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94時代のしもべ

バイパー失林帯。



そこはかつて海岸に近いエトナ密林帯に、ネームドの海王級クラーケンが上陸し、一週間掛けて荒らし去った広大な密林帯の一部。


地面をひっくり返したかの様に森林は荒れ果て、元々生息していたモンスター達も少なくなりだした頃。

リザードマン達がこれよとばかりに進行し浸食し我が領土とした。


元々リザードマン達はエトナ密林帯の隣にある小さい荒野の森を棲家としていた。

バイパー失林帯は荒野の森から三キロ先の飛び地。


そこをリザードマン達はエトナ密林帯の一部を伐採、開拓し繋げた。

恐らく上空から見ればひょうたんの様な形をした土地だろうか。


リザードマン達の所有する保護地が増えた影響により、リザードマンの大多数は進化を獲得し今も繁殖と繁栄を続けている。


エトナ密林帯の中でも手薄な箇所からバイパー失林帯へと進入していった。


「ふぅ……」


狩りはソロにしては中々に順調に進んでいた。

かれこれ四十分ぐらいこの状況を維持している。


数にするとリザードマンを四十体。Sリザードマンを五体ぐらい倒しただろうか、凶悪なSGリザードマンも一体倒した。


今日は結構レアのドロップ数は多かった。

これはワンチャン有るかな? とか、期待しつつも獲物を無事仕留める。


そして、その時は何の前触れも無く突然に訪れた。


もうそろそろ良い時間だから、そろそろ切り上げるかなと、思った矢先に真っ二つにしたSリザードマンから、きらきらと光るドロップアイテム。


『時代のしもべ』をゲットした。





「うぉーーーーーーーー」





俺は嬉しさの余りリアルで叫んだ。


合成アイテムである『時代のしもべ』はレア度五ということもあり、まったく出ない。


クローズドβ中でも手に入ったという報告が上がったのはたったの三件、実際の所ではもう少しドロップしたのかもしれないが、レア中のレアである事には間違いない。


俺もここの狩り場だけで、リザード系を軽く二万体は倒しているかもしれない。

もう都市伝説かと思い始めだした頃から数日は経過している。


「マジか! 俺、ついにやっちまった……。よし説明でも見るか」


『時代のしもべ』 レア度五 合成アイテム。片割れ。過去に遡ることができる。

又は時間を三秒止めることが出来る。複数回使用可。条件下以外では発動しない。

使用する場合には何らかの工夫が必要だろう。


こういう効果も有るのか。

上手く合成や使用すれば無敵になれるのかな?


「まぁ、まだそんな装備品は実装されても無いだろうしなぁ……」


町にすぐさま戻り考えを走らせる。


あとは合成だけか。


胸が熱くなる。

緊張するね。


合成後の『シャインレザークロスアーマー改』五段階UPのS(レア度五)は未だ誰も持っていないはずだ。


とても高い防御力に俊敏性を兼ね揃えた防具。


しかも合成成功時の数パーセントの確率でかなりレアな武器が付いてくるらしい。

正式開始後三ヶ月程で手に入れるのには物凄い巡り合わせ、幸運が必要だ。


この装備、恐らく数年経過しても鯖で所持している人は数人。


やっぱNPC(宮廷合成凄腕店長)に頼むか?


このレアLVまでの装備ならまだ成功率五割はいけるはず……。

まぁ値段は結構するだろうけど、失敗、ロストには代えられない。


一%でも成功確立は上げたい。


俺の腕ならこれが有ればLV六十付近まではもう他の装備類が何も無くても楽に戦えるだろう。

改になれっ!


どの道、合成はギャンブルだ。

仮に失敗しても、ロストしない場合もあるし、その他消耗品だけ失うって事もあるし。


まぁ、逆もまたしかり。

運を飛躍的に上げるアイテムとかねーのかな……。


でも今日の俺はツキもある。

思い込みは大事だ。失敗してもその時はその時考えるか。


「……よし! 行くか」


俺はかなり気分が高揚していた。

練成合成屋ミリヴァーナの中へ入りNPCと会話をする。


必要アイテムと十七万C(クアレット)、その他の合成液等を枠内に入れ操作する。


あとは開始ボタンを押下するだけだ。


残り残金は八万クアレットか……。

切りも良いし、確率を少しでも上げたい。


ここは大盤振る舞いで、合成成功確立UPお守り(高級アンザン)も最大セット数の三個購入し、それもセットする。


これなら計算上でも六割はいけるはず。

勝機は我に有り!


