8私、大人になりました。そしてはらぺこの歌
目が覚めると私は知らない。あ、知ってる。姉さんの部屋のベッドで朝を迎えた。
なんとなくまだフラついている身体を動かして姉さんの部屋を出てリビングとして使っている所へ向かう。
「おはよー朋ちゃん」
「あ、姉さん。おはよう……」
姉さんはキッチンで何かを作っている。…………うーん。違和感が凄い。
「姉さん、何をしているの?」
「あぁ、朋ちゃんに朝ご飯を作っているんだけど、中々難しくてねェー」
「…………私が作るよ? 姉さん」
「いやー今日ぐらいはね。しきたりというかなんというか。まぁ、その辺座っててよ、もうすぐ出来るから」
…………何があったんだろう? あの姉さんがご飯を作るなんて……。此処に来て三年ぐらい経つけど初めてな気がする。何かの実験なのかしら?
不安だよ。こんな時、どう接すれば良いんだろう?
「はいー。出来たよー。私の特製ごはん」
「…………」
「初めてな朋ちゃんにお祝いのご飯だよ」
「えっと、これは、お米。だよね?」
白い筈のお米に色が付いている。一瞬お焦げかと思ったけど違うみたい。
「うんうん」
「何で、色が付いているの? 朱色?」
たまに食べる白い色のご飯。それが今日は赤色っぽい色が付いている。
「これは、お赤飯と言います。めでたいのよ。多分、今日のは上手く作れたと思うわ」
「今日は何かの日なの? 姉さん」
「今日はなんと。朋ちゃんが大人の女性になりましたー」
パチパチパチ。と姉さんは拍手している。えぇ? 私、大人になったんだ? 何時の間に? ううん、そんな急になるものなの? 大人って。
「えぇと、ごめんなさい。姉さん。良く解らないんだけど……」
「あれ? 話さなかったっけ? 年齢が十歳を超えた状態で魔力を行使出来る状態になった時、うちでは大人の女性になるの。……まぁ、世間一般だと少し違うけど、此処、魔女の住処ではそういうしきたりなのよ」
あぁ、そういう事かぁ。なるほどなるほどふーん。村でもしきたりは幾つか有った気がする。
そして、魔力を行使出来る状態…………あれ?
「私、魔法使えるの?」
「使えるよー。多分」
「多分って……便利だから使いたい。魔法」
「うん。便利すぎる力だね。魔法は。なので今日から少しづつ教えていくから」
姉さんは私の前にお赤飯を置くと、ご唱和ください。と話し歌い出した。
「私のお腹は腹ぺこだー。ペコペコだーはいっ」
急に歌い、はいっ。と私の顔を見る。うぅ。恥ずかしい。
「ペコペコだー」
「ペコペコだー」
「では、いただきます」
「いただきまーす」
私、起きてからよく考えると顔も洗ってないけど、もうこの流れじゃ仕方ない。ご飯を食べよう。もぐもぐもぐ。
「…………ちょっと変わっているけど、美味しいね」
「でしょー。胡麻の風味と塩味が良いのよ」
でも食べていく内に何か何処かで食べた事がある気がした。何故か懐かしい気もする。もちもちしているね。
「今日は少し外で魔法の勉強をしようか。朋ちゃん」
「あ、うん。解った」
此処に来てから三年。ついに魔女の根幹とも言える魔法を教わる事になった。上手く出来るかなぁ……。
今までも基礎を固めるよと身体の中の魔力を通す前段階の練習を毎日の様に行ってきた。上手く出来ると良いな。
「ではそろそろ始めようか」
「はい。よろしくお願いします。姉さん」
「まずは座学的な魔法の基礎知識のおさらい」
と姉さんは話し出した。
――――――――この世界にはありとあらゆる全ての物にマナが宿るとされていて、そのマナの一部を借りる事により魔法へと昇華させる。通常ではマナはこの世界では見えないんだけど、精神の世界(ゼロの世界)へ入る事が出来ればそのマナさえも見えるとされているわ。
因みに私はまだゼロの世界の入り口が朧気にしか見えない。私の師匠は晩年に入り口を見つけて入ったと言っていたわ。ちょっと脱線したわね。
まぁ、そのマナを媒介としこの世界で発動される魔法なんだけど幾つかの系統と種類が有って、その人に依って得意な系統や魔法も違うし使えない系統もあるの。まぁ通常では闇と光、火と水、風と土。なんかは良く言われているわね。大体どちらかが得意だとどちらかは不得意な人が多いわね。
でも此処、魔女の住処で数年暮らした朋ちゃんは確実に不得意な魔法は存在しなくなっているわ。
それは魔女のスープ(魔女の下地)とも言われているの。そこから個人の伸びしろがある物が有ればそれは個性となり貴方を一つの個にする。
そして此処は貴方の個性を模倣し吸い上げ次の世代に還元する。繰り返し、繰り返し。
