63遊びに来た賢者さま
「……大丈夫ですか?」
「…………あ、あぁ、うん。大丈夫。ビックリさせちゃってごめんね。ちょっとよそ見して転んだだけだから……」
「……………………治療しますね」
「あ、ありがとう」
夕顔ちゃんは壁に寄りかかっている人の怪我の治療を始めた。
ちょっと転んだにしては結構痛そうにしていて時折、顔をしかめている。
私は周囲の状況を見ると少し大きめの…………何かがある。
見に行くとおっきいネズミが舌を出して気絶か死んでいるのか、どうだろう?
「あぁ、それ私とぶつかっちゃったレモンラットだよ、多分死んでるね…………私はジッカ、アリアダンジョン臨時の見回り職員なんだ」
闘技場の中でたまに見かける制服を着ている茶色い髪が短めな女性。
結構ハキハキとした話し方で話している。
痛みは少し引いてきたみたい。
「私たちはアリアのクエストに来ていて……私が朋で」
「……夕顔です」
「見た感じだと……衝突したんですか?」
「あー。見回りの帰りに視界に何か入った気がしてよそ見したらそこのレモンラットにぶつかっちゃったんだよね。スキルの早足を使って急いでたからなんだけど、うーん。探知魔法が突然切れちゃったのよね、何故か……」
そういえば受付のロベルタさんが話していた気がするね。
見回りが入るダンジョンって。
「治療、終わりました……どうですか?」
ジッカさんは立ち上がり痛めていた方の左足を確かめるように地面を踏んだり、跳ねたりしている。
「うんうん。大丈夫みたい、ありがとう」
「いえいえ……」
「助かったよ、あのネズミ石頭でさぁ。アリアへは何かの依頼か何かで?」
「クエストです」
「クエストっていうと……もしかしてダンジョン初めて?」
「はい」
私がはいと答えるとジッカさんは何故か驚いているみたい。んん?
「……そうか、それは恥ずかしい所を見せちゃったなぁ。雰囲気から結構な強さを感じたんだけど、よく見ると中々に……若いね、しかも制服も着ていないとなると……うーん」
「……来年、学校に行くつもりです」
「そっか、普通はある程度、経験とか知識とかを手に入れてから三、四人のパーティーで挑む人が多いからびっくりだよ」
「そうなんだ……え? 夕顔ちゃんは知ってた?」
「……うん。でも私も早めに来たかったし、アリアと次のダンジョンぐらい迄ならそんなに難易度が高くないって聞いていたから」
「そっかぁー。ごめんね、夕顔ちゃん。私、知らなくて……」
そういうものなんだ……ダンジョンって。
ついでにジッカさんに聞いたら、だって、土の中だよ? 灯りの魔法や松明とか無いと真っ暗だよ、とかお化けは出ないけど……普通怖いでしょ。
あー。これは地域ならではかもだけど悪い事したらお母さんにダンジョンに置いてくわよとか、捨ててくわよとか良く言われたからかしらって感じらしい。
ダンジョンって哲学みたいだね。
「うーん。姉さんにはダンジョンはロマンって聞いてたよ」
「っそれは中々の猛者だなぁー。確かに未知のダンジョンとか上級ダンジョンとかだとお宝も期待できるし夢があるとは聞いたことあるけどさぁ、行きは良いけど帰り道大変だよ? 地下十階とか下ったら地上十階戻らないと行けないんだよ? まぁ、最深部のアイテムや秘匿とされているダンジョンから戻る魔法とかあれば少しは安心出来るけどねぇ……」
「それは大変そうですね……」
「でしょー。それがロマンの正体だと私は思うよ」
「現実は厳しいですね」
確かに洞窟の中とか地下で何日も過ごすのは大変そうだね。
地下にもお家があれば良いのに……。
魔法で何とかならないかなぁ。
もうロマンを追い求める事こそがロマンなのかもね。
仮にお家を作れたらそれはロマンでは無い気がする……。
気の持ち様なのかなぁ。
でもロマンは隠し味みたいな感じで余裕が無いとそんな事、考えられないよね。
……なるほど、確かに猛者だね。
強い敵とかも出てくるだろうし……。
「あ、でも聞いた話だと、とあるアイテムで直ぐに地上に戻れて使用した所へ再び戻れるっていう便利なアイテムもあるみたいだけど、レアそうだよね」
