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92何気ない日常

都内近郊にある高校の教室のお昼休み。


校内の生徒達は各々それぞれに持ってきたお弁当や、購買部で購入してきた食事を仲の良いもの同士が机を合わせ食べている。


そんなクラスの中で俺も持ってきたお弁当を食べていた。

両親は海外出張している為、大概は妹が食事、お弁当を作り、時間がないときなどは一緒に料理を作る。


そんなスタイルに定着しつつあった。


また美味しくなっている。穂美香は作るのが上達しているな。


妹の穂美香は少しとろい感じの雰囲気は有るものの、物を覚えるスピード、上達がとても早い。

経験を吸収する能力が人一倍高く、料理においても日に日に腕を上げていた。


もう俺の胃袋は捕まれている。満足度が半端ない。


「朋~今日も弁当旨そうだなー」

「………………」


「おーい。蜂月(ほうづき)

「あぁ、すまんな。ちょっと味の向こう側に行っていてな」


「朋、今日も手作り弁当かよ。良いなー、今日も穂美香ちゃんのだろ?」

「そそ。まぁでもたまに自分で作ったり、手伝ったりして結構大変なんだぜ?」


話しかけてきた人物。

こいつの名前は村山 郷愁(きょうしゅう)。クラスの席は俺の前にずっと位置する。


お昼どきは、毎日こいつと向かい合って昼ごはんを食べていた。

腐れ縁なのか、運命の悪戯なのか、俺は高校に入ってからというもの、こいつの背中しか見ていない。


クラス替え、席替え、併せれば結構な回数有ったと思うのだが、何故か毎回こいつは俺の席の前にいた。



「それでも羨ましいぞー。こっちは毎回購買部のパンだというのに、お弁当の時点で羨ましいし、しかも穂美香ちゃんの手作り……もう爆発しろ」


購買部のパンは早く買いに行かないと、人気の有る物から順にすぐさま売れてしまう為、それを買うのも一苦労、好みの物が買えない事も多く、毎回購買部は人だかりになる。


「郷愁それだとなんか、弁当が爆発してしまいそうな言い方だぞ、蓋を開けたらどかーんと、そしてお前ももれなく巻き込まれろ!」


「そんな爆弾物でも穂美香ちゃんの手作りだったら本望だ。オレなら体でその愛情をたっぷりと受け止めるぐらいの覚悟は生まれた時から持っているぞ!」


……こいつは嫌なことに俺の妹にかなり気があるらしい。


妹は可愛いから分からんでもない。仮にこいつが妹に告白とかしても、妹は鈍いから理解できずに冗談だと判断し、何もなく終わるであろう。


しかし、将来こいつに御兄さんとか言われる可能性が僅かでもあるのを想像しただけで、寒気を感じ悪寒が走る。もう絶対零度の光景だろう。


いやいや無い。無いな、それはほんとうに有り得ない! 俺の目の黒いうちは告白前に必ず阻止させてもらおう。


「……将来はスタントにでもなった方が良いんじゃないか? 郷愁」

「うちは実家がしがない中華料理屋だから、将来は残念ながら決まっているんだよ」


「それこそ羨ましいけどな、このご時勢では職に付くのも大変だからな……ってか、食いもの屋なら弁当持って来いよ」


みんな卒業したら何するのかな、俺はまだ進路を決めていないし、将来はフリーターかもしれん。

このご時世、将来を不安に思うのは仕方の無い事かも知れない。


「それはそれで色々面倒なんだよ。…………そういえば近いうちにルカニーのコンサートまたやるらしいぜ、テレビで特番やってたよ」

「俺はテレビあんまりみないからな、行って見たいけどそこまでアクティブじゃない」


パソコンとスマホを手に入れた頃からか結構な出不精になってしまった。

世間様で言う所の引きこもり予備軍だろう。


今の季節、外出ても蒸し暑く、そろそろ梅雨に入る時期。


部屋で冷たい飲み物を飲みながら、ネットゲームでもしているほうが幸せだ。

最近は何故外に出なければ行けないんだろう? という思考まである。


「そうだな、朋。行きたいけど、人ごみとか行列とか面倒だもんな」

