84此処は奈落の最終階層
――――その時に誰かが叫んだ気がした。
中央から離れろと。
私はその言葉の意味を考えた。
中央から離れろ…………ええと、此処は中央付近だね。離れなきゃいけない?
でもケイジさんを治療中だよ。
もう少しである程度治りそうなんだよ。
ねっ。イコさん……。イコさんを見ようと首を向けるとイコさんがいない。
あれ?
イコさんは何処に…………。
ケイジさんに話そうと思いケイジさんの顔を見ると顔が無………………。
あるのは緑色をした――――――――足!?
『……ヨオ。会いたかったゾ…………嫁ちゃんヨ』
――――――――――――――――。
は? え? あぁ。逃げなき…………身体、動かな……あ、頭、廻んない。
い、イコさん、何処へ……プリンスちゃん、何で? ケイジさん――――――――。
『此処は……ジュリアかヨ。全く人使いが荒いよナ。神様も……なぁ、二番チャン』
『…………嗚呼、オレ様は人じゃ無かったか、ゲハハハハ……一番チャンは、いないのかナ』
「……………………」
『オレの相方は……ヴァンパイアかよ、ウッザ…………マァ良いや、嫁ちゃん連れてトットト帰るか』
◇◇◇◇
くっそ、中々強いな、ヴァンパイアはよ。結構押してはいるんだけどね。
きりもみ状態で飛んできた蝙蝠を躱しながら倒し方を考える。
…………あと一歩が、決め手が無い。
そういえば夕顔ちゃんは大丈夫か……な……って、おい、何だあの緑色のって不味っ、ゴブリンじゃねーか!
あれ……夕顔ちゃん確か苦手って言ってたよな!
「おい! シラクさん。撤退だ! 俺は夕顔ちゃんを助ける。後は任せた」
「あ、おい……」
何でよりにもよってゴブリンがいるんだよ。ケイジさんにイコさんは何処だ?
夕顔ちゃん固まってんじゃんよ。
もしかして、気絶とかしてるか? ゴブリンなんざワンパンだろ…………でも変だな、何か禍々しいオーラが見えるしあのゴブリン。
よく見ると頭に王冠が乗ってるな…………まさか、ゴブリンキングか?
「夕顔ちゃん。大丈夫か?」
「…………ジ…………ローさ」
夕顔ちゃんを抱えてゴブリンと距離を取る。
何かしてきたら咄嗟に何かしてやろうとも思っていたけど何もしてこなかった。
『……………………ハァ?』
『…………は……何故此処に……マサカ…………イヤ、違うノか? …………マァ良い。ソレは俺のヨメだ…………置いていけ』
「嫌々……お前になんか勿体ない。お前に取られるぐらいなら俺が……」
「……………………」
『シカシな………………』
「じゃなくてえーと、何だ。ええと、まぁ良い、兎に角だ。夕顔ちゃんは渡さん」
『シカシな………………仕方ないか。…………今のオマエよりオレの方が強いと思うのだガそれでもヤルのか?』
「何でそんな事が解るんだよ? 俺は強いぜ。……やってやんよゴブリンキングめ!」
『オレはゴブリンプリンスだ、間違うなヨ、本当に大事な所だゾ。マァ良くも無いがヤル事はヤルか』
『ソウダ。ついでにこの前ノ報酬デモ使ってみるカ、喉渇いたしナ…………ゴクゴクゴク。…………ア? チ、力がみなぎって…………来ナイ。美味いダケかよ!』
何かドリンク剤みたいな物を腰に手を当てて飲んでいるな……旨そうに。
『フン、マァ良い。行くぞ…………』
正面の自称ゴブリンプリンスはゆっくりとした動きで此方へ向かってきている。
さぁ、どう戦うか。距離は後十メートル位。
オレの胸元にいる夕顔ちゃんを見ると歯をガチガチと鳴らしそうな程に口元が動いて震えている。
柔らかい身体も結構な感じで強ばり震えも止まらない。
そして目は焦点が合っていない。
試しに名前を何度か呼んでみたが反応も無い。これは酷い。
マジモンのトラウマだな……。
どの道このままでは戦えない。逃げるか?
