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86灼熱地獄で凍らせて

名前を胸に刻み、ヴァンパイアを見据えた。


「見逃しても良かったんだけどさ……つい約束しちゃったからな。不死者かどうか知らないが仇を取らせて貰う。ヴァンパイア!」


『……フン、馬鹿にしているのか? お前みたいなぬいぐるみ。直ぐに消し飛ばしてくれようぞ!』




敵までの距離はおよそ五メートル。


さて、どうするか?

……悩んでいる間に敵ヴァンパイアが動く。



距離を縮める様に残像を残しながらの移動をしている。


動きが思ったよりも結構速い。

上手く狙わないと魔法でも避けられてしまうかも知れない。



更に敵は俺に近づいて来てそのまま近接の戦闘となった。



ヴァンパイアは鋭い爪先を抜き手のように放ってくる。

しかし、俺と奴では結構な身重差が存在し、俺から見ると上からの攻撃となる。


俺も遅いわけでは無いので当然のように躱す。


抜き手の攻撃が当たらない事に直ぐに気がついたヴァンパイアは蹴りも放ってくる。

それは結構なスピードの蹴りなのだろうが俺は難なく躱す。


『ちょこざいな真似をしおって! ええい、避けるんで無い!』

「ふん。当たってたまるか! そんなぬるい攻撃……」


ちょこまかと動きヴァンパイアの攻撃を躱す。


このボディ、以外に動きは速く、躱した敵の腕や足を起点に次の動きを取る感じで少し先読みも入れる。残念ながら今の俺は近接の攻撃方法が無い。



魔法をゼロに近い距離で打ち込むって言うのは出来るけど俺も何らかのダメージを食らいそうで悩む。

取りあえず少し距離を取ってからの攻撃を考えよう。




……多分ヴァンパイアはイライラしてくると思う。


奴の攻撃は全く当たらないからな。


『…………もう良い。認めよう、お前は私より早い。だがそれならコレだ!』


『ダークブラスト』


ヴァンパイアが少し距離を取り何か唱えた瞬間に無数の蝙蝠が現れた。


……あぁ、この技は確かジュリエッタダンジョンで使っていたよな。



イヤ、凄い数だぞ蝙蝠。

…………少し距離を取るとある一定の距離以上は追ってこない。


……なるほど。約三メートルって所か。


『…………くそが』


でもこれはチャンスだ。

朋ちゃんはファイアボールで一掃していたよな、確か。


俺もまた試すか……。


「セフィロトから創造せし連なり合う四原種の理。太古から事象を連ねる炎の化身、かの者の敵を燃やし尽くせ。インフェルノ」



『……なっ!』


最上級火炎系の攻撃魔法インフェルノ。



範囲は少し狭いがその範囲内を灼熱地獄にする。


その炎は紅蓮であり黒炎色。


そしてファイアボールの数倍に匹敵する殲滅力を兼ね備えた魔法。

在りき物を無に帰す古の呪文。


その炎は一度纏わり付くと獲物を離さないで更に燃えそれは苦痛を永遠に与えるとされている。

そんな呪文を掌からゴムボールでも投げるかの様にひょいっと放った。


「…………食らえ、不死者よ」


インフェルノの初速こそ遅かったが、周囲の空気を取り込みつつクルクルと回転し螺旋のスピードが付いたソレは蝙蝠の塊を目掛け進む。


『クソッ、馬鹿……やめろ!』


俺の放った魔法インフェルノの恐ろしさに気がついた様で、急ぎ躱そうとしているヴァンパイアと蝙蝠達だがもう遅い。


周囲の空気すらも食らいつつ、勢いを増し突き進む最上級攻撃魔法インフェルノ。

蝙蝠も簡単に巻き込みその本体、主へと進む。



本体は直ぐにでも逃げたいらしい。


だが今、使っている敵の技は蝙蝠を放出していると動きが鈍るのかそう簡単に動けない様で、その分俺の放ったインフェルノをガシガシと食らっている。


もうすぐ本体にも到着しそうな勢いだけど逃げないのだろうか?

 若しくは逃げれないのか?


『もう駄目だ…………クッ』


放出していた蝙蝠を結構数、回収したのかヴァンパイアは見切りを付けて動いた。


ソレを追うかの様にインフェルノはヴァンパイアが動く前に居た所に到着、周囲を黒炎色に染めながらも更に進んで何も無いところで止まった。


『貴様…………何者だ? 此処は初級ダンジョン。お前のような存在が居る筈が無い場所の筈だ』


「そうなのか? と言ってもそんなの知らんよ、今の俺は唯のぬいぐるみだよ。お前よりは強いけどな」


『……先程のジュリエッタと言い此処と言い……一体何なんだ? 俺様は名前をも持つ古き時代からのヴァンパイアだ! お前みたいな巫山戯た存在にやられてなるものか!』


「…………まぁ、プライドが高いのは知らないけどさぁ、俺も好き勝手してるだけなんよ。……お前と同じだよ」


『もう全力だ! 出でよ、ガーゴイル』


ヴァンパイアがガーゴイルを呼んでいる。


へぇー。


そんなん召喚も出来るんだ? 目の前に靄が出来て直ぐにそこからガーゴイルが生まれるように出てくる。一体、二体…………計三体程。


「……中々やるね、ヴァンパイア。でもそんなの何体いても俺の敵では無いぞ、きっと……」


時間が勿体ない。

一気に行くか。


向かってくるガーゴイル三体とヴァンパイアを範囲に入れ呪文を走らせる。


「セフィロトから創造せし連なり合う四原種の第二原理。エントロピーを禁絶定義させ世界を凍らせ全てを覆い尽くせ。アブソリュートゼロ」

『ブラッドセンチュリー』


俺が魔法を唱えたとほぼ同時に敵、ヴァンパイアも何かをしている。

俺が唱えた呪文は周囲を瞬時に凍らせていく呪文。


最上級氷系の範囲殲滅魔法アブソリュートゼロ。


唱えたと同時に近場の物から世界が凍ってゆく。

範囲は俺の呪文を唱えた声の聞こえる範囲ほどは行けるだろう。


ガーゴイルが凍えてゆく。

そしてその重さに耐えられなくなり、空中に浮いていたガーゴイルは凍ると同時に落下し順番に砕けた。


ヴァンパイアが何か唱えた様でそれも凍ってゆく……のだが勢いは止まらず。

凍れるソレは俺の右腕を貫いた。


そしてパキンと折れた。


その先のヴァンパイアを見るとそのままの姿で凍っている。


「くっ、腕が……取れそうだ」


俺の右腕は繊維がはみ出て見える。

半分ぐらいプラーンとなってしまった。


「チッ、へまったぞ……中々やるな、ヴァンパイアめ」


腕一本ならまだまだ行けるだろ、致命傷では無い。

早く夕顔ちゃんを助けないと……。


「シラクさん…………仇は取ったぞ、スマンが俺は先に行くよ」


ついでに凍らせてしまった生きているか死んでいるのか解らないシラクさんに声を掛けて先に進む。


…………多分、此処を降りれば良いのか?


穴に落ちたとシラクさんは言っていたよな。

一体どうしたらこんな大穴が開けられるんだ?


間違いなく何かの力により開いた穴だよな、この穴。

今発動できる最大級の魔法でもこんな真似、出来るとは思えないしなぁ。


取りあえず落ちるか。

この身体なら落ちてもどうにでもなりそうだし……。


よし、行こう。急がないと…………。

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