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95こうしてこうなった

「とりあえず、どうしよもないよね」

「そう、だな……」




俺はあの時に何が起こったのか、記憶を思い出していた……。



「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー」



眼が覚めたのは濁声の悲鳴が聞こえたからだろうか……。

う、ん。フラフラする意識の中、俺は頭を片手で押さえ、周囲を見回した。


なんか凄い声が聞こえた気がする。


怪獣? 『GYaaaaaaaaaaaaa』みたいな感じだったような……。


床を見るとなんか液体が一面に広がっている。

ん? 何だこれ。見ると手も体も結構びっちょびっちょだ。




いまいち状況が理解できない。

というか、頭が正常でない。


俺自身が異常終了した? なんだそれ?


頭痛に眩暈が酷い。視界がぼやける。

体が重い。なんかへんな感じだ。




どれぐらい時間が経ったのだろうか、まだぼーっとしてはいたが、徐々に、徐々に――――周囲の状況に眼が行くまでゆっくりと回復していった。


「あ、れ? なんかおかしいぞ? 手、小さ、ん? 声?」


頭が回っていないのかぼーっとしているのか、よく解らない。

そんな状況を眼にしながらも、モザイクの掛かったテレビを見るように何故か見つめていた。


「俺がいて俺ガイル? ん? 鏡?」


良く分からない状況だけど、目の前に男がいる。


鏡が有る訳ではなく、その男性はトランクス一枚でこっちをみている。


なにそれこわい。


特徴は、痩せ型、ガリガリと言うほどでもなく、なんか濡れている。

挙動がおかしい変な奴はまだこっちを見ている。


目は虚ろ。

顔は普通、引き締まった肉体をしているわけでもなく――――。


あれ? そいつは俺だった……。


「ん、どおいうこ、んぁ?」


さっきから生暖かい何かに濡れている手が気になった俺はまた手をみてその先に足が映り、お腹を見て……は? 女子の…………制服?


「あれ? なんだこれ? 俺、だれ? 胸があ……ない」


誰かに呟いたわけでもなく、言葉を口にしていた。

そして目の前の俺? の目がつむり、次に眼を開くとその俺が喋りだした。


「あなただれなの?」


…………その言葉に対し俺は理解に苦しんだ。

俺に向かって俺が誰かとか俺に言われても答える言葉は無い。


とんちか何かか?


いっそのこと答えてやろうか? 生い立ちから、今に至るまでを。


恐らくは時間が幾ら有っても…………。

いや、三十秒で語れてしまう俺クッキングをおっちゃん泣きながら話してやろか?


「おまえこそだれだ」


俺の言葉は声に出るが、俺の口から出た言葉はとてもか細い声だった。

声は出たが声を出すという行為がさらにワンクッション何かの手間をはさんだ様な感覚。


そこでやっと自分を視ないことにはという思考にいきつき、フラフラとトイレに向かう――――と、のっそりとした動きで正面の俺も付いて来た。

こっちくんな俺。トイレは目の前なのでドアを開け、鏡に向かう。――そして瞬間。


――――理解するのだった。


そ、そういうことか。心は俺。外観は妹。なにこの凶悪なコンボ。


妹には悪いがこれはこれで有りだ。面白い。

しかも容姿はとても可愛いしな。見ていて飽きない。


これからは事あるごとに鏡を見よう。今日からナルシストになりそうだ。

まさか自分(妹)を愛でることが出来るなんて……。


…………すまない妹よ、俺は変態だった様だ。

く、くふふふひひひひ……うん。認めよう、認めざるを得ない。


これは性だから仕方の無いことなのだ。

ここぞとばかりに俺の頭の中で煩悩三賢者が作業している。


俺の性癖に引っかかる事案だった様だ。まぁ、煩悩さんは放っておくか。


そして両手を握り感謝の言葉を紡ぐ。

あぁ、神様。



今日の日をありがとう。



親父、かーちゃん、世間様。

そして、みんな…………なんかごめん。


――――私、女になりすます!


言葉から「す」の字が一つ多い気もするがこれが正解なのかもしれない……まぁ冗談はこれぐらいにしておこう。


軽い冗談なんだからねっ! よし、ツンデレで行こう!


