93どうしてこうなった?
「どうしてこうなった?」
朝、俺は睡眠から目覚めつつあった。
部屋には制服姿の男性らしき人物が見える。
何を思ってか、必死になって、タンスの中の下着を物色している。
……男性の特徴は痩せ型、背丈は結構高そうだが、正座している為か曖昧。
顔はこちらからは見えないが……。
「あれー見当たらない」
まだ寝起きで焦点すら合っていない眼には、そんな光景が視える。
あれ、視点が可笑しい?
――――いや、これが今の現実なのだと、徐々に覚醒していく記憶と共に思考のピントを合わせていく。
「あっ、ここにあった。……これと、上はーこっちね」
などと部屋で物色している男が目の前にいる。
………………なんとも嫌な光景だ。
寝起きの気分は最悪だった。
「はぁー。……昨日は散々だった。今日も、ハードだな……」
「あ、起きた? おにいーじゃなくって、穂美香」
「あぁ、一応、起きたよ、ちょっとまだ眠いから、よろしく。朋くん」
事のあらましは、三日前に遡る。
学校から家に帰り、部屋の定位置ともいえる椅子に座ってくつろぎ、最近嵌りだしたココアを飲みつつ趣味であるネットゲームを勤しんでいた。
携帯電話でのゲームが主流になる中。
パソコンでのスペックを必要とし、和製MMORPGとしては難度が高く、数年来で最高の出来と巷で称される【トミエクマ】。
先行先取りのレビューや操作、キャラ紹介。
玄人好みの設定に宣伝のポップも多く、このゲームに開発費を含む予算も結構掛けているらしい事が見るからに窺えた。
そして、俺がこの話題性あるゲームに嵌るのにはさして時間は必要としなかった。
――――とは言ってもまぁ、稀によくある話でもあった。
…………実際、話題性が高くても始まってみればとても残念な結果になるMMORPGが多数存在していたのも事実。
しかし、このゲームに関して言えば、少なくとも俺の期待はまったく裏切られなかった。
そして俺が作成したキャラクター名は『ラオーア』。
昔好きだったサッカー選手の名前をリスペクトし、少し変えて文字った名前だ。
「面白いけど結構エグイんだよなーデスペナが……」
それは少しでもリアリティーを追求した結果なのか。
ゲームでは何十時間掛けLVを上げようが、助からない程の傷を受けると、キャラクターそのものが死を迎える――――。
運よく、九死に一生を得、致命傷から助かったとしても、ステータスが永久的に失われることもあるらしいリアル志向。
だが逆に言えばこのシステムこそが俺を引き付けた。
白文字で表示された数字が赤文字に変化し、LVダウンしたかの様に数字が下がる。
それ以降LVが上がろうともダウンしたステータスは帰っては来ない。
噂では今のトップランカーの一人が致命傷を負い、筋力が半分下がったというのが最近の話では新しい。
一応、低LV帯の保護は有り、LVが十以下ならデスペナ無しの恩恵は確かに存在するが。
「恐らく筋肉さんは帰ってこないのだろうな……」
「うしっ!」
気合を入れなおし、次の狩りに向け精神を整える。
現在『ラオーア』のLVは三十二。
トップ集団の次、第二集団辺りに位置されるLV帯だ。
この【トミエクマ】は春先の三月十八日に開始された。
約四ヶ月間、一月の末までクローズドβの名による試験的テストプレイは行われ。
ついにサービス開始。
接続人数が多かったのか、ログイン出来ない状況やら、ログイン制限が一週間程有ったが、運営サイドの努力のおかげかなんとか安定し今に至る――――。
「三月の『ログインオンライン』祭り楽しかったなぁ……」
ログインオンライン――――。
それは人が集まりすぎた為か、サーバーが安定せず。
ログインボタンを押下しても中々ログイン出来ず、待たされた挙げ句に最終的には画面がフリーズしてしまう状況の事で、中には運よくログインオンラインを制し、タイトル画面からログインする猛者も一部には居たらしいが、俺は結局一回もお祭り中にログインは出来なかった。
タイトル画面の絵には中世の建物。
城の様な物と、空にはオーロラ、海が見え、森林が視え。砂漠、ダンジョンの入口。
何故かあらゆる物がタイトル画面には描かれ、それは意味も無く、重くしている原因なのではないかと思わせるような、タイトル画面を無駄に見つめるだけの『簡単な無理ゲー』に嵌る人が続出し、我先にとログインに成功すると掲示板に書き込み愉悦に浸る。
でも中々イン出来ないという状態で起動失敗を繰り返す。
言わばドえむ達のお祭り状態となった――――――。
「今日はプレイ出来る時間も少ないし、どうするか……」
通常であれば、パーティーを組み安全マージンを取り、無難に経験値を稼ぎつつレアドロップを狙う。
まぁ、ネットゲーム最近の主流になりつつある方法。