此処はそれだけ特質的な場所なの。
因みに私は召喚の魔法が得意よ。朋ちゃんが此処を離れて何処かへ行く時は大概、誰かを付けているから、安心して良いわよ。
まぁ、付けたのが倒される様な状況が有ったとしたら基本逃げる事を念頭に動いたり立ち回る事をお勧めするわね。
その者は私と戦えるぐらいは強いという事が確定しているから。という事で朋ちゃんの覚える事の一つに私から逃げる事っていうのも訓練に入れるから。
そのつもりでねっ。と姉さんは私を見ながら言った。
私は無言で頷く。そして、姉さんから逃げるという事について考えてみた。
「まぁあくまでも訓練だから気軽に構えてね。あんまり手は抜かないけど」
私は姉さんは魔法を行使する所を今まで幾度となく見てきた。時には魔物や動物を狩りに魔法を放つ事。召喚魔法を使いとんでもない攻撃をしている所。
悪い事をした人がこんがりと焼かれていたあの場面。山奥の盗賊のアジトの洞穴に蟻の巣で遊ぶように水の魔法で永遠に水を注いでいた事。
うーん。私、無理かも…………。姉さんに虐められる未来しか見えない。
でも、私の中で誰かが進め、進め。もっと先へ。と語りかけている。
そう。私は進まなければいけない。理由は解らないけれど。この先、後悔しないように。
姉さんに生活に必要な魔法、生活魔法をひととおり教わった。明かりの魔法、水の魔法にお湯の魔法とか日々の生活に使えると便利な魔法は思ったより結構な種類あったけど、覚えるという程難しいものではなかった。
結構便利なんだけど、それでも使えない人は大勢いる。年齢制限もあり、魔法の才能も必要、なんだって。
私の唱えた初めての魔法は明かりの魔法だった。六本木さんの木陰で明かりの魔法を唱えた。
熱を帯びている訳では無いのだけれど、暖かみを感じる。これが…………魔法。
今までは魔法の基礎だけ練習してきたから初めての自身が唱えた魔法に私はとっても感動した。
「じゃあ次に、四大元素。主に火、水、風、土。の四つを基礎としている魔法から始めましょうか。
さっきの生活魔法とも少し内容は被るんだけどね。後は朋ちゃんには魔女のスープと言われている
後天的な資質を取得しているから今更なのよね。だからその中でも得意なものを調べてみましょう」
「では、此処にある人形に各種魔法を使って貰うわね」
とりあえずはとぬいぐるみの様な物を手で持ちながら、「このみゃー子先生のぬいぐるみを持って一つずつ魔法をイメージしていってね、あ、イメージする時間は五秒ぐらいでね」
私は頷き始めた。
――――火。火のイメージ…………うーん。生活で使うだけなら便利なんだけど人や魔物などを傷つける力って考えると結構怖い。そしてみゃー子先生って何者?
「五秒ぐらいでぽんぽんと行っちゃって良いわよ」
「はい」
私は次に水をイメージした…………。
「ふーむ。なるほどね。結論から言うと、朋ちゃんの得意な魔法はまだ解らない。かな。単に今してもらった最小限の力は、ほぼ均等。受け皿のスープはこぼれていないし溢れてもいない。味付けもこれからね。四大元素以外だと、私の召喚術とか、次元や空間。雷とか反射なんかもあるんだけど、何かなぁ?」
一つずつイメージの仕方を教えるから試していこうと姉さんは私に教えてくれる。
「あ、良いなぁ。朋ちゃん古代召喚術の才能あるよ。あれ? まだある。…………剣術(大)と高位魔法展開って。うーん。何か変ね」
「何が変なんですか? 姉さん」
「…………普通。コードというスキルは多くても一つなの。世間的には百人に一人ぐらいの割合でね。
それからエクスパ、ワードと振り分けられているんだけど、単に才能があるって言える状態では無いのよね。あ、ええとね、スキルというのは大まかに『ワード、エクスパ、コード』とあってワードが一番簡単なスキルの集まり、でエクスパが次、そしてコードが一番難しいとか、そんな感じの解釈で良いかな、とりあえずは。でね、コードにあるスキルは言わば才能。まぁ普通なら、取り扱えない筈なの。私から五世代ぐらい遡った魔女が入寂し大魔女となってやっと手に入れたってぐらいなのよね。二個以上は。他にも何かの拍子や鍛錬の賜とか、神の恵みみたいな信仰心で手に入れたという噂はあるけどね。一つなら私もそうだけど魔女だからで片付けても良いのだけれどさ。そして問題は調べた古代召喚術と剣術と高位魔法展開がどれもコードにあるのよ。他のが別の項目にあるんだったら問題なかったんだけどね。普通は多くても初めは一人一つ。これは大原則。なんだけどなぁ? んー。下手に全て覚えて狂うより一つ選んで、様子を見るのが良いと思うな、私は。確か昔話にもあったし」
