80夕顔ちゃんのジュリアダンジョン攻略
「頑張れや。朋ちゃん……」
……しっかし、これは何かが呼び寄せているのかね、強く、生きさせる為の。
……言わば試練やな。朋ちゃん。
うちの出番も近いのかね…………。
でも折角やから回収のタイミングも考えたいよな。
その方が美味しくなるで。
十分に時を重ねた代物ほど旨味が出ると言うし……。
旨味とタイミングが重なるとき。
――――その瞬間を見極めないとなぁ。
逃がさへんで。
「…………此処のギルドで朋という女の子を見かけませんでしたか?」
目を瞑って数十分ほど考え事をしている私は五番カウンターで突然話しかけられた。
美味しい物を考えている時に邪魔しおってから、なんやねんもう。
…………目を開くと前には……うおっ――――――――なんやこの美少女。ほんま眩しいて。
誰や…………こんな子サラダエクレアの街で見たこと無い――――よそから来たのか? って朋ちゃんの事聞かれているのか?
「まず――――登録証みせてな。此処は冒険者ギルドや」
「…………はい」
「そこの銀盤に翳してな……」
――――何々、名前は……『ルカ―カシワギ』
ん。何かプロテクトされてるってまさか…………Aランク冒険者!?
「……Aランクなんて街に数人しかおらんからな。まぁええわ……朋ちゃんに用事か?」
目の前のAランク美少女はため息を一つ付き私の目をしっかりと見て話す。
とても強い……吸い込まれそうやね。
「――――此処に、いるのね?」
「……おるで――――今いないけどな。んで、朋ちゃんとの関係は?」
「……魔女の住処の党首メルヴィッセさんに頼まれたのよ、後、よろしくってね。でも良かった、やっと尻尾を掴んだわ。まさかこんな所まで飛ばされていたなんて!」
「…………それも知っているんか。わーった。会ったばかりだけど信じるわ。ルカ―カシワギさん」
「――――ルカで良いわ。えっと……」
「私はグラトニー。グラ子って呼ばれる事が多いよ」
「……解った。グラ子……さん。朋ちゃんの事、教えて欲しいんだけど」
「ええで。一応もう一人、ワイの姉を呼ぶけどええか?」
「構わないわ……」
「――おいおい、何だあの美少女?」
「あぁ、見惚れた……夢で見た女神が降臨したのかと思ったぜ」
「俺はロリコンでは無いけどあれ程ならアリだ……」
「凄ぇな。同じ人間とは思えないな」
「俺のかみさんなんてゴブ級ぞ? 何この圧倒的な差はよ!」
「…………ごぶヒモ乙」
「しかもグラ子さんと並んで良い感じだ。後は朋ちゃんと夕顔ちゃんで完璧なフォーメーションでござるな!」
「おぉ、お主……天才か。その絵面は是非見たい」
「年は…………一六、七歳って所か?」
「あぁ、前後だろう……若いって良いな!」
◇◇◇◇
時は数日前に遡った早朝。
今日、私はジュリアダンジョンに挑むんだ。
そんな事が頭に浮かび目が自然と覚めた。
今日なんだ。
……昨日のアリアダンジョンは上手く出来た。この調子で行きたいよね。
意識して全身の力を抜きダラーッとし数秒。自分に気合いを入れるようによしっ! と力を入れてベッドから起きた。
ジュリアダンジョンは初級ダンジョンと呼ばれている事からもそんなに難易度は高くない。
年間で見ても大怪我以上する人もそこまでいない、かと言ってリスクが無い訳では無く。
時折予想外のことが起こるのもダンジョンあるあるらしく、そういう出来事に対応できるかどうかで全てが決まる。
図書館で調べた中で少し怖さを感じたのはダンジョンボスの事だった。
通常のボスなら初級ダンジョンと言われている位だから、そんなに怖さも難易度も無い。
しかし、確立で時折、起こるイベントがあるらしく、報酬も高くなる事から惹かれてしまう冒険者も多いらしい。
報酬の高さは難易度の高さ、見誤ると事故に繋がる。
しかし、そんなイベントほど人は惹かれるそうだ。
人の欲は抑えるのが大変だ。
目の前にある宝箱を無視できる人間は皆無だろう。
そんな時ほど冷静にいなければ、と思う反面冒険とは……そういうもんだ。
…………とも思う自分もいる。
でも、今の私は冷静さを失っている。
まだまだ、自分自身を取り戻せていない。
あれ? 私ってどんなだったっけ?