しかし、タイミングが悪いのか、今日も町でLVに適したパーティーの募集を探していたのだが、中々見つからない。
「仕方ない、自分で募集するか」
人通りの多い町の中。
まずゲーム上のキャラクターに看板のアイテムを装備させて、その看板内に募集事項を書き込んだ。
『ゴーレム狩りしませんか? 1h@5』
一時間の狩り、最大で後五名募集しています。という意味の看板を掲げた。
最大では六×八の四十八人のパーティーを組めるらしいトミエクマでも、通常の狩りの場合なら一つのパーティーで十分だ。
というか、野良パーティならこんなもんだし、まだそこまでの大規模戦闘を行った、という話はまだ耳にしていない。
ぽこん。という音と共に『一対一』の個人チャットが来る。
「おはろーにゃ」
「おはー猫りー」
と、言いつつパーティーに誘うのボタンをクリックした。
…………数秒後、パソコン画面の左上に緑色のHPゲージと彼女のステータスが表示される。
彼女のキャラ名は『猫リーア』。
ちょっとしたイベントで知り合った数少ないゲーム内での友人だ。
裁縫スキルが高い商人で支援系キャラ。
俺は愛称も込めて『猫りー』と呼んでいる。
キャラクターのアバターは猫耳に、しっぽ。
手には肉玉が見える。猫のコスプレ装備は可愛いので結構人気が有りレアだ。
しかも猫リーが装備している衣装は他の猫コス装備とは違い、グレードがアップしている。
あれ……しかも三段階UPのHGG(レア度三)じゃねーかよ。
何故かどの時間帯にログインしても、大概いる気がするのは、俺の気のせいでは無いようだな……。
「猫りーまたグレード上げたん?」
「あ、わかった? グレードを上げると猫コスは毛並みが良くなり、とっても輝くのさ」
一体幾ら、いや何時間掛けたんだろう、この猫娘。
まだ正式スタートしてから、三ヶ月経ってないはずなんだが……。
「ネトゲ○猫め……」
「むぅー。ラオーアこそまたLV上げたでしょ? 固定パーティー組まないでいるのにねー」
「むぅ。良く観察しているな……傷つくぞ」
パーティ推奨のこのゲーム。
決して一人が好き。と、いうわけでは無いが、どうしても固定でパーティーを組むのには少なからず抵抗が有った。
効率重視ならパーティは必須なのだが。
まぁ進路を決められないのとかと同じで優柔不断なんだろうな。
ボッチではない。
もう一度、ボッチではないのだよ。
そこの所は俺の精神の安寧に関わる大事な事象である。
決してボッチなんかじゃないんだからねっ!
「この世界でリーアの知らない事はあんまりないのだよ」
「そこは言い切れよ!」
……こいつもしかしてGMなのか?
昔、他のゲームで会った雑誌の編集らしき人の事を思い出した。
当時とても恥ずかしがり屋だった俺にしては珍しく、自らパーティを募集し、ボスを討伐しに行ったんだが、一ヶ月後に俺のキャラクターはスクリーンショットされ雑誌に載っていた。
ネットゲームには色々な目的をもつ人達も存在する。
まぁ、自分は編集ですとかそうそう言わないのだろうけどな。
「この世界もバージョンアップする度に変わっていくからね、全ての知識は手に入らないよ」
「そりゃ、そーだ」
「ダヨ~」
それから暫くバージョンアップの話だとか、近い将来的には携帯端末で楽しめるようになりVRMMOまで対応されるなどの世間話をしていたが、一向にこのパーティに参加するものは現れない。
俺のボッチオーラはまだ猫りーと一緒にいる為、滲み出ていないはずだ。生暖かくスルーしてくれ。
『ゴーレム狩りしませんか? 1h@4』
「おっと、そういえばこの前欲しがってた『漆黒灰色オオカミのタテガミ』手に入ったよ~」
「おおっ、流石猫りー。おいくらまんえん~?」
漆黒灰色オオカミのタテガミは、装備品『レザークロスアーマー』(レア度二)から飛躍的にグレードアップさせる為に必要なアイテムの一つである。
これさえ手に入れれば後は、リサード系からのドロップ。『時代のしもべ』だけだ。
「そだねぇー。仕入れ値は二万七千Cだから、お得意様価格で今回は、手間賃込みで三万Cで良いよ~」
「マージンそんなもんで良いのか?」
「おkだよ」
「ういうい。じゃあ取引開くねー」
「あーい」
インベントリを開き通貨を取引枠にセットして待つ。
『漆黒灰色オオカミのタテガミ』を確認し、OKボタンを押下する。
猫りー側も通貨を確認した様でボタンを押下。
すぐさま取引成立。
「さんきゅー助かったよ」
「いえいえこちらこそー」
「そろそろ次の取引の時間だからパーティ抜けるねー。合成上手くいく事を願いつつー。マタネッ」
「あいよ、こっちも今日は集まりそうも無いから、ソロ狩りでレア探しにでも行ってくるよ」
「ではではバイバイにゃ~」
「またねー」
猫リーと別れた後、俺はリザードマン系が多く居るバイパー失林帯へと向かうことにした。