「なるほど。…………じゃあ、古代召喚術にします」
「一応、一つずつ特性を教えるから、急がなくても良いよ。朋ちゃん。選ばなかった奴も特段使えなくなるという事では無いから」
「なんとなく惹かれたの。古代召喚術」
「ほう。ほほーお。良いね。そういうのなんだよね才能って」
「そうなんだ」
「うんうん。古代召喚術はねー。私の得意な召喚術の前の世代。古の時代のモンスターをも召喚出来るって奴で、結構これが厳ついんだよね。有名な所だとスケルトン。まぁ、唯の死んでしまった人の骨の戦士とか、なんだけど。強い奴だと、とんでもないのも一杯いる。ドラゴンとか、巨人とかもそうだね。ロマンだなー」
姉さんは少し遠くをみてうんうん。ロマンだーと感慨深いのか、頷いている。更に話を聞くとこのスキルを極めた人はまだいないらしく、何処までのスキルか解らないと話していた。姉さんの知り合いにこのスキルを使う人が居たんだけど、上手く使えなかったと話していた様で、才能あるのに上手く使えない。という言葉の意味。スキルの壁が高かったんじゃないかなぁ? という姉さんの考察まで教えてくれた。
「次に、剣術。まぁ、これは剣を極める事が出来るかもしれない才能。でもこのスキルの間口は広く深い。人に与えられしスキルの中で一、二を争うぐらいこの剣術の才能に目覚める人は多い。でもこのスキルも例外なく深いわ。項目はコード、エクスパに基本存在し見習いとしてワードでも獲得可能。このスキルを極めた者も片手で収まる程という話だね。現状での有名所は四人が神クラスまで辿り着いているらしい。まぁ、あくまで有名という話での事だから、もう少し居てもおかしくはない。このスキルも紡がれる者(魔女のスープみたいなもん)が発動し有名になった人までいる。このスキルほど万能。という言葉が似合うスキルは無いけどね。その分このスキルだけだとロマンも無い。いかに他のスキルと重ね併せて応用出来るかはこのスキルの課題なのかもしれないわね。スキルの深淵まで届けばそんなのもいらないだろうけど」
姉さんの判断基準はロマンみたい。うーん。大事なのか、ロマンって。聞いた印象は凄く汎用的。どの状況化でも一番安定はしそう。
剣一本有ればなんとかなりそうだし。悪くないと思うなぁ。
「それから、高位魔法展開…………。これは恐らく魔女のスープが影響しているんだと思うんだけど、私の時は無かったから、何とも言えないのよねー。ちなみにこの高位魔法展開をコードに持つ者は今まで存在しないわ。とりあえず、魔法を簡単に並べていくと、大まかにはこうなるの。『下級魔術。魔術。高等魔術。魔法。大魔法。戦略魔法。極限魔法』で、魔法以上は全て高位魔法展開が必要なのよね。後は、エクスパなどで唱えられる時間短縮とか、触媒いらずなどを付けて、その人のスキルを使うスタイルが決まるわね。やり方に依ってはロマンを求められるわね。脱線するけど、私の知り合いの魔法使いはロマンを求めてか、ドリルを魔法で回して遠心力を使い凄い近接戦をしていたわね。あれは一つのロマンの形だわー」
姉さんはニコニコしながらドリルの話をしていた。…………私にはまだ早い様だ。
「っと、まぁこんな感じなのよね。あぁ、ダイラックの街に図書館があるから、コード百科を見てくると良いわ。もしかしたら、その中にビビッとくる物があるかもしれないし。朋ちゃんの場合はまだ影響による影響下だから、新しい才能が芽生えても全然おかしくないのよ。つまり色んな事を経験してねって事なのそれでも今回出てきた才能は我先に早く気づいてよ見つけてよ覚えてよって言うスキルの言霊の様な物でもあるから、この中から選ぶのはとても良いとも私は思う。愛されるのか愛したいのかの違いに似ているかも」
「こんな所でどうかなあ? あんまり上手く説明出来なかったけど、朋ちゃん。少しは解ったかな?」
「うん。難しかった。ありがとう姉さん。今度図書館に行ってみるね」
「おつかいのついでに行くと良いよ。あぁ、ついでにこの国の事や他の国、この世界のことも少し書物で読んでくると良いよ。朋ちゃんの勉強になるから。後は気になる事でも有ったら調べてくれば良い。図書館は便利な所だから」
その後は雑談して「朋ちゃんに教えなきゃいけない事まだまだあるんだよなー。うーん。間に合うかなぁ?」と話していた。
何に間に合わせようとしているんだろう? 何か急ぎでもあるのかなぁ?
ご拝読頂きありがとうございました!