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97噂のお店

「着いたー」

「なんか道路空いてたね、あれれ? 今日駅前も、人が少ない気がするなぁー」


学校からバスに乗り駅前に辿り着く。

普段なら二十分程掛かり駅に着く筈なのに、今日に限っては珍しく十分程で目的の駅に着いた。



バス停の降車口はデパートの目の前。わたし達はそのままデパートへと向かう。


「先に本屋さん行っても良い? すぐ買ってくるから」

「急がなくても良いよー。私も雑誌チェックしたいし」

「わかった。買い終わったら迎えにいくねー」


エスカレーターで二階に上がり本屋さんへと足を運ぶ。

わたしは本屋に来ると結構な時間を掛ける。



大概は本屋さんのフロアーを一通り、気になるタイトルは無いか、直感で目に付く物は無いかなと、ついついアンテナを無意識に張ってしまう。


本屋さんって楽しいよね。


自己啓発コーナーみたいな所を通り過ぎると、タイトルが眼に入る。


えっと、『これで貴方も見返り美人』。


背筋が良くなるのかな? 『気になる異性へのアピールは仕草から』ふーん。


アピールねぇ……。


『新異世界に行く方法』あ、ちょっと気になるかも……新って言葉が!


ライトノベルの新刊コーナーには、目当ての本が陳列してあった。


他にも気になるタイトルの新刊が出てはいるけど…………あ、これ前から気になってたやつだ。

一巻増刷されたんだ……これはついでに買っていこう。


そしてわたしが探していたのは『伊勢界でチャーハン作るで御座る六』今回はどんなチャーハンで戦うんだろう。


今日はこの二冊に決めてレジに向かった。


「明海、買ってきた」

本屋さんなので、声のトーンを少し下げてわたしは明海に声を掛けたら、明美はあーうん。

そろそろ行こっかと言って本を戻していた。


「目当ての本は有った?」

「うん。今回も楽しみー」


わたしたち二人は話しながらエレベーターに向かう。


「所でなんてタイトルなの?」

明美は興味津々な様子で聞いてきた。


「え、と、明海ってライトノベルとか読むんだっけ?」

「有名所は幾つか読んだよー『不可視な日替わり妹とオフライン兄貴』とか『謎の猫が干物飼い主のわけがないのではないか?』辺りは読んだよ。最近のだと、『このゾンビ先生が世界を茸で牛耳る』とかかなぁー」


