96憂鬱な日
その日は何時もと変わらない日だった。
多くの友人が進路に悩む中。
高校はおにいちゃんと同じと、だいぶ前から決めていた。
高校生になって、もう二ヶ月が経ち。
学校、部活動にも慣れてきて、仲の良い友達も出来つつあった。
うん。今はとっても毎日が充実していて楽しい。
わたしはどちらかというと内気な性格なのを自覚している。
でも、周りの人達からは、何故かそんな風には見られていないようだ。
確かに……まぁ、場合によってはだけれど、初対面の相手には、どちらかと言うと自分から声を掛けに行く――――そんなタイプかも。
うーん。
最近ちょっとした事でも考えすぎている気がする。
でもこれはきっとこの前見たテレビの影響かなぁ。
「暖かな教室の席から校庭をガラス越しに見つめる小柄なかわいい天使。その瞳は黒く、パッチリしていて少し大きめな瞳。髪は黒く少し長めのストレート。輪郭は整った小さい卵形の顔。頭はとても良い才女。……運動神経は余りなく、何かに対し行動すると周囲は微笑ましい雰囲気になる可愛らしさを自然と持っている。身長は百五十六センチメートル、学年では一、二を争う程の美少女。それが目の前にいる彼女だった……。ちょっぴり鈍い所のある彼女は……」
「……明海。どうしたの?」
「………………ふふ、詩人でしょー」
……わたしの顔を見ながら朗読? 話しかけてきた人物は一之瀬明海。
同い年の……詩人? 高校に入って最初に仲良くなったのは前の席の明海だった。
元気で活発。
行動力があり運動神経はクラスの女子では一番良い。
お笑いが好きで、結構ライブとかテレビの観覧とかにも積極的に行っているらしい。
愛嬌があり、幼さが残る顔立ちなのに、何処かおねえさんぽい雰囲気をもつ、セミロングの美人で気立ての良いわたしの友達。
「どうしたの、何か校庭に面白いものでもある? そしてお昼ご飯~」
「ちょっと、考え事をしてて、ね」
「そっかー穂美香も恋か~」
「……もう。なんで、そうなるのよ」
「女子高生の悩みの十割は恋。もうそれは猫まっしぐらな運命。恋に始まり恋に終わるの。散るのはちょっぴり悲しいけれど、春になればまた咲くのよ」
「……十割はどうかと思うけどね、そして散るのは確定なの? でも恋愛感なんてそんなものなのかなぁ…………」
明海は恋にとっても積極的みたいだ。
わたしはまだ積極的にはなれないなぁ……。
かといって受身になるのも何か、違う気がするし。
うーん、そういうのじゃ無いとは思うけど……。
入学してからも結構な数の男子から誘いを受けた様な気はする。
今度カラオケ行こうよ、とか、二人で映画に行かないか? とか、うちのバイト先、絶対楽しいから一緒に働かない?
……とかもあった様な。
何か忘れちゃったけど、今思えば変なのも一杯有った気がするなぁ……。
やっぱり、なんかピンと来るものがなく、それは何かの冗談にしか思えず。
結果、全ての誘いから踏み出せないでいた。
うーん、わたしは…………。
「ということでおねえさんに相談してごらんなさい。もぐもぐ」
「……誰がおねえさんよ、同い年でしょ。ぱくぱく」
今日はサトイモが美味しく出来てた。卵焼きは……まぁまぁかな。
今日の晩御飯は~昨日の残りが確か……。
「明海と居ると絶対にこっちが突っ込みっぽいキャラになるからなぁ……」
「お、サトイモおいしそうだね。ひょいっと。……うんうん穂美香は良い仕事してるよ~」
サトイモさんを持っていかれた。
ではウインナーくんを狙おう。
「ボケに廻りたいの? 穂美香はキャラじゃない気がするんだけど、本物だからなぁ~、阻止」
明美はお弁当箱を少しだけずらす。
手に持ったわたしのお箸は空を切る。そして更にバランスを崩したわたしはもう片方の手に持っていたお弁当箱を落としそうになり、勢いで机に肘をぶつけた。
「いたた……いや、ボケとか突っ込みとかじゃなくてね。もう、なんて言えば明海に伝わるのかなぁー」
「おっと、穂美香大丈夫だった? 良い音だったけど」
「うん。お弁当は大丈夫」
「あー、そ、そう。良かった……」
「ごちそうさまでした。あ、穂美香。今日帰りに駅前ぐるっと付き合ってよ」
「ごちそうさまでした。んと、今日は部活無い日だから終わってからすぐでも大丈夫だよ」
「明海、何か買い物?」
「ちょっと小物をね。…………駅前にあるデパート屋上の小さい遊園地に、約一ヶ月に一日だけ店を出す露天があってね」
明美は周囲を見てから少し声のトーンを下げて囁くように話した。
「あぁ、あの屋上ね。結構前に何度か行ったことあったなぁ……」
わたしは記憶を辿った。