運命のキックオフは今煌びやかに幕を開ける。




「やべー緊張してきた」

「ふぅー」




ドキドキする。




おちつけ俺。落ち着く為には何をするのが効果的だったっけ?

そうだ落ちが付く物語。


漫才か、しかし今はそれどころではない。




俺は気分の高揚を抑えきれないでいた――――。



現時点で誰も持っていない物を手に入れるチャンス。

ネットゲームにおいても、それは何にも代え難い瞬間だ。


手に入れるのが難しければ難しいほどに、甘く。

俺を虜にする。


こういう瞬間が人生であと何回体験出来るだろうか。


そう、手に入れる前、瞬間が一番大事だ。

手を伸ばせば――――届く……かもしれない。




この曖昧で甘美な時間。




この時間を俺は少しでも長く感じていたい。



味わいたい――――。



ふむ…………緊張する。


とりあえずトイレ行っとくか?

いや、開始ボタンを押し画面を視ずにトイレに行くか?


それともそのまま漏らすか?

いっそ開始ボタンを押して、隣の幼馴染の妹(小5ロリ)に告白しにいくか……?


「こっ……これだ! この境地っ……間違いない。あぁ、俺は今…………世界の中心。俺は無限の選択肢の中に居るっ!」


手に入った後の事を考えると気分は昂り落ちつき無くマタタビを貪る猫のように荒ぶっていた。


「いかん、緊張の余り、動機、息切れがする。鼓動も言動も少しおかしくなってきた。チキン過ぎるな俺、これが終わったら、鶏モモ肉でも買いに行こう」

「ひっひっふー」


どうする? どうする俺。

ハァハァ、自分を見失いそうだ。


我慢はいけない。

今すぐ決めろすぐ決めろ。


漏らすか? 告るか? この際とりあえず全裸待機だ! いや、それは不味いか。


…………よし、パン一単騎の地獄待ちだ。イーピンは何処だっ!





「………………あーそういえば俺氏。優柔不断だった。…………決められない」


「ひっひっふーひひっひっふー」


一定のリズムで何かが生まれる時に効くらしい呼吸法を行う。

耐えろ俺。ここが勝負所だ! 気持ちいいくらいに下っ腹が痛い。


緊張からか、脂汗やら、ひっひっふーやら色んな物が滲み出ている気がする。

もちつけ、もうあわてる時間だ。


相手陣地に突撃だ!


「ほっほっひーっひほっほっふーひひっひっほーっふっふっファー」

「…………」


ペットボトルが視界に入るが気にしない。

回りに流されるな、おーけぃ。


神は言った。全てを受け入れろと。


も、もう許されるよね。


俺頑張りすぎだろ、サポーターさんもうゴールして良いね?


「ふぅー…………」


「腹は括った。ボタンを押すぞ! そして開放されるんだ。リリースだ。今この時の為の全てだ!」


はぁはぁ、はぁはぁ、…………よし。

いちにのさんで行くぞ、まずボタンを押下、扉を開けて階段を下りる。




お守りの麻雀牌(イーピン)を握るのは忘れるな。

階段を降りトイレを通り過ぎ、玄関へ急げ。


そして隣の家にピンポンだ! ん? 何か違うがまぁいい。



グレイトだ! 完璧だ――――。



「…………いかん、告白の言葉を考えてなかった……」


だがもうそんな余裕は無い、時計はもうロスタイムに突入している。



出たとこ勝負だ押し倒せ。

よし、俺は押す。押し倒す。運命のボタンを押すぞ、最終告知だ!



「ひっひっふふふーぅ」



『ひひーふ』(リリースボタン押下)気の入らない掛け声のもと、今生の力でボタンを押すと共に、合成が開始される。



 『システムメッセージ』作成に三十秒掛かります。



「審判は時計を見ている。サイは投げられた。走れ、ダッシュだ、誰よりも早く! 旋風になれ! 吹雪になれ! 改になれ!」



部屋の扉を急いで空け、二階の階段に踊り出る。

ダッシュで降りる、降りる――をイメージしていたはずが、一段目で体が何かに衝突する。



そして、そのまま階段を踏み外し廻る――――。

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