87ジロー対プリンス
「…………此処は、何階層だ?」
『グハハハハハ。良いヒキだ、教えてやるよ。此処はナ……最終階層の七階層だ。ようこソ終焉の入り口へ』
「最終階層…………地下七階かよ」
そんな所まで落とされたか……。地上まで戻るの大変そうだな。
夕顔ちゃんは俺にしがみつき震えながら何かを呟いている。
思ったより重症だ。どうするか?
この現状。
選択肢は限りなく少ない。
目の前のゴブリンプリンスは恐らく結構強い。
小手先の業しか持たない俺では純粋に火力が足りないだろうな。
上手く千日手とかの引き分け、逃げる切っ掛けが作れれば良いのだが面倒な事に最下層とはね。
「やってくれたな……」
『此処はナ。色々な所に通じているンだよ、お前も実際用事が有る筈なんだがナ』
コイツ、俺の知らない俺の何かを知っている話し方をしているんだよ、さっきから……。
何の話しだよ? 一体。
俺がこんな所に何の用事が有るって? ……思い出そうとしても全然無理だ。
とりあえず時間を稼ぎたい所だが、この状態を好転させるには夕顔ちゃんをどうにかしないと駄目か?
さっきの所までスキルを使って上がるにしろ、目の前のゴブリンプリンスが何もしないで見ているとは思えない。
クソッ、忙しいな。
『オレの嫁二号を置いていくならお前には用事なんて無いンだがナ。お前にはマダマダ遣ることがアルダロ』
「…………悪いが夕顔ちゃんを置いていく選択肢は無い! この子は俺の道しるべだ。お前こそ諦めろ」
『……ソウカ。じゃあ仕方が無いナ。今のオマエでは役不足だが相手になってヤルヨ、メンドクセーけどナ』
「望む所だ!」
勝ち目の無い戦いが今、始まろうとしていた。
緊張から頬を冷や汗が伝う。
そうだな。
勝ち目なんて無いが、俺の勝ちは夕顔ちゃんを逃がす事だ。
とりあえず夕顔ちゃんを地面にそっと降ろして前へ出る。
よし、何か手は無いか…………。
『ジャア始めようか…………』
相手はゴブリンプリンス。
……少し強いゴブリン位ならどうにでもなりそうなんだけど、もうあの禍々しい見えちゃってるオーラがとってもヤバめ。
それと纏っている汚れた布に鋭い目付き。
恐らく人間も大分コイツに遣られているに違いない。
ユラリとした残像のある動きから近づいて来るゴブリンプリンス。
動きがぶれて見える。
そんなに早くは無いんだが何かの達人の動きの様にも見える。
「コイツは…………」
俺の中にあるアラートがガンガンと鳴っている。
逃げられる状況だったら間違いなく逃げているだろう。
ゴブリンプリンスは更に間合いを詰める。もう踏み込んで手を出せば届くぐらいの近距離。
剣を斜めに構えながら、何が有ろうと迎撃する事を念頭に動く事に決めた時に前から大きい足が伸びてきた。ゴブリンプリンスの単なる前蹴り。
俺は剣を構えていたが近すぎてもう剣の間合いでは無かった為、剣の柄の付近で受け止めたのだが後方へ少し押された。
バランスを崩した瞬間にゴブリンプリンスを一瞬見失った。
瞬時に奴は低い構えから足を捌いてくる。
そんな敵の足を受けることは出来ないと判断し、後方へ軽く飛ぶと直ぐさま追撃するように付いてくる。
そしてそのまま単なるパンチをガードした。
コイツは格闘が得意なのか? と考えを修正しようと思ったら奴は背中、腰あたりから古めかしい短剣を持ち構えた。
……遣りにくい相手だ。先が読めない。
巧者だ。
時間を掛ければ不利になりそうな気もした。
そんな中、夕顔ちゃんを見ると此方をジッと震えながら見ている。
先程よりは少しはマシになったか? って思ったら下を向きゲロを吐いている。
…………あぁ。あんなにかわいい子がゲロゲロしているなんて。
…………俺の変な性癖をくすぐられていともどかしい。
背中をさすってあげたい。
介抱したい。
……つい臭いも気にしてしまうが流石に此処までは臭わない、とても残念だ。
嗚呼くっそ愛しい。
ゴブリンプリンスを相手にしてもそれぐらい変態的思考を考える余裕は全然ある俺であった。
単に次の手が無いだけで。
しかし俺は見逃さない。
夕顔ちゃんがゲロゲロしている時、目の前のゴブリンプリンスも口を開けて「あー」
ってリアクションを取っていた。
まぁ俺とは相容れないだろうが、奴も可愛い女の子を気にする事が出来る紳士なのかも知れない。
そこにはゴブリンも人間も関係ない。
そういう事なんだろ?
ふむ。と変に納得したがそんな情報が今の戦いで生かせるかって考えたけど妙案も何も浮かばない。
俺の生き様は閃く人生では無い事にも今更ながら気が付く。
自分に合ったもっとしょっぱい答えを探した方が俺らしい。
いっそあの黄金色をした吐瀉物をプリンス相手に投げてみるか?
