてくる、地の底から鳴り響いてくるかのようなひどい音のせいだ。

初めの頃はここまで酷くはなかった。夜中に目が覚めることもなく、精々偶然トイレに起きた時に多少聞こえてくるだけだった。

それが今ではどうだろう。まるで壊れた洗濯機のような、工事現場のような、そんな騒音が鳴り響いている。





ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオオォオオオオオオーーーーーーーーー








拝啓、おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん……

いっったい、いつになったら私はここから抜け出せるのでしょうっか!!!!

え、ほんとにいつ?いつまで走っていれば抜け出せるのねぇこれ??!?!?

何なのこの道!!!ほんとなんなの?!?!走れども走れども同じ場所から動けねーんですけど?????













白大福豆太郎、ほんと元気だよなぁ。

元気なのはいいんだけど、そろそろ滑車買い替えないと寝不足で仕方ないわ。明日帰りにペットショップ寄ってこよ。サイレントホイールだかっての、ちゃんと静かなのかな。まぁこれよりかは静かか。




グラスを軽くゆすいで水切りかごに戻す。電気を消し布団へと戻る。夏用の冷感シーツに寝転び、タオルケットを掛けた。滑車のひどい音はまだ続いていた。



明日は安眠できたらいいな。





爆音轟音を轟かせながら、今日も明け方まで白大福豆太郎は走り続けた。





定期的に買い替えないと、音がひどくなりますよね。

食用油を差してもしのぎきれなくなったらもうアウト。


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