「それは凄いですね、何時か欲しいなぁ。ね、夕顔ちゃん」
「そうね、そんなアイテムがあればダンジョンの難易度は結構下がるかも」
「おっと、そろそろ私は戻るね。結構な時間掛けてるから皆、心配しちゃう。治療してくれてありがとう。このアリアダンジョンも他のダンジョンと比較しても引けを取らないぐらい未知のダンジョンだから。まぁ、地下三階までは特に何も無いけど、気を付けて。後は雰囲気を楽しんでね」
「はい。気を付けます」
またねーとジッカさんは行ってしまった。もう少しお話したかったなぁ。
「…………」
「さて、先へ進もっか、夕顔ちゃん」
「……うん。…………朋ちゃん、今のジッカさんね」
二人で再び先へと歩きながら、夕顔ちゃんの話を聞く。
「うん、どうしたの? 夕顔ちゃん」
「…………あのね、治療の時に観測者のスキルが勝手に発動してね、見えちゃったんだけど」
「え? 何が見えたの?」
「ええとね、あの人、多分、賢者だよ……」
「…………え?」
「何て説明すれば良いのか分からないんだけど、多分、賢者……だと思う」
「…………遊びに来たのかな?」
「多分、私たちを見てたんだよ……」
ダンジョンは賢者。
やっぱり何かあるのかな、意味が。
「賢者って……何だろうね?」
「……………………うーん。勇者と並ぶ凄い人?」
「そんな感じに見えなかったなぁー。そっかぁーなるほど。そうかぁ、そんな感じなんだ。賢者って」
「賢者なのは間違い無いと思うんだけど、何かが欠けている様に視えたんだよね」
「そっかぁー。今度もし会えたら色々聞いちゃおっと」
「あはは、朋ちゃんは凄いなぁ」
私は凄くないけどジッカさん凄いなぁ、何が凄いってそんな感じに見えない所。
あんなに自然に…………あ。
確か雰囲気を楽しんでって言ってたけど……このダンジョン地下三階までってロベルタさんに聞いたんだけど、ジッカさんは「までは」って言ってた気がする…………。
いやいや、考えても仕方ないか。
気のせいかもだし。
でもでもそれ以降もあるとしたら――――って考えるのはロマンだよね?
うんうん。だって、このダンジョンとっても古くて、それで未だに地下三階以降が見つかってないって考えると――――楽しいよね。
わくわくだね。
何か、あるよね…………絶対。
更にてくてくと進む私たち。
ひぃちゃんが中々帰ってこない……って思ったら、行き止まりだった。
えー。てことはこれで……。
「行き止まりに石版と扉があるね……」
「これで地下一階はお終いだね……えーと『初級ダンジョンアリア 地下一階 踏破 記念碑』
『ダンジョンの加護あらんことを』『地下三階 踏破により別ダンジョンの資格を得ます』『地下三階 踏破により記念品が貰えます』」
ひぃちゃんは記念碑の上に立ち一言「ひぃ」と。何だかひぃちゃんに祝福された感じになってるね。
「夕顔ちゃん、どうしようか?」
「……勿論、行こう、朋ちゃん。此処で戻るのは流石に二度手間な気がするよ」
「…………解った」
「……しかもまだ何とも戦ってないし」
「そいうえばそうだね」
「あはは、いえてない、いえてない」
私たちは地下一階の踏破によりダンジョンの加護を手に入れた――――らしい。
いやいや、手に入れた私たちは次の地下二階へ。
記念碑の後ろに扉があって扉を触ると触っていた筈の扉は消えた。
そして目の前には緩やかな坂がある。
「行こう、朋ちゃん」
「うん。おーらい」
坂道の下り途中で明かりの魔法が一旦切れた。
二人で「キャッ」オマケに「ひぃ」真っ暗のダンジョン――――怖っ。
直ぐに明かりの魔法を唱える。
「暗いのって怖いね」
「ほんと、何にも見えなくなるね」
明かりの魔法は自身の周囲を照らしてくれる仕様になっており本人が動くとそのまま明かりも動く。
本人自身が照らしている感じなんだけどそうでもないんだよね、コレ。
力の入れ具合により応用で強く光らせる事も出来る。
私はこの魔法を一番始めに取得したから結構な思い入れもあったり。
明かりで照らすって良いよね。