此処からだと出口までは二十メートル少し。
近距離版の緊急脱出が適正だが、前の俺がこの技の長距離版で亡くなっているんよな。
気になるだろ、使うの躊躇するってよ、まったく。
でもそんな事言ってられない。
夕顔ちゃんもコイツに狙われているし。ヤルか……。
とても良い匂いのする柔らかな夕顔ちゃんをしっかりと抱きしめて技名を唱えた。
「……緊急脱出ポッド近距離技。射出」
夢のような技だが、単に後方に強烈な風の魔法で斜め方向へと自分の身体を押しやる魔法の一種だ。
うわっ…………中々な重力だな。引っ張られてる。
内臓おいてかないでー。
瞬時に20メートル後方へと到着。
しこたま打ったケツが痛い。きっと擦り剥いている。
しかし、しっかりと抱きしめていた夕顔ちゃんは無事だろう。
『…………ビックリさせるなよ。オマエ、面白い技を使うな……ってオイオイ、逃げるのかヨ』
中央付近のシラクさんはまだヴァンパイアと戦っている。
夕顔ちゃんの安全を第一に考えたい俺は此処で撤退が一番良いのだが…………と考えていたら――――――――
ふと、目に入った。イコさんが。
すぐ側の壁に頭から叩き付けられて崩れたのかうずくまって丸くなっていた。
少し動きがあるので大丈夫とは思うけど頭付近から血が流れている。
ハァー。しゃーない。先にイコさん助けるか。
「夕顔ちゃん。少し……ごめん」
悩んだけどしゃーない。目に入ってしまったしイコさんを助けないと寝覚めが悪くなりそうだ。
直ぐさま駆け寄り回復のポーションをグビグビと適当に飲ませてから担いで扉の外へ出した。
これで心残りは無いと思いゴブリンプリンスを確認しようと見るが居ない。
そして、近くで気配を感じでその場を離れる様に横へジャンプ。
その時横っ腹に重みを感じた。
「グッ――――」
その方向を見るとゴブリンプリンスが俺に蹴りを入れていた。
少しジャンプのお陰かダメージは軽減されたかも知れないが、凄い威力で俺は五メートル近く飛ばされた。
『チッ、お一人サマ逃がしたな。オレサマーハーレム候補をよ。オレがあの扉をクグルのは手間暇各種デ大変なんダゾォ』
『マァ2号チャンいるからコンカイハ良いか…………』
『実際オマエなんか相手にするノ時間の無駄なんだがヨ…………あ、良い事を思いついタ。これで解らせてやルンよ』
チッ、腹が痛ェ……少しひねったか? まだ動ける。
とりあえずイコさんは逃がすことが出来た。
後は夕顔ちゃんと俺がどう逃げるかか? コイツ、さっきのヴァンパイアより強いぞ。格上だな……。
俺の能力では勝てないかも知れない、どうするか……。
『アイテム、奈落への旅路 発動セヨ』
数メートル先にいる禍々しいオーラと、汚らしいマントを纏ったゴブリンプリンスは何かのアイテムを高々と掲げた。
何だ? すげー光ってる。どす黒い光だけど一体何のアイテムを使ったんだ?
【――――――――警告。警告。初級ダンジョンジュリア。緊急メッセージ。負荷が掛かりすぎています】
【警告、警告、警告、警告、警告、警告、警告、警告、警告…………】
「これは…………」
負荷が掛かりすぎている? 一体、何したんだ? アイツは。
『ハッハッハー。楽しいアトラクションの始まりダ……何処まで落ちるかナ-』
何が起きるのか、身構えておこうと用心するがその用心も無駄に終わった。
…………足下が消えた。
周りを一瞬見ると一部の地面だけ切り取られた様に無くなったらしい。
結構なスピードで落下する俺と夕顔ちゃん。一緒にゴブリンプリンスも落ちているのが見える。
他は…………落ちていない様だ。
多分、大丈夫だよな、夕顔ちゃん。
感覚というか、カンでそろそろ地面だと感じ取った俺はスキル壁走りと蜘蛛の糸の複合技で壁を伝いながら減速し夕顔ちゃんを抱えて地面に着地した。
結構な距離落ちた気がする。
「…………此処は、何階層だ?」
『グハハハハハ。良いヒキだ、教えてやるよ。此処はナ……最終階層の七階層だ。ようこソ終焉の入り口へ』