……確か、小学生の頃、デパートでの買い物のついでに連れてって貰って、子供向けの乗り物とか、ちょっとした露店や軽食が食べれるお店があった様な。多分……子供の頃よく行っていたのかしら。
あ、でも記憶の殆どがアイスクリームの上だけ落として泣いていたわたしにおにいちゃんが自分のアイスをくれた記憶しか残ってないや……。
「そこのお婆さんは相手の顔を見て商品を選ぶらしく、お客から品物を売ってくれって言っても、どうしても売ってくれないらしいよ。なんか変わってて面白くない?」
「お守りか何かなの? ミサンガとかの?」
「私も詳しくは知らないんだけど、何も売ってくれない場合もあるらしいから、買えた人は何か……あるんだろうね」
「ふーん」
「お婆さん居たらラッキーだし、買えたらラッキー。どちらも駄目だったら、遊園地の露天にあるアイスでも食べれば良いし」
「デパート、他に何か有ったかなぁ……ついでに買うものは~あ! 今日新刊発売日だー。確かわたし受け持ちの」
『いせちゃー』楽しみだなぁー。
次は確か六巻だった筈。去年の十二月頃読んだから、半年振りかな? 楽しみだなぁ~。
「受け持ちってなーに?」
明美はわたしの顔を覗き込みながら訊いてきた。
「え? あ、いや、……おにいちゃんと読むものが被っていて、分担しようって話で、そ、それにね。同じもの買っちゃったらお小遣い勿体無いし、お得なんだよー」
「えーと、お兄さんうちの三年生だよね、まだ会ってないなぁ。穂美香のおにいさんなら結構カッコ良いんじゃないかな?」
明美は少しニヤッとしながら、そんな事を話す。
「そ、そんなコト…………」
え、え? あれ? なんだろ、考えが纏まらない?
「うーん。なんかあやしーの。それに、私のキャットテイルが斜めに煌くのよ」
猫の……しっぽ? 猫のしっぽ、猫の尻尾。
おにいちゃんとしっぽ。
は、え? ふさふさでもふもふな……ドキドキ。
「あ、わ、怪しくないよー。何にもにょもにょ……。普通だよぉー」
「――――などと供述しているけど。……まぁいいわって、ちょっと穂美香。動揺しすぎじゃないの?」
「………………はぁー」
「穂美香、落ち着いた?」
「うん」
「でも良いなー。私にはお兄さんいないから、正直羨ましいな~」
「確か、猫好きのおねえさんがいるんだよね?」
猫。可愛いよねェ~。
家でもまた飼えないかな~。
昔家にも半年位居たんだけどなぁ……可愛かったなー。
おとうさんが猫の毛アレルギーって言ってたから、家ではやっぱ無理かなぁ…………。
家の家族みんな猫は好きなんだけどね。
この前おにいちゃんも外でノラ猫さんにごはんあげてたし……。
近づいたら逃げられてたけど。
「うん。もう家出ちゃったんだけど。…………ちょっとね」
「去年のうちの卒業生だっけ?」
「そう。将来はト○ネコの嫁になるんだって、うちのお店三年間お手伝いして、卒業と同時に一人暮らししてた」
一人暮らしかぁ……大人だなぁ。
来年おにいちゃんも出て行っちゃうのかな…………。
うーん。わたしもアルバイトとか、少し、考えてみようかなぁ……。
「お店って確か、スーパーだったよね。んん? ト○ネコって猫だっけ?」
「……今はちょっと色々あって大変なんだけど、あの姉だから全然心配はしてないんだ」
…………何か、有ったのかな? なんか気になるけど、今度にしておこう。
「……そっかぁ」
「あ、そろそろお昼終わりだね。次で今日も授業は終わりっ。早く買い物に出かけたいよー」
明美はもうお出かけモードみたい。わたしも今日は部活無いし、本屋さんにも寄らなきゃ。楽しみだな~。
わたしも徐々にお出かけモードに入っていきそうになる所で次の授業の事を思い出した。
「次は確か産休に入った平井先生の代わりで別の先生来るらしいよね」
「うん、聞いてる。次は現国だから湯葉先生くるんじゃない? さっき男子が騒いでたよ」
「湯葉先生かぁ、とっても人気あるよね」
「特に男子からはね。あ、そういえばうちの姉も良く相談に乗ってもらったって言ってたよ」
「ふーん…………あ、なんか暖かくなってきたね」
窓の外から教室にはふわっと心地良い風が入り私の頬をくすぐる。
「午後は結構気温上がるんじゃ無いかな。天気も良いし、うん。出かけるには丁度良いね」
と明美が話した所で今日の朝見たテレビの週間天気予報がよぎり明美に話す。
「確か、来週は何日か雨、降るらしいよ」
「そっかぁ。もう梅雨の季節だねー」
今日の最後の授業は現国。
小テストだった。そういえばあの漢字書けなかったな……。
特徴有るんだけどな。