「結構おさえてるねー。

『ふひあに』に『なぞひも』に『きのこる』かぁ……。

あ、今回買ったのはこれ『伊勢界でチャーハン作るで御座る6』」

「『いせちゃー』ね知ってる。最近、流行ってきてるらしいねー」


「うん。結構面白いよ~」

「そっかー。気になるから読もうかなー」

「お勧めだよ~」

「あとはこれ、『魔法騎士皇女レイの悲劇』」


「お、話題作だね。確か……、『クッころ』さんだっけ?」

「そうそう。毎回敵に捕まるヒロイン『東条レイ』のお約束物らしいけど……。レビューが物凄く気になっててね。……おにいちゃんも気になるって言ってたし」


エレベーターを降り、屋上に着くとこじんまりとした遊園地があった。

人の数は疎ら。大概の乗り物は子供向けの物だけど、中には大人も乗れるものもある。


何かの戦隊物のショーとかも時間に拠ってはやっているみたいだ。

屋上は風の通り道があり、場所によっては、風が結構強く肌寒い。

風船を持った親子連れも見かける。


わたし達二人は、目的のお店を探す為に周りの露天などを見て回る。

露天にはアイスクリーム屋さんにたこ焼き屋。


わた菓子等の縁日のお祭りで見かける様なお店が並んでいる。


「あ、あれかな?」

「え、あぁ、あそこね。行こっか明海」

「わぁーー。ラッキー。やっているみたいだね」


今、周りには誰も他のお客さんは居ない様だ。

露天の中には少し古くなった大きいガラスのショーケースがある。


近づいて覗くと、所狭しとアクセサリーやらイヤリング、バッチに模様の書いてあるカード。

あとはキーホルダーとか、手の中に納まるぐらいの大きさのものが結構な種類並んでいた。


ちょっと気になったのは同じ種類の物が一つもない様に見える。

どちらかというと、あんまり可愛らしい品物は無いみたいだった。


「結構種類はあるねって、あれ、同じものは置いてないね」

「あ、気づいた? 全部一品物なのかしら……」

「いらっしゃい」


お婆さんはニコニコした顔で挨拶してきた。

年は幾つぐらいだろう…………七、八十歳ぐらいかな? 私達も挨拶をする。


「「こんにちは~」」

「ちょっと気になってて見に来ました~」


明海は興味津々の様だ。

ガラスのショーケース内の小物に眼を奪われながら、お婆さんに話している。


「すまないけど、ここは商品に買い手を見つけてもらうお店でね。気に入った物が有っても、譲ってやれないのだけど、……良いかえ?」


「はい。噂で聞きました。お願いします」


明海はお婆さんに伝えていた。明美は噂とかのアンテナが凄いと思う。

あ、もしかしてキャットテイルって……。


「そうかえ、そうかえ、まぁ、ここに来た時点で何か縁が有るだろうから、見られていってね」

お婆さんは意味深な言葉を云い。

ショーケースの蓋を器用に開ける。


「特に気になる物が有ったらさわってみてな」

「はーい」


明海はあれでもないこれでもないと、商品の小物を物色している。

何かバッグに取り付ける物が目当ての様子だ。


わたしも明海にならい商品を観察していく……。

ほどなくすると、お婆さんはわたしに話しかけてきた。


「お前さんはこれなんかどうじゃろ……」

お婆さんは商品を手に取り、わたしに渡す。


「その子はあんたをみていたよ」

え? 見ている……? ちょっとビックリしたけど、そういう言い回しなのだろうと、納得する。


その小物はキーホルダーだった。

なんだろこれ、すべすべした感触に触れ、表には丸い模様が九つ描かれていた。


変わったキーホルダーのリングの部分を摘み記憶を探る……あれ、おにいちゃんの部屋で見たことある様な――――。


「わぁー。いいなー穂美香」

「うーん……」


「……それマージャン牌だよ」

明海はこれが何か知っている様だ。


「まぁじゃんぱい? って言うんだ? これ……」

「うん、模様が九個見えるから数字の九だね。絵は筒だったかな」


「変わったキーホルダーだね」

「あはは、そうかもね。でもラッキーだよ、買うべき。きっと何か良いことあるよ」


「そっか、確かにお守り代わりなんだから、形とか絵柄を気にしても仕方ないか。確かに何か気になるし」


わたしはそのキーホルダーを見つめると何か吸い込まれそうな感覚にとらわれた。


「あたしも何か……あ、これ気になる。ピピっときた」

明海はフサフサの猫の尻尾をモチーフにした様な、ストラップをお婆さんに渡した。


あ、猫の尻尾だ……。これもキャットテイルが煌めいたのかな?

「……ふむ、いいんじゃないかえ?」

お婆さんはストラップを手に取り頷くように言った。

「わーい。ご縁があったー」


明海は喜んでいた。

わたしももうちょっと可愛げのある物が良かったなぁ~と、ほんの少し思ったが、あ、でもおにいちゃんも似たような物、持っていたから、お揃いなら良いかな~。


うんうん……と何か納得できて前向きに満足する。

「ほっほっほ。今日は珍しいねぇ。二組も巡り合えるとは……」


とりあえずは、今日はついてるってことで、明海と店の前ではしゃいだ後、お金を支払う。

金額は五百円だった。お婆さんはお金を受け取った後、わたしの顔を見る。


「そこのおまえさん」

お婆さんはわたしに呼びかけつつ、何かモゴモゴと口の中で言葉を出した後話し出した。


「わたしですか?」

「うん――。何か悩み事でも有るのかえ?」


何故かお婆さんはそんな事をわたしに聞いてきた。

その言葉にわたしは虚をつかれて思案していると、明海がお婆さん相手に――――


「穂美香は恋をしているんだって」


わたしの腕を取りお婆さんにそんなことを話す。

恋、してたっけ? わたし…………。


「なるほどのぅ……ちょっと、このこもあんたが気になるようだから、持っていきんさい」


と、なにやら神社のお守りの様な物をわたしに渡してきた。

わたしは少し眉を寄せた。


「んん? ……安産のお守り?」


お守りになのに何故かチェーンとリングまで付いていて。

片側に見たことのない文字と文の最後に安産。と書かれていた。


すかさずそれを見た明美は爆笑を隠せずにくっくっと、笑いをかなり堪えつつ呟く…………。


「じょ…………女子高生に安産のお守りっ。この組み合わせは想像力を掻き立てるわぁ~、さあっすが穂美香。持ってるよー美味しすぎるぅ!」


……ツボにはまった様だ。


「うんうん、そっちは御代は要らないから、もっておいき」

「はぁ、ありがとうございます……」


わたしは苦笑いを隠せず、やるせない顔をしていると思う。うーん…………。

わたしはドツボに嵌っているのだろうか?