そんなのは誰も知らない。
でもそんな風に考えてしまう事、それ自体。
自分が見えていないのだ。
でも、私には目標が出来た。
そう。あの子の隣に並ぶんだ。
目指しても良いよね、そんな景色。
用意は出来た。さて、……行ってきます。
私は宿を出てダンジョンのある闘技場へと向かった。
ジュリアダンジョンの入り口に立つ私。
今日は此処を皆で攻略する予定。
攻略といっても七階層まであるダンジョンの三階層までが目的。
初級ダンジョン踏破の証が欲しい私。
他にも何か貰えるらしいし。次の一歩を進むんだ、私の力で、自分の足で。
少し待っていると他のメンバーも続々とやって来る。
私こと夕顔とイコさんとケイジさん。リーダーのシラクさん、遅れて最後にジローさんが待ち合わせ場所に集まった。
今回は合計五名でダンジョンへ挑むんだ。
シラクさんにどうしてジュリアダンジョンに行くのか聞いてみると、冒険者ギルドのクエスト以外にも三階層を十回踏破、二十回踏破などで貰えるアイテムが必要なんだと話してくれた。
なるほど、それなら何回も通う必要がある訳か。
人それぞれに違う目的を持ってダンジョンに挑む。これが野良。
――――通称、野良パーティ。
フリーのパーティなので怖いこともあるらしいけれど何事も経験だよね。
――幸い今回のパーティの人達は皆、優しそうだ。
多分……大丈夫、信じよう。自分の行動を。
「そろそろ開始しよう!」
リーダーのシラクさんのかけ声と共に私たちはジュリアダンジョンへと入っていった。
昨日のダンジョン攻略の為の話し合いの結果、シラクさんとケイジさんが前衛。
イコさんがその後ろでサポート。
そして私とジローさんが後衛。
状況次第でジローさんが前へと出るという形にしようとなった。
私の役割は確実な狙いの攻撃魔法とサポート的な回復魔法と後ろの安全を確認するという感じ。
ジローさんと私の連携も必要かしら。
昨日はそんなにジローさんと話していないんだけど、移動と共にジローさんは色々な話を私に振ってくれた。
私も話していく内に肩の力が少し抜けたみたい。
ジローさんは結構気さくな方で私に気を遣ってくれている様。
多分だけど、この人は結構やり手っぽい。
……もしかしたら、このパーティで一番強いのかも知れないね。
そんな印象を私は持った。
でも見え隠れする何か……というか、さり気なく気付かれない様にしている何か?
って言うのかな? 何かそんな目的を持っている様な。
うーん、良く解らないや。……でも、何かが隠れているんだよね。
見えない何かが。
それでも形振る舞いは紳士のそれ。大人の男の人だね。
年齢を聞いたら私と大体10コぐらい違うみたい。
十年後の私を少し想像したけど全然想像できなかった。
実質、三人と二人の様な感じでお話しながら警戒もしつつダンジョン内を進む私たち。
私はジュリアダンジョン初めてだからそれなりの緊張感を持っているんだけど、他の人達はそうでも無い様で、なんとなくピクニック感覚という方が近いのかもって思った。
私と共に隣で歩くパーティメンバーのジローさんはこの前のイベントゴブリンの逆襲、ゴブ逆で結構な怪我を負ったらしい。
今はもう大分、治ってきているけどリハビリも兼ねてこのダンジョンに来たみたい。
あのイベントは凄かったからね……。
朋ちゃんがどんな感じで戦ったのか、興味はあるけどあのイベントでゴブリンが苦手になったって聞いたからそれ以上は聞けない。
私も今は絶賛ゴブリントラウマ中。こうして考えるだけでも少しこみ上げる物が有る。
でも私の場合はやっぱプリンスちゃん。アイツなんだ。
私はアイツを倒せる力を手に入れなくてはいけない。
それが唯一このトラウマを克服出来る方法。
実際、誰かに倒されればいなくはなるかも知れないけれど、それでこのトラウマが消えるかは解らない。
やっぱり自分で倒さないと……。