隣にいる俺の方(外観)はまだ信じられない物を見るように、鏡を見、手を頬にあて、頬っぺたを抓ったり頭を叩いたりポーズを取ったり……なんかしていた。


「そのへんで止めておけ、ちょっとついて来い」


声はなんとか出るようだ。

俺はそう言うとキッチンに行き、冷蔵庫からココアのパックを取り出しコップを二個それに注ぐ。


うーん。上手く注げない。

リビングに行きテーブルの上にココアを置きソファーに体を預ける。


そして、待つ。数分も経たないうちに、俺が現れ向かいにあるソファーに座った。

そして意を決して聞いてみた。


「……確認をしよう。お前、穂美香か?」


ちょっと怖かったが、思い切って聞いてみた。

震えている相手は頷くと共に泣き出した。


「おにいちゃん、だよ、ね?」


なんてことだ。

俺が泣いている……。


客観的に見るとやっぱりシュールだな。

俺も天を仰ぎ、嘆きたい気分だ。


自分の泣き顔を自分が冷静に見る。

肉眼で見る俺は全身も含めてこんな感じなんだ……。


もう自分、人前で泣けない。


誰かが慌てていると、以外に他の人は冷静になれる事も多い。

穂美香は突発的な現象には特に弱く、俺以上にうろたえる事も昔から良くあった気がする。


突然の地震や雷とかが良い例だ。

お化け屋敷とかは、身構えることが出来るので大丈夫らしいが。


「そう泣くなって、よくあるだろ、漫画や映画、小説、テレビ。多分、俺達が思っている以上に起こり得る現象なんだよ」


現状をありのまま言うと、自分自身の言葉に、俺も少し戸惑っていた。


「そうは言っても、おにいちゃん。これどうすれば……良いの?」

「……そうだな、まずは状況を整理しようか。っと、その前に穂美香。着替えて来い――――というか俺も行く」


まだ少し体はふら付いているが、二階に上がり、部屋に行く。

俺は少し濡れてしまっていたブレザーを脱ぎ、衣文掛けにかけると、穂美香を呼びパンツを渡すのを――止めて、俺がやることにした。


……俺のパンツを俺が脱がす。

うーん、この状況。


っないわーーーー。


流石に泣けるな。


目の前に佇む『インテリジェンスソードテンーボウザーン』にちょっと悪戯心が芽生えたが、すぐ冷静になり、トランクスを履かせる。

裏では三賢者が忙しそうだ。


合成のことも思い出し気になってはいたが、とても残念だけど後にしよう。

画面を見るとスクリーンセーバーが作動してしまったようだ。


ということは、設定してある時間十五分は優に過ぎ去っていることが解る。

そして、スウェットの上下を渡し、着て貰う。


自分自身を介護しているみたいだな。

時間が経てば日常生活的な動作は大丈夫だろうか…………。


「よし、やっぱ下に行くか」

「……うん」


気をつけながら階段を降り、リビングの席に座る。

少しは穂美香も落ち着いてきた様だ。


ココアに手を付け、一口、二口と確かめるように飲んでいた。


「さて、再開するか――――」

「まずはやはり、現状把握にすり合わせか」


とりあえず、俺は部屋を出て、トイレに向かう途中だったことを穂美香に告げた。


うん? そうだ、何も間違ってはいない。

問題ない。


俺があの時、どんな思考をしていたかなんてことは、この際というか、この際でなくともどうでも良いことなんだからねっ。


穂美香は語りだした。

自分が学校から帰ってきて、二階に上がり、自分の部屋に行こうとして階段を上がっていたことを……。

今日は学校の部活動が無かったので。

少し駅前で友達と寄り道していた事などを話してくれた。


そして今か……


今、この家には俺と穂美香の二人だけ。両親は先週から約三ヶ月の間海外へ。

親父の出張の付き添いでかーちゃんも一緒に出かけている状況。


……ある意味幸いなのだろうな。

時間的猶予のある今で――――――。


「とりあえず、どうしょうもないよね」

「そう、だな……」


「……穂美香。とりあえず、明日から数日間学校を休もう」

「うん。わかった……」


それから俺達は、これからどうするかの確認をすることにした。

まずは日常生活について、とりあえず俺は学校を含めた、友人達の情報を、ある程度伝えた。


細かくは明日にしよう。

頭の良い妹だから、恐らくなんとかするはずだ。むしろ問題は俺の方かもしれないな。


最低限の日常や、友人関係の情報は交換した。


……すり合わせを忘れた事柄については、今忘れているんだから、その時が来たら状況に応じて対応する。

ということも話し合った。


「『ぐぅー』…………お腹空いたね」


穂美香は腹が減ったのか、お腹をさすっている。


「今日は昨日の残り物で良いか。なんか疲れたし……」

「そうだね」


昨日の残り物を二人で用意し、とりあえず食べることにした。


ふむー。やっぱりそんなに食べれない身体なんだな。

もうお腹が一杯になってきた。


穂美香も何かを確認するかの様に、黙々とご飯を食べ、一通り食べるとお箸を置いた。

普段俺が食う量よりは少ない気がするが、この状況では仕方ないだろう。


代わりに俺が無理してご飯を食べだしたら、穂美香は怒るだろうか……?


「大丈夫そうか? 穂美香」

「うん。なんとかなりそう」


「テレビでも点けるか……」


ここ数年、テレビを見る事が段々減ってきた。

まぁ、ネットの仕業だろうな。あきらかに依存症だろう。


それは自分でも自覚していることでもあるし、テレビよりネットゲームや、各種動画サイト、ブログなど、アニメ、ライトノベルや、小説の方が魅力的だった。


しかしこれらを消費することは時間が幾ら有っても足りないくらいだった。


将来? 人生? ……なにそれおいしいの?