「そうそう、その二つはなるべくセットでもっておくと良い。もしも片方が無くなったり、壊れたりしたら、もう一方を大事にね」


「……解りました」


「助言はそれだけじゃ。運命が交わり混じり合った時に……。機会が有ったらまたおいで」

お婆さんは何故かとても嬉しそうにしていた。


「では、またきますねーお婆さん」

明海は言うと、わたしも合わせてお辞儀をする。

そしてわたし達は屋上を後にし、ファーストフード店へと足を運ぶ。



「二つとは。しかも珍しい組み合わせじゃ、どんな運命が待っているのかね、二回目のあの子は。確か、前回は男の子のみ選ばれたんじゃったかのう」



「しっかし、ラッキーだったね」

明海は未だに嬉しそうに猫のしっぽストラップを弄っている。


「う、んまぁ、なんか……釈然としないけど…………ね」

「ホントにあのお婆さんには会えないらしいから、あたし達はついてるってー。しっかも買えたし。ラッキーガールズぅーーー」


明海はテンションが、かなり上がってしまった様で、鼻歌も歌いだした。

先ほどファーストフードで買った小さいサイズのドリンクとポテトをフードコートの一角にあるスペースへと置く。明海はバーガーのセットにしたみたいだ。


「食べ終わったら帰ろっか」

「そうだね。時間も丁度良いかな」


「幸運のお守りとしてはやっぱりバッグに付けようかな」

明海は早速バッグに付けていた。うーん。そうだなぁ……。うん。


「やっぱりバッグかなぁ?」

「無難にね」


わたしもバッグに二つセットで取り付ける。

片方にもう一つを取り付けるということも出切るけど。

一応、両方別々に付けておこうかな。

バッグにはまあじゃんぱいと安産のお守り? を取り付けた。


見た目が、うーん……まぁいいか。


「そういえば穂美香。今、両親出張してるんだよね?」

「うん。そうだよ。もう一週間は経っているから大分慣れてはきたけど」

「ってことは、おにいさんと二人きりなのかー」

「――――まぁ、そうだね」


「どんな感じー。やっぱ新婚さんごっことかしてるの?」

「……ぶっ。ちょっと、どこからそういう妄想が出てくるのよーー兄妹だよ?」


唐突にそんなこと、そんなことを明美はニヤニヤしながらわたしに言う。

新婚さんって、えええええー。


わたしは飲み物を噴出しそうになったのを防げているのかな?

ハンカチを取り出す事すら二の次に新婚さんがわたしの頭を埋めていく。


新婚さんって。えーーーー。

新婚さんかぁ………………。ほむ。


「だからじゃない? そういうドラマや小説も数多く存在するわ」

「むぐ、そ、そういう小説のような関係には現実はそうそうならないわよ」


「……事実は小説より奇なりって言葉も有るからねぇー」

「もぉー。意識しちゃったら明海のせいだからねー」


わたしの脳裏に新婚さんがほわほわーと再度よぎる…………。


「穂美香あなた……自覚なしね」

「えっ? …………なんのこと?」


新婚さんの自覚? わたしはまだまだ新婚さんという言葉に捕らわれている自分を自覚していない?


「だからね、意識なんて言葉が出てくる時点でね。充分意識しているのよー」


「そうなん、だ。えっ……うぁーーーーーー今のなし。違っ、なし。ちっが、今のは、言葉のあやでぇーもーーなんでそうなるの~」


そうか、やっぱりそうなのだろうか。

この現状は自分で意識していると言えるのだろうか。


考えたらドキドキする。


お、おにいちゃんは好きだけど、その好きは、家族として好きなのだと思ってはいたが、異性としても……やっぱり同じなのだろうか?


憧れとかの言葉だけではない感情なのかなぁ……。

似て非なるものでも、ベクトルは限りなく近い方向に向かっているのかもしれない。


うぁーーこれは困った。

意識しちゃったら――これって……。


どうすればいいのー。


わたしは明海の前で頭を抱えていた。


「ふふふふ。効いてる効いてる」

「もうやめてよねー」


でもこれは、丁度良い機会なのかもしれない。



『もう一度自分を見つめてみよう』

……わたしは自分にそう伝えた。

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