「あぁ、確かにルカニーは可愛いし綺麗で女神だ。生で見て見たいとは思うけどな」


ルカニーは女神。


柏木ルカ。本名か芸名かは知らない。

国民的アイドルで年齢は俺より年上の二十歳だけど、可愛い童顔でスタイルも良く綺麗。

この二つが共有出来るだけでも稀有なんだよな。

うちの妹もあと数年すれば、同じぐらい可愛く綺麗になりそうだけど……。


まぁ、穂美香は女神というより天使系か。


「確かに。でもオレは穂美香ちゃんの方が好みだ。そういうことで今日も、あえて言おう。御兄さん、物は相談なんだが……」


「今日も却下。郷愁よ、それは諦めてもらおう。俺の可愛い妹をお前にやるわけにはいかん」


「遊園地とかでデートでもしたいなぁー」

「ならん郷愁。お前は変態なのだぞ!」


「…………朋、お前も充分に変態道を歩んでるじゃないか、その道は深い。お前も深遠から見られているはずだ」


郷愁は俺の肩に手を置いて何度か肩をぽんぽん叩きつついざなう様に話してくる。


「そうだな確かに見られている。だが深遠から見ているのは……実はお前なのだろう? …………ノスタルジア」


「その名前で呼ぶなー!」


郷愁は自分の名前に少なからずコンプレックスを抱いているらしい。

意味が解らなかったからスマホで検索したら、翻訳でノスタルジア。故郷や、故郷を懐かしむ気持ちとか、書いてあった。


「お前の魂の名前だろ郷愁(ノスタルジア)よ。お前は異世界からの来訪者だ。存在がファンタジー過ぎるだろ、ちょっとこれから異世界に帰るのか?」


「あぁ、ああそうだな! 行けるなら行きたいよな、最近夢にも良く見る初めから強いチートでハーレムもれなく目指すぜ!」


「チートねぇ……最近は多いよな、そんな感じのアニメや漫画、ライトノベルは…………そもそもチートって何なんだろうな?」


「うーん。大昔だと確かコンシューマゲーム機の無敵コマンドとかバグ技とかその辺が発祥じゃね?」


「……あぁ、親父が言ってたな。インド人が右とかなんとか」

「んん? それは別の何かじゃね? あのコマンドとかの方だよ上下、右左AとかBって奴」


「あ、そっちの方か、昔は雑誌とかで特集組んだりして流行ったらしいな、家にも親父が未だに大事にしていた雑誌やHな袋とじが、ゴミに出されて青春がどうとかって、かーちゃんと喧嘩してたな……」


親父は子供の頃、根っからのゲーマーだったらしい。今でも事有るごとに昔のゲームや雑誌の話をしてくる。


「Hか……やるなお前の親父。まぁ、大事なものは捨てられたら怒るだろう、誰でも…………それは別としてもチートって今ではファンタジーだもんな。いや、ある意味ファッションかもしれないな、やっぱり言葉的にはチートイコール無敵とかなんだろうけど」


「いや、結局エロ本は救出したらしいけど、無敵ねぇ~。まぁ考えてみれば、車や銃。飛行機の存在も……パソコンだって、時代によっては充分チートに入るのか……。後、チートファッションって色々捉えられそうな言葉だな」


「ファッションは要は流行りって意味で言っただけだよ、まぁでも線引きの問題なのかね? 努力や根性だってチートと言う奴も世の中にはいると思うし、強くてナンボなんだろ、チートって言うのはあくまでも結果の産物なのだろうな」


なるほど、確かに意味のまったくないチートや弱いチートは存在として、誰も羨ましく思ったりしないのだろうか……。強さイコールチートの図式の結果か? でも突き詰めればチートだろうと中二だろうとそれは所謂王道にもなりえるのだろうか?


「なんだか世知辛い世の中だな。郷愁」

「そんなもんだろ。お、そろそろ授業だな……って確か、自習だから実質帰る奴も多いな……」


本日の最後の授業は自習だった。

周囲を見回すと、クラス全体では約六割の生徒達が帰り支度をしている。


「出席も取らないだろうし、帰るか……」

「そうだな」


その日も何気ない日常。

家に帰り何時ものようにネットゲームの続きを始めることになる。

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