…………そうだな。
そんな機会があれば好機になるかも知れない。
ついでにその直後に指に付いたソレを……ぶひぃ。
……イカン。
この間0.5秒とは言え危ない思考だ。
趣がありすぎて怖い。
性癖が混じりすぎている。ふぅふぅ。
……こんな思考が夕顔ちゃんにバレたら俺もう彼女の顔を見られないって少し思う自分大好きッ子なド変態ですそれが俺ですおまわりさん。
心で自白する俺が目指す紳士なおっさんへの道は果てしなく限りなく遠い。
何なら毎秒真逆に進んでいる。
世界が永遠と膨張しているのと同じ論理、いや全然違うか。
そんな考えを入り交じらせながらゴブリンプリンスと戦っていたんだが、気がついた時にはボコボコにされていた俺。
秒でフルぼっこかよ。強すぎだろ。プリンスよう。
もう顔が格ゲーの負け画面ぐらい腫れている。早くコンティニューしないと。
そんな顔で夕顔ちゃんに微笑んだら「ひっ」って怖がらせてしまったっぽい。
あーあ。
何もかも上手く行かなくなってきた。落ち目だぞ俺。
はぁ、こんな時、……奴がいたらなぁ。
ふと、そう。ふとそんな考えが頭の中を過ぎった。
奴。俺の同級生で悪友の朋。
高校に入ってからすっと何故か奴は俺の後ろの席だった。
腐れ縁の友人。
しかし趣味はとても合う奴だった。思えば元々のゲームも奴に勧められたんだった。
バランスは良いがペナルティーが強すぎて糞ゲーかも知れないが燃えるぜって言ってたよな、確か。
そう。
俺の隣に並べる程のド変態なあいつも必ずいるだろう。
姿形が違うかも知れないがこの世界に飛ばされている筈なんだ。
奴の名前をした奴の妹の穂美香ちゃん。
しかし中身も違う。
謎だ。そうなんだ。俺はこんな所で負けていられない。
くっそ、どうするんだよ俺。
更にゴブリンプリンスにボコボコにされていく。
やっば、もう足がふらついてきた。
そんな時、目の端に何かが写る。ええと、キラキラした…………一体何だアレは?
空から降りてきたソレは宝箱にぬいぐるみ? うさぎ……にしてはとても嫌な酷い顔をしている。
そんなに大きくは無いそれ。
そんな変な宝箱とぬいぐるみは地上へと降り立った。
「おいおい。やっぱりお前はこんな所にも出てくるのかよ、プリンスちゃん…………狙いすぎだろ。全くよ、糞ゲーかよ」
…………糞ゲーってこの世界には無い言葉だよな? しかも奴が好んで使いそうな…………あのウサギ。
「………………」
「おぉ、夕顔ちゃん無事のようだな。後は……お前がジローか? 酷い顔してるな。俺の顔も絶望的にアレだけどよ」
変な顔をしたぬいぐるみに俺は認識されている。これは一体……。
「お前は…………」
「夕顔ちゃん……ってゲロゲロじゃねーか! プリンスのトラウマは強力だからまだ仕方ないか、可愛そうにああペロペロ……」
『…………お前は何者ダ? 俺のコトを知ってルミタイジャねーかヨ。俺はオマエみたいな変なウサギはしらねーヨ?』
「先ずは夕顔ちゃんだけでも助けるか……おい、彼女を地上まで運んでくれ、ミミ子」
……ミミ子と呼ばれた変な宝箱は夕顔ちゃんの側までガシャンガシャンと移動してあっという間に夕顔ちゃんを飲み込んだ。
「ファー…………」
もう夕顔ちゃんの姿は足のかかと位しか見えない。
宝箱は夕顔ちゃんを飲み込んで跳ね回っている。
「頼んだぞ! ミミ子」
『オイ。俺のヨメ2ゴーをどうするツモリダヨ。フンザケンナ!』
ゴブリンプリンスは持っていた古めかしい剣を宝箱相手に投げつけたが宝箱は機敏で一回転しつつ躱してそのまま崖を登って行ってしまった。
「…………夕顔ちゃんを助けたのか?」
「ん? あぁそうだ。悪かったな、ジロー。シラクさんから話はなんとなく聞いているよ、お前がジローだろ?」
「…………あぁ、俺がジローだ。それは間違い無い。しかしお前は……」
「シラクさんは恐らく駄目だ。それでお前達だけでもさっき仲間にしたミミ子と助けに来たんだが相手がやっぱ最悪だったな。もう運命のフラグというか、ルートに乗っているだろ」
「その雰囲気や話し方……やはりお前は…………」
『クッソ。オレの嫁何処に隠したんダヨ。お前……許さなイからナ』
「あぁ? 俺とヤルのかプリンスちゃん? この身体。舐めてると痛い目にあうぜ! ……お前の相手は未来の夕顔ちゃんに任せたいんだけどな!」