今食べているんだけどさ……。


んん? そうか俺は今、妹なのか、歌って見たとか踊ってみたとか、ちょっとやってみたかったんだよなー。


コスプレも出来るな。

ネットゲームで女性キャラを操作してもネカマですらないのか。


あれ? 当面このままでいたい俺がいる。

なんか突然道が開けた感覚だ、未知だけに。


テレビはお笑いの番組が放送していた。あんまりにテレビを見ないと、流石に知らない芸人の人達が何組か出ている。


俺はテレビを見ながら思考に沈んだ――――。

まだまだ学生生活は長い。しかし学生でいられる時間はだいたい決まっている。


そんなに勉強が好きな訳では無く大学に行くのもうーんって感じだ。

特に将来やりたい事も無く、やれることも少ない。お金にはそこまで興味はない。


とりあえずの生きる糧が有れば、それで良い。


――――勿論、好きな人はいる。幼馴染(大魔王)もここの所、気になりだしてきた。


商店街角のタバコ屋の看板娘都ちゃんや、アイドルのルカニーとかも可愛いよな、クラスにも数人、気になる子はいる。

…………あぁ、小5(ロリ)は忘れてくれ。


あれは本気だったんだ。すまない。反省はするが、自重はしない。

振り返るのは幼女に声を掛けられた時だけと決めている。


……むぅ、最近テレビ見ていなかったせいか、興味が持てない、頭に入ってこない。


まぁ、考えを整理するのには丁度良いBGMかもしれない。


しっかし、この状況どうしたものか――――――ハッ!? そうだ。百合もイケるな。


…………穂美香はどうだろう。

気になり、ちらっと横目で観察してみるが、明らかに何か考えている様子だ。


まぁ、それはそうだろう、俺の妹ながら、聡明で、とても思いやりがあり、頭も成績も良い。

そして何より可愛い。


まぁ…………少し鈍い所は有るものの、それはギャップにもなりうる魅力だ。

だが今、目の前に居るのは俺の姿をした穂美香だ。


俺は特に容姿が良いわけでもなく取り柄も無い。昔飼っていた家の猫に、おいでーと声を掛けても毎回威嚇され逃げられる。


…………そんな俺だ。

…………しかし時間は有限だ。

限られた時間内に自分を納得させ、前に進むしかない。あとは心の問題だろう。

気持ちの整理が上手く付くと良いが……。


「おにいちゃん」

「なんだ、穂美香。あぁ、名前も逆にするか? それともあだ名かなんかつけて呼び合うか?」


「うん。そうだね……名前は、逆にしようかぁ……」

「おう、じゃあこれから逆に、いや、明日からにするか、俺からは朋くんって呼ぶことにするよ」


「わかった」

「それとね、おにいちゃん……」

「ん、なんだ?」



「――――駆け落ちでもしようか?」



「……それも良いかもしれないな」


――――って駆け落ちかよ、というかニュアンスも何かおかしいだろ、それは禁じられた恋をした二人が行う逃避行だろうに……。


あ、兄妹なら一応成立するのか? これ…………。


まぁそれは良いとしても、流石にそんな勇気はまだ持てない。

俺たちは学生だ、生活していく金も無い。


最後には入水して終わる映画かドラマのシーンしか思い浮かばない。

うーんどうするか……。


穂美香は決めたら行動は俺よりも早いからな。気をつけなくては俺の今の願望が……。


おっとイケナイ。


「ごめんなさい、今のなし。まだ混乱してるみたい」


「あぁ、分かってる。大丈夫だ穂美香。まだ時間はある、言っておくが一人で勝手に行動は起こすなよ、こうなったら、元に戻るまでは一蓮托生だ」


そう、ふははは。時間はあるのだーーーー。


残念だったな穂美香。俺は今の願望を叶える事で必死だ。

お前も俺を楽しんでくれ。


うん? 穂美香が俺を楽しむ……だと。

はっ、なんてことだ。不自由が気持ちいい。


妹が俺の体を動かしている。操縦している。操っているのか。

可能性は無限大だ。すまない穂美香。鬼いちゃんはまた階段を一歩上がったようだ。


次のステージはよウエルカム。


「……うん」


「俺がお前で、お前は俺だ。原因は俺かもしれないが、責任は取る。悪いがお前も、俺の体の責任は取って行動してくれ。絶対、大丈夫だ! 自分を強く持て穂美香」

「絶対……大丈夫。うん。頼りにしてる。おにいちゃん……」


よし、言質は取った。頼られよう。もう良い時間だ。そう……風呂だ、どおすっかなー。


俺は少しにやけた顔になっているだろう。

仕方ないね、だって心は男の子だもん。


ぶひーっ。

あーココアを飲んだからなんかトイレにも行きたくなってきたなぁー。

ふひひ。本当は頼られてて、仕方ないんだからねっ。




………………俺の心の声は終始ゲスい声だった。


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